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米国における独立取締役選任の潮流

2019年5月31日 PDF
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情報センサー2019年6月号 JBS

ニューヨーク駐在員 公認会計士 吉田 哲也

当法人シニアパートナー。日本で多国籍企業の監査に従事した後、2016年7月より米国EYニューヨーク事務所に日系企業担当ダイレクターとして駐在。多数の日系企業の米国事業展開のサポートに従事。

ニューヨーク駐在員 公認会計士 山賀 信哉

日本にて、大手多国籍企業のグローバル監査、幅広い業種の監査業務に従事した後、2016年9月より米国EYニューヨーク事務所にシニアマネージャーとして駐在。米国においても、ケミカル、工作機械、ライフサイエンス、商社を中心とした日系企業の幅広い業種の監査業務に従事している。

Ⅰ はじめに

本稿では、EYが実施したFortune100企業における2018年中に新たに選任された独立取締役の属性と取締役会構成の開示に関する調査結果から、米国での独立取締役選任に見られる近年の動向を紹介します。同調査は、前回は16年を対象として実施されており、比較可能性の観点から同じ83社を対象としています。

Ⅱ 独立取締役の分野別専門性

米国における独立取締役は、当該企業や子会社の役職員以外で、取締役としての責任を果たす上で独立した判断を行使するのに妨げとなる関係を持たない者である必要があり、証券取引委員会(SEC)規則、証券取引所規則等でそれぞれ要件が定められています。
今回の調査対象企業の71%が少なくとも1名の新任の独立取締役を選任し、27%が2名以上を選任しています。前回の調査ではそれぞれ56%と21%であったことから、独立取締役は安定した増加の傾向を表しています。その中で、他社の現任もしくは元CEOを独立取締役に選任するといった傾向から、より幅広いスキル、専門知識や経験をもった個人を選任する傾向が見られました。新任の独立取締役の約25%がイノベーション、組織や環境の変化に対応するためのスキルや経験を理由として選任されており、10%が資産運用や投資ファンドでの経験を通じた投資家の視点を取締役会にもたらす利点を理由として選任がなされています。専門分野の傾向では、新任の独立取締役の専門分野で最も頻繁に引用されている分野は国際ビジネスでした。次いでコーポレートファイナンス、産業・業種の専門知識となり、新任の独立取締役のおよそ半数はこれらのカテゴリのうち少なくとも一つの分野と関連しています。トップ10の専門分野は<表1>のとおりです。

表1 新任独立取締役の専門分野トップ10

Ⅲ 独立取締役の委員会別選任

各種委員会への選任については、前回の調査では独立取締役は監査委員会への選任が多いという傾向でしたが、<図1>のとおり18年は指名・ガバナンス委員会への新規の選任が前回の26%から30%に、報酬委員会への選任が19%から23%へとそれぞれ増加し、各種委員会への選任がより均等になされていました。

図1 委員会への選任状況

Ⅳ 性別と年齢構成

女性の独立取締役は新任候補者の約40%を占めており、この結果18年には全体の独立取締役の27%が女性となり、16年の25%から増加しました。また、変化はゆるやかですが、独立取締役の平均年齢が全体的に下がってきています。年齢層別の新任の社外取締役を見ると60歳未満の割合は16年の51%から18年には58%に増加し、50歳未満の人の割合は8%から14%に増加しています。

Ⅴ 取締役会構成に関する開示

取締役会構成に関する注目の高まりから、これに関連する開示は一貫性と比較可能性が向上しているといえます。取締役会のスキルに関する開示は<図2>のとおり、前回の調査では34%であったものが今回63%に、多様性(任期、性別、年齢構成等)に関する開示は49%から72%に、多様性に対する方針の開示については64%から78%に増加しています。加えて取締役会の構成が、ボーダレス化し変化するビジネス環境や企業の戦略とどのように整合して企業にベネフィットをもたらしているかに関する開示が多く見られました。全体の14%では取締役の指名の理由や資格について明確に経営戦略への関連付けが行われ、新任者の専門分野や経験がもたらす経営戦略への貢献や重要性について詳細な説明が行われています。

図2 取締役会の多様性に関する開示

Ⅵ おわりに

今回の調査から、米国企業では独立取締役の選任に当たり、戦略上の優先事項と取締役のスキルや専門知識、経験との整合を考慮した上で取締役会の多様性を検討していることが分かります。また、独立取締役を含む取締役会の構成が企業にとって重要事項であり、それが戦略上の優先事項に対して貢献しているかについて投資家やステークスホルダーに効果的に伝えていくための開示の充実を推進しようとする動きがあることも読み取れます。

(注) 本稿はEY Center for Board Mattersに掲載された「Independent directors: New class of 2018」を基に作成しています。

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