新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響 第12回 消費財産業
情報センサー2019年2月号 業種別シリーズ
消費財セクター 公認会計士 若山 巌太郎
主に消費財企業の監査業務に従事。業種は、消費財産業を中心に製造業、小売業、建設業などの会計監査、IFRS導入支援業務に従事。当法人の消費財セクターナレッジメンバーとして、執筆や各種ワーキンググループの活動を行っている。
Ⅰ はじめに
2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。これを踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)は日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性があるものとするなどの観点から、収益認識に関する包括的な会計基準の開発について検討を進めてきました。18年3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)を公表しました。
本連載では、こうした状況を踏まえながら、消費財の製造業者に特化した収益認識の論点について解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。
Ⅱ 消費財の製造業者における収益認識の論点
新たに公表されたわが国の収益認識会計基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理および開示に適用されます。約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することとされ、収益を認識するために、五つのステップを適用するとされています。
ここでは、収益認識会計基準が適用された場合、消費財の製造業者において一般的に影響があると考えられるステップ3(取引価格を算定する)の変動対価について、販売奨励金のうち代表的ないわゆるリベートを例に解説します。
なお、販売奨励金とは、消費財の製造業者等が得意先に対し、販売促進の目的で金銭や資産を交付することをいいます。大きく捉えると、リベートのほか、販売委託料の支払い、景品等の支給、サンプル・試供品の提供、新商品発表会やマネキン(店頭において各種商品の宣伝・販売促進に当たる販売員)代、販促物品といった販売促進費や広告宣伝費なども含まれます。
新たな収益認識基準による会計処理の概要は次のとおりです。
1. リベートの計上区分
収益認識会計基準において、リベートは変動対価に含まれるものとされています。ここで、変動対価とは、「顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分」をいい(同基準50項)、この対価の額が変動する変動対価に含まれる取引の具体例としては、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等があります(同適用指針23項)。
消費財の製造業者において、小売業者や卸売業者(以下、小売業者等)に対してリベートを提供することは一般的です。これについて、適切な会計処理を決定するために、製造業者はまず、顧客に支払われた又は支払われることになる対価が区別できる財又はサービスに対する支払であるのか、取引価格の減額であるのか、又はその両方であるのかを判断することが求められます(同基準63項参照)。すなわち、企業による顧客への支払いが、取引価格(売上高)の減額以外のものとして取り扱われるためには、顧客が提供する財又はサービスが区別できるものでなければなりません。
これに基づいてリベートを考えてみると、一般的に、リベートの支払いは製造業者が小売業者等から受領する別個の財又はサービスとの交換によるものではないため、取引価格の減額として処理され売上高から控除されます。
一方で、企業のチラシやマネキン等に関する費用の支払いは、一般的には製造業者が支払先から受領する別個の財又はサービスとの交換によるものであるため、販売費および一般管理費に計上される可能性が高くなります。
2. 取引価格の減額の認識時期
収益認識会計基準において、顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の①又は②のいずれか遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて)、取引価格を減額します。
① 関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時
② 企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(当該支払が将来の事象を条件とする場合も含む。また、支払の約束は、取引慣行に基づくものも含む。)(同基準64項)。
これをリベートについてみると、リベートは製品を小売業者等に販売する前に小売業者等と製造業者で契約又は合意等されるのが一般的であり、その場合には、リベートは当該製品を小売業者等に販売した時点で取引価格の減額として認識されます。
3. 変動対価の見積方法
顧客に支払われる対価に変動対価が含まれる場合には、企業は期待値法又は最頻値法のいずれかを用いて権利を得ると見込む金額を見積もります(同基準50項・51項)。また、<図1>のように、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めることを考慮して、見積額を決定します。加えて、見積もった取引価格は、各決算日に見直す必要があります(同基準55項)。
一方、負債側でみると、顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額については、返金負債を認識します(同基準54項)。
これを以下のリベートの<設例>で考えます。
Ⅲ おわりに
わが国の消費財産業における現行の実務では、販売奨励金についてさまざまな会計処理が許容されてきました。そのため、企業の適用していた従前の会計方針によっては、収益認識会計基準の適用により売上高に大きな影響を及ぼす可能性があります。
販売奨励金はその名目や目的が多種多様であり、契約内容や取引形態もさまざまです。そのため、契約書や取引の実態に照らした個別具体的な取引の検討、各取引形態における論点の抽出と会計方針の決定、既存のシステムの変更、新たな内部統制を整備する必要性等について、整理検討しておくことが適切と考えます。