情報センサー

米国機関投資家5つの視点

2018年9月28日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2018年10月号 JBS

ニューヨーク駐在員 公認会計士 吉田 哲也

当法人シニアパートナー。日本で多国籍企業の監査に従事した後、2016年7月より米国EY New York事務所に日系企業担当ダイレクターとして駐在。多数の日系企業の米国事業展開のサポートに従事。

Ⅰ はじめに

近年ESG投資が注目をあびていますが、企業が経営戦略を策定しリスクやビジネス環境の変化に取り組む一方で、機関投資家は投資家として優先すべきトピックに基づいて長期的な投資や議決権行使の方針を継続的に検討しています。
本稿では、資産運用会社、公的年金基金、労働年金基金等、60の米国の機関投資家に対して2018年初めにEYが実施したインタビューのうち、①ボード構成の多様性②ボードに求める専門知識③気候変動と環境への対応④人材に対するマネジメント⑤戦略・パフォーマンスと整合した幹部報酬という5つの視点からの質問と、それらに対する回答について紹介します。

Ⅱ 機関投資家の回答

1. ボード構成の多様性

今回インタビューの対象となった機関投資家の82%が、ボード構成の多様性の議論は優先すべきトピックであると回答しました。このトピックに関して、67%の投資家がボードが専門性や経験値において多様なメンバーで構成され、斬新な目で課題特定や問題解決が行われているかを注視していると回答しています。また、39%がメンバーの在任期間や交替・承継計画プロセスを重視しているとし、23%がボードメンバーのバックグラウンドに関する詳細な開示を求めていると回答しています。

ボード構成の多様性は重要なトピックか?

2. ボードに求める専門知識

ボードが専門知識の向上を図るべき領域として、回答の90%以上が、①テクノロジー②産業に関する知識③気候・環境問題に対する知識④リスク対応⑤戦略の5つの分野の少なくとも一つを指摘しました。サイバーセキュリティ、人工知能(AI)、電子商取引を含むテクノロジー関連の専門知識については、50%超が重要であると回答しました。

ボードが専門知識の向上を図るべき領域は何か?

3. 気候変動と環境への対応

企業の気候変動リスクや環境問題への取り組みについては、全体の64%が優先的なトピックであると回答しています。気候変動に注目する投資家の割合は、実に16年以来3倍以上となっており、実際の気候変動、米国環境政策の変化への対応、投資家自身の利害関係者による関心の高まりを反映していると考えられます。このトピックに関し、79%が気候変動が投資先のビジネスに何らかの形で重大なリスク要因になると考えていると回答しており、48%が透明性と説明責任の観点から報告の強化が必要であると述べています。また、30%は戦略や取り組みについて協議が必要であると回答しています。

気候変動・環境問題は重要なトピックか?

4. 人材に対するマネジメント

企業の人材に対するマネジメント方針について、全体の52%が優先的なトピックであると回答しました。このトピックに関し、38%の投資家は、上級管理職から広範な従業員に至るまで、その採用、雇用維持・訓練に関わるさまざまな対応をボードと話し合い、人材への注力を企業に求めているとしています。
また、28%の投資家は企業文化に注目しているとし、環境問題への取り組みや地域社会へ貢献を行う優れた企業文化を持つ企業は、優秀な人材を惹きつけ長期的な競争力の維持が可能であると考えています。

人材に対するマネジメントは重要なトピックか?

5. 戦略・パフォーマンスと整合した幹部報酬

36%の投資家が、企業は業績と経営幹部の報酬をどのように関連付けているのかに注目していると回答し、企業が果たすべき社会的責任を含む長期的な優先事項と、報酬額決定の関連をより良く理解したいと述べています。彼らの一部は、短期的な業績に対するインセンティブとこれに関する報酬の大きさに懸念を持つ場合があると述べ、企業の長期的な優先事項と一致しない報酬インセンティブは、企業のリスク・カルチャー、倫理やコンプライアンスに影響を与える懸念があるとしています。

Ⅲ おわりに

機関投資家は、投資先企業が長期的・持続的な成長を達成するため、短期的な業績に加えて、ビジネス環境の変化、技術革新や環境問題といった課題にどのように対応しているかに着目しています。企業はこれらのトピックに関する投資家との対話を通じて、短期的・長期的なビジネス変革の進め方について投資家の理解とサポートを得ることが可能になります。企業が投資家との対話を進めていく中で、彼らの視点の変化を理解し、経営戦略やマネジメントに反映させていくことは、競争の優位性を保つために重要といえるでしょう。

(注) 本稿はEY Center for Board Mattersに掲載された「2018 proxy season preview」を基に作成しています。

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