2018年度において公表が予定されている基準の改訂
情報センサー2018年新年号 IFRS実務講座
IFRSデスク 公認会計士 長瀬 充明
国内監査部門にて卸売業、製造業、サービス業などの上場企業の会計監査に従事。その後IFRSデスクに異動し、IFRS導入支援、セミナー講師、執筆などを担当している。
Ⅰ はじめに
2018年度より、国際会計基準審議会(IASB)が主要プロジェクトとして長年取り組んできた収益認識基準及び金融商品基準の適用が始まります。また、18年第1四半期には、IFRSの基礎となる財務報告の概念フレームワークの改訂の公表が予定されており、18年度はIFRSを取り巻く環境が大きく変化する年になりそうです。
IASBは、財務諸表のさらなる改善に向けて、財務諸表の表示及び開示の充実を図るプロジェクトや現行基準の適用から浮上した課題に対処するためのプロジェクトなどに取り組んでおり、18年度においても新たに四つの基準の改訂が公表される見通しです。
本稿では、これらの中から、18年度において公表が予定されている基準の改訂の概要を取り上げています。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
Ⅱ 財務報告の概念フレームワークの改訂
IASBは、15年に公表された概念フレームワークの改訂案に対するコメントレターの審議を継続しており、18年第1四半期に最終化する予定です。概念フレームワークの改訂は、特定の会計処理の変更を直接求めるものではありませんが、現行のIFRSで取り扱われていない取引や事象に関する会計処理を検討する際に影響を及ぼす可能性があります。また、概念フレームワークは、IASBがIFRSの規定を策定する際の指針となるため、今後のIFRSの開発動向を把握するためにはその理解が欠かせないと考えられます。
Ⅲ 基準の改訂
1. 事業の定義の明確化
(1) 背景
IFRS第3号「企業結合」(以下、IFRS第3号)では、「事業」を定義し、当該事業の取得について、のれんや取得関連コストの取扱い、繰延税金の認識など、資産の取得とは異なる会計処理を定めているため、ある取引が事業に該当するかどうかの検討が重要です。しかし、財務諸表の作成者からは、現行基準における事業の定義が曖昧であるため、IFRS第3号の適用が困難であるとの意見が寄せられています。IASBは、こうした懸念に対処するために、16年6月にIFRS第3号の改訂案を公表し、事業の取得と資産の取得を区別するために有用となるガイダンスを示しました。
(2) 事業の定義を満たす要件とは
IFRS第3号の改訂案では、ある取引が事業に該当するための要件として、以下の二つの事項を明確にしています。
- アウトプットに寄与するインプット(例えば、製造施設や知的財産など)が存在すること
- プロセス(例えば、製品の製造や不動産の運営など)が存在し、当該プロセスが実態を伴っていること
さらに当該改訂案では、プロセスが実態を伴うかどうかの評価に関して設例を含む追加のガイダンスを提供しています。
また、前記の評価に際して、スクリーニング・テストを任意で実施することが提案されています。当該テストでは、取得した総資産の公正価値が単一の資産又は類似の資産グループに集中しているかどうかを検討します。集中していると判断された場合には、当該取引は事業の取得に該当しません。
(3) 基準の改訂の発効予定日
IFRS第3号の改訂は、18年上半期に公表される予定です。当該改訂は、20年1月1日以降に開始する事業年度より行われる企業結合に適用され、早期適用も認められる予定です。
2. 流動負債と非流動負債の分類
(1) 負債の分類の基礎が明確化
IAS第1号「財務諸表の表示」(以下、IAS第1号)は、流動負債と非流動負債の分類要件を定めています。しかし、当該規定の実務上の解釈にばらつきがあるため、企業間の比較可能性が損なわれているとの批判が寄せられています。IASBは、このような懸念に対処するために、15年2月にIAS第1号の改訂案を公表し、負債の分類要件の明確化を図っています。具体的には、流動負債と非流動負債の分類が、期末日において企業が有する権利に基づくことを明確にするとともに、当該権利に関して次のように取り扱うことを示しています。
- (原則)負債の決済を期末日後少なくとも12カ月にわたり延期できる権利を企業が有していない場合、当該負債を流動負債に分類する。
- (例外)既存の借入枠に基づき、借入をロール・オーバーする権利がある場合には、当該負債を非流動負債に分類する。
(2) 基準の改訂の公表予定日
概念フレームワークの改訂に向けた負債の定義に関する審議が終了した後に、負債の分類に関する議論を再開し、18年下半期にIAS第1号の改訂を公表する予定です。
3. 制度改訂、縮小又は清算時の再測定
(1) 当期勤務費用及び利息純額をどのように算定すべきか
IAS第19号「従業員給付」(以下、IAS第19号)は、制度改訂、縮小又は清算(以下、制度改訂等)の発生時に確定給付負債(資産)の純額の再測定を求めています。しかし、そのような場合であっても、当期勤務費用及び利息純額の計算仮定を見直すべきでないことが他の規定において示唆されているとの指摘が寄せられています。IASBは、制度改訂等が発生した場合、当該事象を踏まえて当期勤務費用及び利息純額を算定することが適切であると考えており、15年6月に公表したIAS第19号の改訂案において、以下のガイダンスの追加を提案しています。
①制度改訂等の発生時において、確定給付負債(資産)の純額を次のように再測定する。
- 再測定後の当期勤務費用及び利息純額は、再測定時に用いた仮定を使用する。
- 再測定後の利息純額は、再測定後の確定給付負債(資産)の純額に基づいて算定する。
②制度改訂等の発生前の当期勤務費用及び利息純額は、過去勤務費用や清算損益には含めない。
(2) 基準の改訂の発効予定日
IAS第19号の改訂は、18年1月に公表される予定です。当該改訂は、19年1月1日以降に開始する事業年度から将来に向かって適用され、早期適用も認められる予定です。
Ⅳ おわりに
本稿で取り上げた公表が迫っている基準の改訂の発効日はまだ先ですが、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬(ごびゅう)」では、未適用の基準に関する情報開示を求めています。18年度から適用される収益認識基準や金融商品基準だけでなく、今後予定されている基準の改訂についても、その内容を把握し、財務諸表に与える影響を分析することが重要です。