情報センサー

デジタル戦略時代におけるCFOの役割

2018年1月8日 PDF
カテゴリー 特別対談

情報センサー2018年新年号 新年特別対談

EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーなどの分野における世界的なリーダーです。新日本有限責任監査法人は、EYが誇る日本におけるメンバーファームです。2018年の新年特別対談は、EY Japanのチェアマンであるスコット K. ハリデーと新日本有限責任監査法人の理事長である辻 幸一が、世界および日本経済の展望、最先端技術がファイナンス部門や会計監査に及ぼす影響などについてお伝えします。

スコット K. ハリデー氏(写真左)と 辻 幸一氏(写真右)

EY ジャパンエリア・マネージング・パートナー
EY Japan チェアマン
スコット K. ハリデー(写真左)

EY ジャパン カントリー・マネージング・パートナー
新日本有限責任監査法人 理事長
辻 幸一(写真右)

Ⅰ 堅調な経済を背景に加速する社会の変化

──新しい年を迎え、まずは昨年の世界および日本経済を振り返りつつ、2018年の企業活動への影響についてご意見をお聞かせいただけますか。

ハリデー 2017年の世界経済は全般的には堅調であり、株式市場にもそれが反映され株価が上昇しました。こうした安定性を背景に、世界中でさまざまなビジネスチャンスが拡大傾向にあります。それらのビジネスチャンスを獲得するためには、マーケットに対して影響を与えている要因などを把握することが重要になります。例えば、人口動態の変化や全ての業種で見られるテンポの速いテクノロジー主導の変化は、今日のビジネスを牽(けん)引しているメガトレンドです。世の中の変化がますます加速しているため、積極的なテクノロジーの活用とイノベーションの促進によって効率化と生産性の向上を図り、変化への迅速な対応が求められるようになるでしょう。

 日本では昨年第4次安倍内閣が発足し、今後の動向を注視しつつも、比較的昨年に同調した状態が続くものと思われます。世界情勢については、さまざまな懸念事項が考えられます。昨年は、地政学的な不確実性が増す中、自国の経済に与えるインパクトについて多くの議論が交わされました。世界の政治や経済の激動による事業環境の変化を懸念する局面もあり、日本の経済や企業活動への影響は、まだまだ先の読めない状況が続くと思われます。予測が難しい状況だからこそ、AIやロボティクスといった先端デジタル技術を積極的に導入することにより競争力を強化し、効率性と高付加価値を追求することが、企業が勝ち抜くために必要なアクションだと思います。昨今のデジタル技術の進化は、業種を問わずあらゆる企業活動に大きな影響を及ぼし、産業構造自体さえも変わらざるを得ない状況になってきています。しかも進化の速度が非常に速まっています。近年、「Innovative Technology」、あるいは「Emerging Technology」、時として「Disruptive Technology」といわれるような新規の技術が世の中のさまざまな局面で取り上げられています。これらの中にはわれわれの5年後、10年後の生活や企業活動をまるで変えてしまう可能性を持ったものもあるでしょう。これらが企業活動の場において、意思決定への介入、業務効率性の飛躍的向上をもたらすなどさまざまな見方があります。しかしながら、膨大な業務を前に、毎日待ったなしのジャッジメントをし、リーダーシップを発揮する必要がある役職者の方にとって、デジタル技術の進化への対応と活用が、引き続き今後の企業戦略の要となってくるでしょう。

ハリデー 企業戦略といえば、少し前まではサプライチェーンや財務、人事に関することが多くを占めていましたが、今や筆頭はデジタル戦略です。現在は、ユーザー、代理店、メーカーなど企業を取り巻くさまざまなステークホルダーとどのようにコミュニケーションを取っていくか、そのためにはどのようなデジタル戦略を取っていくのかが、何よりも重要な課題となっています。変わらないコア・ミッションと、目まぐるしく変わっていく現代のテクノロジー環境を、どのようにつなげていくのかが命題となるでしょう。その際には、課題とテクノロジーの位置付けを明確にし、経営とテクノロジーをつなぐ人材を確保するといった組織の体制をどれだけ早く整えることができるかが、その先を大きく左右するとも考えられます。

Ⅱ デジタル戦略で重要度を増すCFOとファイナンス部門

──テクノロジーの進歩が進む中で、CFOやファイナンス部門に求められるものも非常に増えています。企業のCFOやファイナンス部門には、どのような変革が求められているとお考えですか。

 デジタル技術の進化により、あらゆるデータが集約されるファイナンス部門は、ビジネス上の判断において、より重要な存在となってくると思います。CFOは企業組織やプロセスを常に監視して本来提供すべき付加価値は何かを問い続け、組織やプロセスを健全な状態にすることが求められます。通常、トップマネジメントが業務の管理を行う場合はプロセス全体を付加価値の連鎖として見なし、部分最適ではなく全体最適の視点で全体を可視化して、改善のPDCAサイクルを回していく必要があります。よって、経営に資するCFOとなるために、日々直面している膨大な業務にデジタルテクノロジーを活用することにより、人がなすべき「判断」という業務に集中できる環境を作るといった変革が必要でしょう。つまり、デジタルテクノロジーがCFOやファイナンス部門へ与える影響を想定し対応することにより、今後のファイナンス部門の機能の強化や高度化につながるのではないかと思います。

ハリデー ファイナンス部門は、大量のデータをいかに整理し、活用するかが重要になっており、すでに多くの企業でAIの導入も進んでいます。そして、デジタル技術の進化に伴い、当然ながらCFOの役割も変わってきています。ファイナンス部門が整理し、分析・加工したデータを、トップマネジメントの判断のためにダッシュボード化することで、今後の可能性を示唆する指標として、CEOと議論し、経営判断をしていくのがCFOの重要な役割となるでしょう。

スコット K. ハリデー氏

「大量のデータから経営指標を示すことがこれからのCFOの重要な役割です。」

Ⅲ 自動化で効率化を図り企業価値の向上業務に集中を

──これまで以上に経営センスや判断力が求められるということですね。多くの企業が国外に進出していますが、CFOはどのようなことに留意して進めていくべきでしょうか。

ハリデー まず、CFOは常に市場を評価し、変化を充分に活用する機会を探し求めなければなりません。次に、CFOは、国際舞台で競争するためのスキルを組織の中で確実に構築していく必要があります。そして、CFOが高い信頼性と組織にとって「正しいことを実行する」模範を自ら示すことです。また、これらを遂行するために、CFOが直面している複雑で手間のかかるプロセスをAIやロボティクスの導入により自動化することで、効率化と柔軟性を高め、CFOが成すべきことに集中できるようになると考えます。

 クロスボーダーに活動している企業のタックスリターンなどは、まさに自動化による大幅な効率化が図れる業務ですね。これからは、一定のルールに従った処理を行うだけの業務を機械化して効率性を高めていくとともに、人間にしかできない作業、すなわち正解が一つでない業務や状況が毎回異なるような業務、コミュニケーションを必要とする業務によっていかに企業価値を高めていけるのか、人員配置も含め体制と業務の在り方をCFOは考える必要があります。技術が進化すれば情報の活用方法もビジネスモデルもどんどん変わっていきます。固定観念にとらわれることなく、柔軟かつ斬新な発想ができれば、予想もしない急速な変化もチャンスとすることができるでしょう。

辻 幸一氏

「柔軟かつ斬新な発想で臨むことで予想外の変化もチャンスとなし得ます。」

Ⅳ 自ら変化の波に乗ることがさらなる成長の鍵に

──変化を捉えて柔軟に進めていくことが重要だということですね。さらに企業が成長をするための戦略として最も有力だと思われることについてお話しいただけますか。

ハリデー 何よりも、企業は明確なビジョンと戦略を掲げる必要があります。自らが事業を営むマーケットを深く理解し、そこで起こる変化を常に注視していなければなりません。ディスラプションの波に飲み込まれないようにするというよりむしろ、自身のビジネスをどのようにディスラプトするか考える必要があります。また、企業は変化にオープンになり、変化を好意的に受容する組織を擁する必要があります。組織のためにイノベーション思考を掲げ、それを醸成しなければなりません。これからは絶え間ない変化の時代なのです。企業はそれを受容しなければなりません。

 また、有力な成長戦略として挙げられているのは、M&Aであり、次に新しい地域への市場の参入だと思われます。企業のバランスシートは改善しており、積極的なM&A戦略を展開できる状況にあります。国内はもとより国外においてもM&A市場は活発で、日本市場におけるここ数年のM&Aの件数は、増加傾向にあり伸長しています。競争が激しいため多くの企業が国内外の両方でターゲットを探していますが、この戦略にも、為替のリスク、M&Aを実行し成果を出せる人材の不足などの問題も考えられます。さまざまな懸念事項があるため、企業のリーダーは自らの課題に対応していくために、テクノロジーと人材、サプライチェーンをより効率化し、それらを強みとして動いていく必要があると思います。

Ⅴ デジタル戦略時代も企業活動の主役は「人」

──デジタル技術の進化に伴い多面的な展開をされていますが、EYのテクノロジーを活用した現在の取り組みと、今後の方向性についてお話しいただけますか。

ハリデー EYでは、最新デジタル技術を社内の研修やクライアントへのサービスに取り入れています。例えば、EYでは全世界25万人以上のプロフェッショナルに最新のデジタル技術に関する研修プログラムの受講を義務づけており、また監査手続きにはiPadとiPhoneを活用しています。さらに、世界中のクライアントのアイデアやニーズを、新しいサービスの研究や導入に活用するため、数年前にイノベーションセンターを設立しました。また、クライアントとのイノベーションに関する意見交換の場として、「WaveSpace」と呼ばれる最新デジタル技術を導入したファシリティも備えています。今やEYでは1,000以上のソフトウエアロボットが稼働しており、多くの新しいテクノロジーツールをアシュアランス、アドバイザリー、税務、トランザクションサービスのために活用しています。テクノロジー主導の変化は、今後も確実に加速していくでしょう。現在そして未来のビジネス環境に対応し、クライアントにより良いサービスを提供できるよう、EYはこのような変化を正面から受け止めて、さまざまな取り組みを積極的に行っていきます。

 新日本有限責任監査法人では、監査先企業や社会の期待に応えるため、また監査品質のさらなる向上のため、EYの先行している技術を取り入れながら、データ分析やAIの監査への活用を積極的に進めています。一例ですが、AIが財務諸表の訂正傾向などから将来のリスクを予測したり、異常仕訳を自動的に検知したりする技術を監査現場に導入し、効率的で深度ある監査の提供を行っています。そして、監査業務の効率性を高めることにより、監査人は企業のビジネスの理解、専門性に基づく分析や判断、および被監査会社とのコミュニケーションに、より集中できるようになります。

ハリデー 先端デジタル技術がいかに進化しても、クライアントのビジネスも私たちのサービスも、主役が人であることは変わりません。技術の進歩による業務の高度化や合理化の実現とともに、その業務を担う人にも変革が求められています。

 監査業界を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、社会から寄せられる期待はこれまで以上に高まっています。私たちはこれからも進化し続け、グローバル組織としての多様な視点と専門性を融合させながら、クライアントの皆さまのリスクや課題の解決を支援していきます。

ハリデー 「より良い社会の構築を目指して」というEYの理念は、私たち全ての目標です。そのためには、日々、高品質な監査の実践を追求していくことです。2018年も、EYが一丸となって、理想の実現に向けて歩んでいきたいと思います。

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