情報センサー

SDGsの資金調達におけるインパクト投資の現状と可能性について

2017年11月30日 PDF
カテゴリー FAAS

情報センサー2017年12月号 FAAS

FAAS事業部 CCaSSグループ バヤルサイハン・アリウンザヤ

EYアドバイザリー(株)(現EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株))にて、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)関連サービスに従事。主に企業のD&I戦略策定や課題分析プロジェクトに携わる。2016年、当法人に入所。サステナビリティとビジネスの分野においては、投資利益とソーシャルインパクトを追及するソーシャルインパクトボンドを専門にしており、またサステナビリティ戦略策定、ESG分析と社会インパクト評価とKPIs設定など多数のプロジェクトに携わる。

Ⅰ  はじめに

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で、全ての人々の平和と繁栄を確保することを目指す普遍的な枠組みです。グローバルにおける多くの報告書によると、SDGsを達成するためには、膨大な資金不足の問題を解決しなければなりません。この資金不足解消のためには、民間資金の活用が不可欠であり、特に投資家に対して新たな投資機会への貢献を呼びかけています。本稿では、「SDGs資金調達のためのインパクト投資の現状」と「インパクト投資家はいかにSDGsを投資に結び付けているか」について概説します。

Ⅱ   SDGsの資金不足におけるインパクト投資の可能性

1. SDGsの達成に向けた資金不足の現状

SDGsを達成するためには、先進国と途上国の双方で多額の資金が必要です。国連の調査によると、30年までに年間約5兆から7兆ドルの投資が必要と推定されており、今後途上国全体で年間2.5兆ドル不足すると見積もられています。しかし、現状のSDGsの投資額は、必要とされている投資額よりもはるかに下回っており、特に途上国への投資不足額が大部分を占めています※1

2. インパクト投資の可能性

これを受け、16年10月に国連事務総長は、革新的な金融商品の開発と投資に加え、民間資金の活用によりSDGsへの投資を促進させることを目的とする「金融イノベーション・プラットフォーム」の設立を発表しました。このプラットフォームは、SDGs達成に向けたプロジェクトへのインパクト投資に関する戦略作成などを支援し、SDGsの関連投資に関わるリスク・リターン・プロファイルを改善して、機関投資家によるインパクト投資を最大化することを最終的な目標としています。それでは、インパクト投資とは何のことでしょうか。また、投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。
インパクト投資とは、経済的リターンにとどまらず、社会的・環境的インパクトと両立させることを目標とする持続可能な投資のことであり、win-winソリューションとして言及されることが多くあります。
しかし、インパクト投資は経済的リターンの不確実性とインパクト測定の複雑さなど批判が多く、決して全ての人に受け入れられているわけではありません。インパクト投資は全てを解決できる特効薬ではありませんが、社会の課題解決においてビジネスが補う役割を強調しており、また、さまざまな投資家が共感できる投資概念として称賛されています。
07年に導入されて以来、インパクト投資を投資戦略とする投資家が増えており、すでに初期段階の市場ではないと言えます。国際組織のグローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク(GIIN)の調査によると、インパクト投資の市場が13年から16年の間に441%伸びています。また、16年のインパクト投資額は約1,140億ドルと推定されており、この額は、17年に1,435億ドルまで伸びるという予測が導き出されています(<図1>参照)。

図1 インパクト投資の成長

この大幅な伸びにもかかわらず、現在のインパクト投資市場は世界金融市場のわずか0.2%にすぎませんが、逆に言えば、SDGsの資金ギャップを埋めるまで市場が成熟する十分な可能性があるということです。例えば、このシェアが2%まで伸びれば、インパクト投資は約2兆ドルになると想定できます※2。この成長を加速させるには、投資家同士の効果的なコミュニケーションとインパクト投資に対する投資家の信頼、また、投資家、NGO、政府など、全てのステークホルダーと対話ができるプラットフォームを構築するなど、投資環境の整備が不可欠と言えます。
インパクト投資は、SDGsの資金調達にふさわしい解決策の一つとして提案されていますが、現状では、投資家にとってリスクが高いと見なされています。
SDGsへのインパクト投資を増やすために、GIINはSDGs発表の1年後に、世界中の投資家やアセットマネージャーに向けて、インパクト投資を通じてSDGsへの貢献を呼びかけるキャンペーンを実施しました。その際、GIINのCEOであるアミット・ボウリ氏は、SDGsにおけるインパクト投資の重要性を次のように強調しました。

インパクト投資を通じて、十分な資金をSDGsの目標となる分野やプロジェクトに投入できれば、SDGsは達成可能でしょう。SDGsをより現実的なものにするには、より多くの機関投資家がこの世界を良い方に変える、このような取組に参加することが望まれます。もう時間を無駄にはできません。

Ⅲ インパクト投資家におけるSDGsの活用とそのインパクト評価

16年のGIINによる投資家調査では、多くの投資家は、社会的・環境的インパクトをもたらす投資の理由付けとしてSDGsを活用しており、さまざまなステークホルダーとのコミュニケーションとエンゲージメントツールとして役立てていると言及しています。前述のGIINの調査では、6割のインパクト投資家が、投資の経済的パフォーマンスをSDGsに結び付けて「積極的に測っている」、または「近々測る予定である」と述べました。また、投資家に対するSDGsへの貢献を呼びかけるキャンペーンの一つとして、インパクト投資家がいかにSDGsを社会的・環境的な課題解決のための投資に活用し、役立てているかを事例で紹介しています。その事例や、また、同調査によると、インパクト投資家はSDGsに沿ってインパクト測定するための指標として、Impact reporting and Investment Standards(IRIS)の指標※3、またはIRISとGlobal Reporting Initiative(GRI)に基づいた自社特有の指標を使用しています。

Ⅳ おわりに

SDGsを達成するためには、途上国だけではなく、先進国にも多額の資金を投資する必要があります。すでにESG投資に関心のある投資家にとって、環境的・社会的なインパクトが高い投資分野にシフトできる新しい機会です。投資判断の際に、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクに考慮することと、投資戦略をSDGsに結び付けることが、まだインパクト投資に関わっていない投資家にとって最も適切な入り口であり、また、投資とそれによって生まれるインパクトの関係性を理解するための適切なフレームワークと言えます。

 ※1www.oecd.org/dac/DACnews%20July%202016.pdf

※2www.undp.org/content/sdfinance/en/home/solutions/impact-investment.html

※3多くの投資家が活用しているIRIS指標は、08年に導入されており、投資の経済的・社会的・環境的なインパクトを図る主要なインパクト評価指標となっている。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2017年12月号 FAAS」をダウンロード

情報センサー2017年12月号

情報センサー

2017年12月号

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。

 

詳しく見る