M&Aにおける各アドバイザーの役割と起用のポイント
情報センサー2017年10月号 Trend watcher
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
M&Aアドバイザリー 清藤敦士
事業会社、監査法人を経て、2007年より独立系M&Aアドバイザリー・ファームにてM&Aアドバイザリー業務に従事。13年にEYグループへ参画し、国内外の買収・売却案件に関して戦略立案から案件執行までのM&Aアドバイザリー・サービスを提供。米国公認会計士。
Ⅰ はじめに
M&Aは、さまざまなリスクを伴う一方、マーケットや製品、技術の獲得や売上の増加といった大きなリターンが期待できます。その不確実性を極力排除し、経営目的にかなうM&Aを実現するには、外部アドバイザーの起用が有効です。
本稿では、さまざまな役割を担う各種アドバイザーについて整理し、起用の際に注意すべきポイントを紹介します。
Ⅱ 各アドバイザーの種類と役割
M&Aを検討する際、バイサイド(買手)およびセルサイド(売手および対象会社)で共通するタスクと、両者で異なるタスクがあり、それぞれのタスクに応じて各アドバイザーを起用することとなります。
1. バイサイド、セルサイド共通
バイサイド、セルサイドに共通する役割を担う各アドバイザーは、<表1>の通りです。
2. バイサイド
買手は通常、取得対象についての情報や、その情報へのアクセスが限定的であることから、取得対象についてデュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる買収調査を実施します(<表2>参照)。
3. セルサイド
セルサイドは主に、<表1>に記載したアドバイザーを起用して対応します。DDはバイサイドが行うことが一般的ですが、必要に応じて、セルサイドでもアドバイザーを起用して売却対象のDDを行い、①そのリポートをバイサイドに配布してバイサイドによるDDのセルサイド負担の軽減を図ったり、②バイサイドによるDD前に問題点を発見し、あらかじめ対策を講じるなど、対応する場合もあります。
前記に挙げたアドバイザーは、どんな案件でも全て起用しなければならないわけではなく、必要に応じて起用することが求められます。
Ⅲ アドバイザーの起用を検討する際に注意すべきポイント
アドバイザーを起用する際は、アドバイザーの経験や実績、案件へのコミットメントの強さなどを総合的に評価し、選定することが必要となりますが、それ以外に注意すべきポイントとして、次の点が挙げられます。
1. アドバイザーへの情報開示
アドバイザーを起用する際、クライアント企業はアドバイザーにサポート内容や費用について提案を依頼し、各アドバイザーはクライアント企業から開示される情報を基に提案内容をプランニングします。そのため、必要に応じて機密保持契約書を締結した上で、各アドバイザーが必要とする情報を事前に可能な限り伝えることが、より適切な提案を受ける上で重要となります。
2. 起用するタイミング
アドバイザーの起用には費用を伴います。できる限り効率的なアドバイザーの起用が望ましい一方、M&Aでは相手が存在し、また影響を与える分野が多岐にわたるため、想定外の事象が時折発生します。アドバイザーと連携しながら、起用のタイミングを決定することが必要と考えられます。
3. M&Aを専門とする外部専門家の起用
会計士、税理士、弁護士などの外部専門家は、M&Aに限らず、それぞれ専門領域を持ちます。また、M&A自体も国内・海外、買収・売却、対象となるインダストリーなど、案件ごとに求められる知見が異なります。検討する案件の内容に応じて、適切なアドバイザーを起用することが望ましいものと考えられます。
Ⅳ おわりに
M&Aを行う際、アドバイザーを起用する分野は多岐にわたります。各分野間での情報共有や、各アドバイザーと連携を取るスケジューリングが、M&Aの検討を有効なものとし、効率性をもたらすものと考えられます。オーガナイズされたプロジェクト・チームの運営を考慮しながら、アドバイザーの起用を決めることが重要です。