社内規程の整備
情報センサー2017年10月号 EY Advisory
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株)
公認会計士 佐藤和子
製造業、金融業などの会計監査、株式公開支援業務を経て、リスクマネジメント、内部統制、内部監査に係る構築・高度化支援業務に従事。
Ⅰ はじめに
2015年5月の改正会社法の施行、15年6月のコーポレートガバナンス・コードの適用を受け、取締役会の監督機能を重視した意思決定権限の見直しや内部統制の体制強化を行った企業が多く見受けられます。また、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」に記載されている42個の評価項目の中にも、社内規程の整備・運用に関する項目が掲げられています。
本稿では、社内規程の整備について考察します。
Ⅱ 社内規程を整備する目的とタイミング
企業活動を組織的に遂行していくためには、日々発生する事象に対して個々に対応していたのでは効率性および永続性は担保できません。そのため、一定のルールに基づき業務を遂行することが必要となります。この一定のルールが、社内規程です。
社内規程の整備が不十分な企業においては、次のような問題が生じる可能性があります。
- 各担当者の責任と権限の範囲が不明瞭となる
- 業務上の判断がその都度変わってしまう
- 業務のレベル・進め方が担当者の能力に大きく依存する(業務の標準化が図られない)
- 担当者の変更があった場合に、引き継ぎが円滑に行われない(ノウハウが蓄積されない)
社内規程を適切に整備することで、業務が内部けん制機能を備えた標準的なものとなり、結果として、業務品質の維持・向上、内部統制の強化につながります。
また、昨今の企業を巡る国内外の環境変化は目まぐるしく、社内規程の作成・改訂が必要となるケースについては、次のような場合が考えられます。
- 各種規制法規の改正(会社法、金融商品取引法、雇用関係法、個人情報保護法など)
- 企業活動の変化(企業規模、業務内容の拡大、グローバル化など)
- 内部統制の体制強化
- 業務の集約・効率化(Shared Service Center:SSC)、業務の外部委託(Business Process Outsourcing:BPO)、業務改善(Business Process Re-engineering:BPR)を実施することにより、企業の業務内容や組織、役割分担に変更が生じた場合
Ⅲ 社内規程の整備の流れ
一般的に、社内規程は<図1>のような流れで作成・改訂されます。
企業によっては、規程雛形や他社の規程を変更することなく、そのまま使用しているケースも見受けられますが、企業の業務実態・業種・規模・組織構成などを考慮した上で、自社の実情に合うように作成することが必要です。また、実際の業務がルール(規程)に従って実施されているか否かについて、内部監査により検証が行われます。
Ⅳ 社内規程を整備する際のポイント
1. 企業の運営に必要な諸規程が作成されていること
一般的に、上場企業において必要とされる社内規程は<表1>のようになります。企業の業務内容や規模に応じて、必要とされる社内規程の内容も異なります。
2. 規制法規に抵触しないこと
社内規程は規制法規に抵触しないように配慮して作成するとともに、法規の改正に伴って規程を改訂する必要があります。規制法規としては、会社法・金融商品取引法・商法を始め、従業員を保護するための法律である労働基準法・労働契約法、取引先や消費者との関係を定めた独占禁止法・製造物責任法・個人情報保護法などが挙げられます。
3. 社内規程間で整合性があること
社内規程間の整合性のほか、社内規程と細則・実施要領との間にも整合性を確保する必要があります。一般的に、規程を運用するための具体的事項などを定めるために、細則・実施要領などが定められます。規程において、「細則・実施要領に定めるものとする」と記載し、細則・実施要領を参照させることにより、不整合を回避する方法もあります。また、実務担当者が実際に業務を行う際に使用する、業務マニュアルとの整合性の確保も重要です。
4. 従業員に周知する仕組みがあること
規程は業務を実施するためのルールであるため、作成・改訂された社内規程に基づいて業務を行うには、従業員に理解してもらうことが必須になります。そのため、教育研修や社内イントラネットへの掲示といったような従業員に周知する仕組みを作ることが必要となります。
5. 定期的な見直しを行うこと
社内規程の定期的な見直しが行われない場合や、関連規程相互間における整合性が確保されない場合には、結果として規程が形骸化してしまいます。そのため、規程に加え、関連した規程・細則・実施要領などの定期的な見直しが必要です。
なお、規程・細則などを整備する場合は、規程で定められた手続にのっとって整備を行う必要があります。基本的な事項は規程で定め、その改廃権限を取締役会とし、細部は細則・実施要領などで定め、その改廃権限を担当取締役や担当部長にしておくことにより、規程改訂の機動性を確保することも、実務上よく見受けられます。
6. 社内規程の管理を適切に行うこと
社内規程を適切に管理するためには、規程を体系化し、関連規程や関連細則、関連実施要領を明確にすることや、規程管理規程を作成し社内規程の改廃、変更する際の手続きを定め、社内規程のバージョン管理を適切に行うことが重要となります。また、社内規程の管理はどの部門が行うのか、責任を明確にしておくことも重要です。
Ⅴ おわりに
近年注目を集めているBPOの促進や各種規制法規の改正に伴い、今後も社内規程の整備が必要とされる場面が多々出てくることと思われます。基本的な考え方の理解という点で、本稿が皆さまのお役に立つことができれば幸いです。