電気自動車の市場環境と将来の展望
情報センサー2017年7月号 Trend watcher
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
池田健一
祝 煜洲
木村侑太郎
コーポレートファイナンスストラテジーチーム(CFS)ディレクターおよびコンサルタント。CFSでは、事業戦略策定、新規事業開発、M&A戦略策定、市場調査・分析、コマーシャル・デューデリジェンスを中心に、企業経営をサポートしている。
Ⅰ はじめに
昨今、電気自動車(EV)に関する報道記事を目にする機会が増えています。本稿では、執筆時点(2017年4月)のEVの市場環境を整理するとともに、将来の展望について考察します。
Ⅱ EVの普及率予測(2015 ~23年)
EVはこれから普及が促進されると期待されていますが、今後数年間は、まだまだ黎明(れいめい)期の市場と考えられています。
EVの普及率は、15年時点ではわずか0.12%となります。EVの主要市場は米国と中国であり、今後は中国がメーカーや消費者に対する政府からの強力な援助、充電インフラの積極的投資を背景に、さらに台頭するといわれています。それでも、EVが自動車全体に占める割合は依然僅少であり、20年でも1%程度と予測されています(<図1>参照)。
Ⅲ CO2排出規制から推測するEV市場
EV市場のドライバーとして、CO2排出規制、政府の優遇政策、バッテリーコストの減少など、さまざまな要因が挙げられます。現時点での各国で表明されているCO2排出規制をベースに考えると、EV普及へ大きく傾向がシフトするのは、当面先と想定されます。
CO2排出規制は国ごとに目標値を出していますが、世界的に厳しくなる傾向には変わりはありません。
CO2排出規制が強まるほどエンジン駆動では基準を満たせなくなるため、EVの普及が見込まれています。ただし、ゼロエミッションの純電力駆動が必要になってくる規制レベルは60g/km程度と想定されており、EV普及へ大きく傾向がシフトするのは少なくとも21年より先と想定されています(<図2>参照)。
Ⅳ 各メーカーの取り組みから推測するEV市場
各メーカーの取り組みにより、インフラ設備が充実し、バッテリーコストの低減による価格競争力が増すことで、20年頃までには予測水準よりも普及に向けて舵を切る可能性もあります。
OEM各社は他社と提携し、インフラ設備を充実させています。バッテリーも、大手OEMとバッテリーメーカーによる共同開発により、性能向上および価格低減が進んでいます。EYの過去の調査では、17年時点のバッテリーコスト$300/kWh程度が、22年までには$150/kWh程度まで低下すると予測しています。
Ⅴ EV市場に対する取り組み例
EV市場の今後の見立ては各社で意見が分かれることが想定されます。一方、大手OEMがEV量産に向けた取り組みを開始するなど、市場としてはすでに動き始めています。
EV量産に向けた取り組みを開始している大手OEMでは、EV対応が困難なサプライヤーとの取引を見直したり、場合によっては取引を打ち切ったりしているケースも散見されます。また、ガソリンエンジンがメインである従来の自動車業界とは競争力の源泉が大きく異なるため、自動車メーカー以外からの参入も複数出現しています。
Ⅵ おわりに
EVの将来動向は依然注視が必要な状況です。一方で、主要OEMは本格的にEVを意識した経営方針に転換しており、今後、OEMの経営方針に追従できないサプライヤーは振り落とされていくことも考えられます。また、EVにより自動車業界の成功要因が大きく変わるため、将来を見越した参入が魅力的なオプションとなる企業も存在します。逆に、今が最適な投資時期ではない企業も存在すると思われます。
ただ、今後、EV市場の成長とともに、いずれの企業も迅速な経営判断が求められるタイミングが訪れるはずです。その際に適切な経営判断を下すためにも、自社にとってのEV市場の位置付けや対応方針をあらかじめ明確にしておくことが必要だと思われます。