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統合型リゾートにおけるカジノオペレーションと内部統制

2017年1月31日 PDF
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情報センサー2017年2月号 Topics

統合型リゾート(IR)支援オフィス 公認会計士 小池雅美

日本国内および米国内での法定監査業務・アドバイザリー業務に従事後、2003年に当法人に入所。その後、主に内部統制関連の支援業務に関与。

Ⅰ  はじめに

2016年12月に、日本における観光および地域経済の振興と財政の改善を目的として「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下、IR※1推進法)が国会で成立したことを、ご存じの方も多いのではないでしょうか。ここで言う「特定複合観光施設」とは、カジノ施設および会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体なっている施設、いわゆる統合型リゾート(IR)を意味します(<図1>参照)。

図1 統合型リゾート(IR)の構成項目イメージ

本稿では、この法律において想定される統合型リゾートの中で、現在の日本には存在していないという意味で特徴的な「カジノ」のオペレーションと、そのオペレーションに関連した内部統制についての検討をしたいと思います。

Ⅱ カジノオペレーションとは

カジノではテーブルゲーム(例:ブラックジャック、バカラ、ルーレット)やスロットマシンなどの各種のゲームが顧客に対して提供されますが、それらのゲームの提供に当たって公正性の担保、社会的な悪影響の抑制、不正や誤謬(ごびゅう)の発生可能性の低減、顧客や従業員の安全確保、犯罪行為の温床とならないための配慮、その他留意すべきことが多く存在します。
これらを踏まえた上で、事業者が適正な収益を得るとともに、納付金等を通じた国などに対する財政上の貢献がなされるように、組織を設定して運営が行われます。ここでは、その運営全体をカジノオペレーションと呼ぶことにします。また、統合型リゾートではゲームの提供(ゲーミング)とともに、それ以外のサービスなど(ノン・ゲーミング)が提供されます。<図2>は、カジノオペレーションのうちゲームの提供、資金の移動・管理・記録、公正性・安全の担保に直接的に関係する部分がどのようなものであるかというイメージを表す関係図となっています。

図2 カジノにおける取引の一部(イメージ図)

Ⅲ カジノオペレーションの特徴

カジノでのゲームへの参加に際して、一般の顧客は現金での支払いを行うことが通常であるため、多額の現金がカジノ内に存在することとなります。具体的には、テーブルでの支払いであれば、テーブルに設置した現金保管用の「ドロップボックス」と呼ばれる箱の中や、スロットマシンであればスロットマシンに設置されている紙幣受入装置の中、また、<図2>における⑤資金回収・計算取引および⑧資金保全機能に関連する「カウントルーム」や「ケージ」に多額の現金が存在することとなります。
同時に、現金そのものでゲームを行うのではなく、現金同等物である「ゲーミング用チップ」を利用することから、これらの現金同等物も多額に保有されています。
なお、多額の現金を取り扱う業種は他にもありますが、その場合には取引が全て適時に記録されることが通常かと思います。しかしカジノにおいては、テーブルゲームでの高頻度の取引など、適時に全てを記録することが困難であるため、代替的な記録方法(多数の取引をまとめて記録する等)を採らざるを得ないという特徴があります。
また、カジノでは顧客に対する販売促進手段の一つとして、売上金額に対して決して少なくない比率での還元サービス※2を提供する、「コンプ」と呼ばれる慣習が存在します。
これらのような特徴を考えると、網羅的ではありませんが、例えば次のようなリスクの存在に留意する必要があります。

  • 適時記録の難しい多額の現金および現金同等物の存在を背景とした、顧客や従業員による不正・誤謬(資産の盗難やゲームの公正性の毀損(きそん)など)が発生する可能性、資金洗浄などの犯罪行為の温床となる可能性
  • 多額の還元サービスの存在を背景とした、本来の対象者以外、あるいは本来あるべき金額を超える金額での還元サービス提供の可能性

Ⅳ カジノオペレーションに係る内部統制について

前述の特徴やリスクを考慮して、カジノでは適切なオペレーションのために通常の業種よりも厳格な内部統制の整備・運用が期待されることとなります。取引は、第三者の目に触れるとともに、再計算、検証および分析され、署名により確認されることが原則といえます。
また、資産の保全やゲームの公正性などの観点から、監視専門部署(サーベイランス)や現場による複数階層に及ぶ人的な監視、物理的な保全、紙面証拠、電子的記録、詳細な行動手順・行動様式の遵守などによる、予防的・発見的統制が多数存在しています。

Ⅴ 特徴的な内部統制の例

ここで、カジノオペレーションでの特徴的な内部統制の例を一つ紹介します。
みなさんは「キーコントロール」と聞いてどのようなものを思い浮かべるでしょうか。
財務報告に係る内部統制の評価(J-SOXやUS-SOX404条)に関わったことのある方であれば、「リスクを最も効果的に低減するコントロール」と回答するかもしれません。
しかしカジノの内部統制においては、比喩的な意味での「キー」ではなく、物理的な「鍵」そのものの、厳格な管理が重要となります。前述のⅢにおいて、多額の現金の存在について触れました。そのような状況では「間違い」が生じないように、現金の回収・計算・保全に際して、関係者の物理的なアクセスを「鍵の保管、払い出し、回収過程で職務の分離、記録、追跡の徹底」により、コントロールしています。ちなみに鍵は必ずしも旧来の鍵穴に差し込むものに限らず、システム的なものを含む概念です。
ここで、テーブルゲームについてのキーコントロールの例を、参考のために紹介します。

  • テーブルに設置した箱である「ドロップボックス」をテーブルから取り外すための鍵と、箱の中身を取り出すための鍵を別々にする。
  • 取り外した箱の中身を数えるための「カウントルーム」への運搬用カートの鍵、さらにはカウントルームの入室用の鍵を別々にする。
  • それぞれの鍵は「ケージ」その他で厳重な体制の下に保管され、その払い出しに際しては相互に関係を有しない部署に所属する複数人員の立ち会いおよび払い出し記録が行われるとともにその鍵の回収までが管理される。
  • 鍵を利用した現金へのアクセス過程は適宜、監視専門部署であるサーベイランスによってカメラでモニタリングを受ける。

Ⅵ 最低限遵守すべき内部統制の基準 -MICS

カジノに関する内部統制は各国、各地域の制度の導入時に意図された目的に応じて規制の程度が異なりますが、過去の多くの経験を反映している米国ネバダ州の例を参考にして「最低限遵守すべき内部統制」(Minimum Internal Control Standards:MICS)が定められることがあります。ネバダ州の場合、規制当局が受け取るべき税収が減少するという損失発生リスクを軽減するために、さまざまな分野※3について基準が設定されています。これを前提にカジノ事業者が自己の内部統制の制度を書面化して規制当局に提出し、それについて独立した会計士によるレビューを受けることとなっています。また、当初作成時からの変更部分は年次で規制当局に報告します。

Ⅶ SOP(標準的業務手続・手順書)

実際のカジノオペレーションは、MICSでの内部統制を単純に周知・履行する、という対応がなされているわけではありません。カジノは厳格な規制産業であり、制度が導入される際の期待・懸念事項に基づいて各種の規制が定められることとなり、それ以外に、事業体の形態に応じて通常の法規制に基づく要請事項が存在します。これらの外部規制も踏まえつつ、MICSでの内部統制を基礎として、自己の判断に基づいてそれらをも包含する形で標準的業務手続・手順書(Standard Operating Procedures:SOP)を定めて運営が行われることとなります。SOPは、カジノオペレーション業務の知見が投影された詳細な業務マニュアルであるとともに、これに従って業務を行えば結果的にMICSも遵守されるという重要な文書です(<図3>参照)。

図3 内部統制について(内部統制と外部による規制との関係)

Ⅷ おわりに

本稿では、統合型リゾートにおけるカジノのオペ レーションおよび関連する内部統制について、海外での事例などを参考にしながら幾つかの例を紹介しました。今後、今般成立したIR推進法および附帯決議に基づいてさまざまな議論が行われ、法整備において各種の要請事項が取り込まれていく過程で、本稿が基本的な概念の理解という点で皆さまのお役に立つことができれば幸いです。

※1 Integrated Resort

※2 現金によるものおよび各種サービスの無償・割引提供の形態をとるもの

※3 Bingo, Cage and Credit, Card Games, Information Technology, Interactive Gaming, Entertainment, Keno, Pari-Mutuel, Race and Sports, Slots, Table Gamesの11分野

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