企業買収における新株予約権の会計・税務
情報センサー2016年12月号 Trend watcher
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
トランザクション・ディリジェンス 関根秀一
2004年、当法人に入所後、09年より、EY トランザクション・アドバイザリー・サービス(株)に参画。投資ファンド、商社、製造業、小売業、金融機関などのさまざまなクライアントに対して、財務デューデリジェンス、ストラクチャリングに関する会計アドバイザリーサービス等を多数提供。公認会計士、日本証券アナリスト協会 検定会員。
Ⅰ はじめに
企業買収の実務において登場する新株予約権は、発行の目的や条件により、会計・税務処理が異なります。
本稿では、日本基準を前提として、企業買収における新株予約権の会計・税務処理の概要を説明します。
Ⅱ 企業買収における新株予約権
企業買収において、新株予約権が登場する主な場面は、<表1>のとおりです。
また、<表1>の(1)および(2)の新株予約権の一般的な発行条件は、<表2>のとおりです。
Ⅲ 新株予約権発行時の会計・税務
1. 買収資金の調達時(新株予約権の発行)
資金調達目的の有償時価発行の場合の会計・税務処理は、<表3>のとおりです。
発行体の会計・税務処理に差異はなく、付与時に損益は発生せず、権利失効時に消滅益が認識されます。被付与者の会計・税務処理も差異はなく、株式売却時に譲渡損益、権利失効時に消滅損が認識されます。
2. 買収後の報酬制度(新株予約権の発行)
① 無償発行の場合
経営陣等に報酬として無償発行する場合の会計・税務処理の概要は、<表4>のとおりです。
発行体は、会計上、付与日から権利確定日に渡り、報酬額を費用計上しますが、税務上は、税制非適格の場合を除き、会計上の費用は損金不算入となります。
被付与者は、新株予約権が税制適格か税制非適格かにより、課税時期および所得区分が異なります。
② 有償時価発行の場合
有償時価発行の場合、現状、会計基準上の取り扱いが不明確ですが、資金調達目的の発行とし、Ⅲ1.と同様の会計・税務処理となる場合が多いと考えられます。
Ⅳ 最近のトピック
株式報酬制度に影響を及ぼす可能性がある最近の主な会計・税務トピックは、<表5>のとおりです。
Ⅴ おわりに
経営陣等への報酬目的の新株予約権の発行は、会計・税務処理が複雑となるため、株式報酬制度の設計には、慎重な検討が必要と考えられます。
なお、企業買収の実務では、法務やビジネス等の要素を総合的に勘案する必要があり、前記の会計・税務処理と異なる可能性がある点にご留意ください。