EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
アドバイザリー事業部 公認会計士 東 敏文
製造業、小売業、などの会計監査を経て、ガバナンス、リスクマネジメント、内部統制、内部監査に係る構築・高度化支援業務に従事。
2015年5月に施行された改正会社法において、監査等委員会設置会社が創設されました。
本稿では、監査等委員会設置会社について、監査役会設置会社と比較し、その特徴を説明した上で、移行した場合の監査実務に及ぼす影響について検討します。
監査役会設置会社および監査等委員会設置会社の会社形態の概要は、<図1>のようになります。以下では、監査の観点に基づく監査等委員会設置会社の特徴について解説します。
監査等委員は取締役であるため、監査対象は取締役の業務執行の適法性に限定されず、妥当性にも及びます。この点、監査役(会)による監査の対象は、議論はあるものの、取締役の業務執行の適法性に限られると一般的には考えられています。
従って、監査等委員会設置会社では、取締役の職務執行の妥当性を判断するために必要となる情報の入手ルートと信頼性の確保が、よりいっそう重要となります。
監査等委員会は、監査等委員である取締役(いずれも非業務執行取締役)3人以上で構成され、過半数は社外取締役であることが要求されています。また、常勤の監査等委員は要求されておらず、監査権限は各監査等委員に帰属するのではなく、監査等委員会が有します。そのため、監査等委員会の監査は、内部統制システムを活用した組織的な監査が想定されています。
従って、監査等委員会設置会社では、内部統制システムを活用した監査監督体制の構築が重要です。
監査等委員会設置会社に移行した場合には、前記の通り、情報の入手ルートと信頼性の確保、内部統制システムを活用した監査の実施が重要です。以下では<図2>に基づいて、3ラインディフェンスモデルを前提にした場合の各ライン(各情報入手ルート)から報告される情報の信頼性確保に必要な施策などを説明します。その上で、効果的かつ効率的な監査等委員会の監査監督体制構築のための検討ポイントについて解説します。
第1ラインおよび第2ラインに所属する部署は、その部署が担う職責上、業務執行取締役の指揮命令系統に属するのが一般的と考えられます。例えば、第1ラインとしての東京営業部、第2ラインとしての財務経理部門は、それぞれ営業担当取締役、財務経理担当取締役の指揮下に入ることが想定されます。
そのため、監査等委員会が業務執行取締役の職務執行状況を監査または監督する場合には、業務執行取締役の指揮下にある第1ラインや第2ラインからの情報の信頼度をチェックする機能が必要です。例えば、第1ライン・第2ラインとしての東京営業部や財務経理部門に対して、内部監査部門が内部監査を実施している場合には、監査等委員会は、内部監査の状況や結果を把握し、業務執行取締役の職務執行の妥当性を判断するに足る内部監査が実施されているか否かを、検討することが想定されます。
業務執行部門から独立した立場で監査活動を行っている内部監査部門からの情報は、監査等委員会が実施する監査等にとっては非常に有用であり、情報の入手ルートや信頼性を確保するためにも、内部監査部門との連携強化が必要です。
一方で、内部監査部門が、社長などの最高責任者に直属している場合には、監査等委員会の意向を反映した監査活動が実施されない可能性があります。そのため、内部監査部門は監査等委員会の直属とすることが望ましいと考えられます。また、内部監査部門を組織上監査等委員会に直属させても、実質が伴わないと有効に機能しない可能性があります。そこで、内部監査部門を監査等委員会の直属とする場合は、以下について検討することが重要となります。
実務上の観点からは、内部監査部門長の適切な人事評価を社外取締役が過半数を占める監査等委員会に期待できるのか、内部監査人の専門職化を推進する際には、内部監査人のモチベーションをどのように向上させるのか、といった点について、特に議論が必要です。
監査等委員会設置会社への移行により、業務執行取締役等の業務執行者に対する監査・監督機能の強化が期待されています。そして、社外取締役が過半数を占める監査等委員会による監査等の実効性を強化するためには、内部監査部門との連携、および内部監査部門の独立性・専門性の強化が重要だと考えます。