積極的な賃上げ等を促すための税制措置(令和4年度税制改正)

積極的な賃上げ等を促すための税制措置(令和4年度税制改正)


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岸田文雄内閣の目指す「成長と分配の好循環」実現のためには、企業が稼いだ収益を多様なステークホルダーに還元することが不可欠です。こうした観点に立ち、令和4年度税制改正において、賃上げ促進税制が強化されました。

本稿の執筆者

EY Japan(株) Markets & Business Development – Tax 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門委員会 専門委員(2004年~2020年)。EY Japan(株) アシスタントディレクター。



要点

  • 積極的な賃上げを促すための今回の税制措置は、過去最大水準の税額控除率を実現するものである。
  • 一定の大企業に対しては、マルチステークホルダーに配慮した経営への取組みを宣言することが適用の要件とされる。


Ⅰ はじめに

昨年10月に発足した岸田文雄内閣は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとして、新しい資本主義の実現に取り組んでいます。そのためには、企業が研究開発や人的資源などへの投資を強化し、稼いだ利益を多様なステークホルダーへ還元しつつ、持続的な成長を達成していくことが必要不可欠です。こうした観点に立ち、令和4年度税制改正において、賃上げを積極的に行う企業に対する減税措置(インセンティブ)が強化されました。
 

Ⅱ 大企業の賃上げを促進する税制措置の見直し

給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度のうち、新規雇用者に係る措置が見直されました。継続雇用者の給与総額を一定割合以上増加させた企業に対して、雇用者全体の給与総額の対前年度増加額の最大30%を税額控除できる制度に改組されました。基本は15%の税額控除ですが、増加割合の大きな企業や人材投資(教育訓練)に積極的な企業に対しては、上乗せされて最大30%となります。また、一定規模以上の大企業に対しては、マルチステークホルダーに配慮した経営への取組みを宣言することが適用要件とされます。この宣言は自社のウェブサイト上で行い、宣言内容等を経済産業大臣に届け出る必要があります。具体的な宣言内容は、給与等の支給額の引上げ及び教育訓練等の実施の方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針などです※1。令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する事業年度において適用される2年間の時限措置となります(<表1>参照)。

表1 大企業における賃上げ促進税制

Ⅲ 中小企業の賃上げを促進する税制措置の見直し

中小企業における所得拡大促進税制が改組されました。中小企業全体として雇用を守りつつ、積極的な賃上げや人材投資を促す観点から、控除率の上乗せ要件を見直すとともに、税額控除率を最大40%に大胆に引き上げた上で、適用期限が1年延長されました(令和6年3月31日までの間に開始する事業年度まで)(<表2>参照)。

表2 中小企業における賃上げ促進税制

Ⅳ 特定税額控除規定の不適用措置の見直し

収益が拡大しているにもかかわらず賃上げも投資も特に消極的な大企業(資本金1億円超)に対して、租税特別措置法における特定税額控除※2を不適用とする措置について、一定の企業に関しては、「給与にかかる要件」が厳しくなります。資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の企業で前年度黒字である場合は、継続雇用者の給与総額の対前年度増加率が1%(令和4年度は0.5%)未満であることとされます。前述した賃上げ促進税制の適用を受けない大企業であっても、研究開発税制などの特定税額控除の適用を受けている場合には、状況によっては毎年の給与増加率に注意を払う必要があるので、留意が必要です。
 

Ⅴ おわりに

今回の改正により、大企業については雇用者全体の給与総額の対前年度増加額の最大30%、中小企業については最大40%という賃上げ促進に係る税制措置としては過去最大水準の税額控除率が適用される制度となりました。一方、計算対象となる給与等や雇用者の定義、計算方法などは細かく規定されているので、実際の適用に当たっては間違いが生じないように、制度の十分な理解が必要です※3
 

※1 経済産業省が記載要領等を公表している。
※2 研究開発税制、5G導入促進税制、DX投資促進税制、CN投資促進税制など。
※3 経済産業省が「賃上げ促進税制」に関するガイダンス・FAQ集などを公表している。


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サマリー

岸田文雄内閣の目指す「成長と分配の好循環」実現のためには、企業が稼いだ収益を多様なステークホルダーに還元することが不可欠です。こうした観点に立ち、令和4年度税制改正において、賃上げ促進税制が強化されました。


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