EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー・アンド・トランザクション(Sat) バリュエーション、モデリング&エコノミクス(VME)
藤原 傑
2006年EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)入社後、株式(事業)価値評価及びモデリング業務に従事。現在年間数十件のモデリング業務を提供。東京大学法学部卒。同社 ディレクター。
何 敏
商社・事業会社等の事業計画策定支援目的、国内外のインフラ事業(空港・道路コンセッション、送電線、海底ケーブル)・発電事業(火力、リニュアブル・エナジー)・資源事業(LNG、鉱山、石油)等の経済性評価目的のモデル策定を支援。外部モデリング研修の講師を担当。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)ディレクター。
奥山浩平
商社にてOil&Gasビジネスに従事。事業投資管理、新規案件取得における財務モデリング・評価業務に携わる。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)入社後、財務モデリング・価値算定を軸に多様な業種のM&A関連業務に従事。同社 シニアマネージャー。
三井淳史
2016年にEYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)入社。主に株式価値算定および財務モデリング業務に従事。買収・売却対象の株式価値算定をはじめ、インバウンド・アウトバウンドのモデリング業務も担当。香港科学技術大学物理学科、ロンドン大学ファイナンス修士卒業。同社マネージャー。
要点
EYには、シミュレーション・ツール作成業務を専門的に行っているチームがあります。当該シミュレーション・ツールを「(財務)モデル」、作成する業務を「(財務)モデリング業務」と呼んでいます。モデルは、不確実性の高い投融資の局面において、そのリスクの多寡を事前にシミュレーションすることを可能とし、企業のさまざまな意思決定を支援します。
モデルは極めて美しく、機能的なものです。われわれは、ロジカルに言葉で説明できる事象は、全てモデルで表現できると考えています。本稿では、モデルの作成にかかわるスキルや、モデリング業務の魅力とその必要性を次の四つのテーマに沿って、お伝えします。
近年Power BI等各種データ分析ツールを使用したデータアナリティクスの台頭により、従来のモデルの一部役割が代替されつつあります。データアナリティクスは大容量データの処理を得意とし、ビジュアライズすることにより、分析をサポートする領域において威力を発揮します。一方、データの整理に時間を要することや計算ロジックの変更が容易でないことから、エクセルを使用することで、迅速かつオーダーメードの対応が可能なモデルに取って代わることはまだ想定しにくいのが現状です。
ビジネス分析をサポートするためには、それに特化したモデル構築スキルが必要になります。モデル利用者は、モデルという財務数値の集積体であるプラットフォームを入手することによって、分析に必要なデータをインプットし、また結論をアウトプットすることで、正確、かつ状況に応じた意思決定が可能となります。
プロフェッショナルによるモデルは、企業の脳内構想の具現化ツールであり、実績を分析する財務デューディリジェンスと計画を分析するビジネス・デューディリジェンスの繋つなぎ役であり、また時に全サービス領域の分析結果を載せた成果物の集大成であるといえるでしょう(<図1>参照)。
プロジェクト・ファイナンス関連のモデリングは代表的なモデリング業務の一つです。
プロジェクト・ファイナンスの返済原資は、ファイナンスの対象となるプロジェクトが創出するキャッシュ・フローです。したがって、レンダー(貸し手)は対象プロジェクトの収益性に関し、慎重に精査する必要があり、レンダーはスポンサー(出資者)に対し、当該プロジェクトに関する精緻な財務モデルの提供を求めます。
プロジェクト・ファイナンスの条件は極めて複雑です。さらに、モデル構築時点において、プロジェクト・ファイナンスの条件がすべて確定しているケースは稀(まれ)であり、レンダーはモデルを使用しながら、条件を検討・確定していきます。そのため、決定までのプロセスには、高度なプロジェクト・ファイナンスに関する経験・知識を基に、レンダー・スポンサーの定性的な懸念事項をモデルに落としこみ、さまざまな観点から積極的に問題提起することが求められます。単にエクセルの高いスキルを保有するだけではなく、良いモデラー(モデルを構築する人)は、ファイナンスやセクターのナレッジを持つことが求められます。
取引目的で使用されるモデルにおいては、各種デューディリジェンス結果がモデルに集約されることにより、モデルが取引検討のハブになることが期待されます。特に、近年増加しているアウトバウンド案件においては、各国の会計・税務制度に精通した現地デューディリジェンスチームとクロスボーダーでアドバイザリーチームが組成され、それらの検討結果を適切にモデルへ反映する必要があります。
モデルは一種の共通言語となり得るため、言語の壁・検討事項の複雑化が懸念される複数国のステークホルダーが関わるアウトバウンド案件において、プロフェッショナルにより構築された財務モデルは、取引検討を円滑にするカタリスト(触媒)として取引検討に必要不可欠なものとなります。
プロジェクト・ファイナンスや取引目的に限らず、企業における中期経営計画策定や投資先管理モデルなど、内部利用目的にもプロフェッショナルによるモデリングは力を発揮します。
例えば、近年では事業会社またはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)によるスタートアップへの投資が活発化しており、中期計画における投資枠の設定、投資効果による利益見通しへの寄与把握を目的とした財務モデル作成の需要があります。スタートアップ投資においては、当初アーリーステージ投資でスモールにスタートし、成長状況に応じ、M&Aによる持分買い増し・IPO・売却する等Exit手法もさまざまです。このようなケースにおいて、綿密な財務モデルを作成することにより、段階的な取得による会計上の投資区分変更、のれんの償却、撤退等による損益項目への影響等を適切に反映した中期計画を策定することが可能となり、IR等でのアカウンタビリティ向上が期待されます。
われわれVMEチームが見ているプロフェッショナル・モデリングの世界を紹介しました。ビジネスの重要な決断を左右するために作られたモデルにおいては、誰でも容易に使用可能、理解可能ということが重要です。モデルは必ずしも複雑な数式で構成される必要はなく、計算の前提、各種数値の導出プロセスが一目で分かりやすいことが求められます。したがって、プロフェッショナルのモデラーには、複雑なロジックの構築と分かりやすい構成という相矛盾する要求を同時に満たすスキルが求められるのです。
財務モデルは、不確実性の高い投融資の局面において、そのリスクの多寡を事前にシミュレーションすることを可能とし、企業のさまざまな意思決定を支援します。本稿では、EYが構築する最先端の財務モデルについて解説をします。
戦略(EYパルテノン)、買収・合併(統合)・セパレーション、パフォーマンスの再構築、コーポレート・ファイナンスに関連した経営課題を独自のソリューションを活用し、企業成長を支援します。