EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
日本の人口減少とそれが日本社会にもたらす課題に対応するために、数多くの取り組みがなされています。人口の減少は、その他の人口動態や社会的トレンドと一緒になって、日本の未来に立ちふさがる課題となるでしょう。しかし、日本はこうした課題に対処できるはずであり、そして日本が対処する最中に、機敏性と先見性とを備える金融機関は、新たな金融環境で大きく成功するチャンスを得ることができるはずです。
日本人はこれから、複数のトレンドに影響され、暮らし方、働き方、リタイアの在り様が変わっていくことを余儀なくされるでしょう。具体的には、次のようなトレンドです。
日本と日本社会は世の中の流れに合わせて変化し、こうした課題に対処していく必要があると言えます。
人手不足には、定年年齢の引き上げと、女性の就業率向上で対処することになりそうです。しかし、それだけでは労働力不足の解消は困難なため、積極的に外国人労働者の受け入れを拡大する必要が出てくるはずです。
出典:"Labour Force Statistics: Population projections", OECD Employment and Labour Market Statistics (database), accessed via https://doi.org/10.1787/data-00538-en, EY-Parthenon analysis.
寿命と就労年数が伸びるにつれ、生涯一社に勤め上げること、あるいは同じ業界でずっと働くことすらほとんどなくなり、労働者の一生涯の総労働時間の一部を再教育やスキルの刷新に充てる必要が出てきます。今後は、学校を卒業し、就職し、退職する、という現在のような就労パターンではなく、卒業後、就労の合間に長期休暇を挟みながら、これまでよりずっと長い間働いた後に本格的なリタイア生活に入る、というパターンが一般的になるでしょう。
日本では公共政策と少子高齢化により、年金保険が「賦課方式」(確定給付型)から「積立方式」(確定拠出型)へと移行し、国民一人一人が老後の資金調達に責任を負うことになると考えられます。このため、今後国民の金融リテラシーは向上し、他の先進国並みにまでなり、低金利・ゼロ金利の貯蓄から、より高いリターンが得られる投資への資産運用先のシフトが起こるはずです。
出典:S&P, Financial Literacy Around the World (2016)
日本では金融リテラシー率の低さが、国民の老後資金不足の一因とされています。現在の日本の金融リテラシー率の低さは、以下をはじめとして、さまざまな影響を及ぼしています。
日本社会が変化を遂げる中、金融機関には国内の労働者と投資家に商品やサービスを提供する機会があると思われます。次のように、このような機会が生じる要因はいくつかあります。
日本社会の変化につれて共に変わることができる金融機関は、こうした変化によりもたらされる年間収益の増加幅が4兆円を超える可能性があります。
出典:日本銀行「資金循環の日米欧の比較」(2021年8月20日)
時期や詳細はまだはっきりしませんが、今後の人口動態の変化、労働ニーズやリタイア後のニーズに対応するため、日本の政策当局と日本社会は変わっていくことになるでしょう。このような課題解決が進めば、金融機関は、日本の金融市場を通じて価値をもたらすチャンスを掴むことができるはずです。
1. 対象となる資産の増加に伴い、投資家人口が増え、アドバイザリーサービスや資産管理サービスの需要が高まりそうです。金融機関には、次のような戦略上の選択肢があります。
2. 投資行動と支出行動が変化するにつれ、日本では分割取崩型商品、自由積立型商品または特定の目的向けの商品(老後資金づくりのための商品を除く)、オーダーメイドで高利益率の商品やサービスの需要が高まるものと考えられます。金融機関には、次のような戦略上の選択肢があります。
3. 外国人労働者の大幅な増加を中心に、日本国内の労働力の多様化が進むことで、クロスボーダー取引、複数通貨商品またはソリューション、多言語・多文化プラットフォームなどに対する旺盛な需要が生まれることになりそうです。金融機関には、次のような戦略上の選択肢があります。
日本社会の変化が、革新的で先見性のある金融機関にチャンスをもたらすことは間違いありません。また、日本の金融ニーズが変化する今、革新的な金融機関にしか成長のチャンスはないことも明らかです。
【共同執筆者】
北濱 聡
(EY新日本有限責任監査法人 アソシエートパートナー)
EY新日本有限責任監査法人の金融事業部において資産運用ビジネスを中心として、監査業務やその他保証業務、関連するサービスを幅広く提供している。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
金融機関の中で、人口動態の変化に伴い日本の投資家のニーズが変化することを先んじて感知し、イノベーションを引き起こすことができる組織には、素晴らしい成長機会があるでしょう。期待される年間収益の増加幅は4兆円を上る見通しです。