日本社会が変わりつつある中、金融機関はどうすれば成功できるか

日本社会が変わりつつある中、金融機関はどうすれば成功できるか


日本の人口動態の変化が投資家の行動に影響を及ぼしています。当社の推計では、これにより4兆円もの収益機会を生む可能性があります。


要点

  • 人口動態の変化は金融商品と金融サービスの需要に大きな変化をもたらす。
  • 金融機関にとっては、拡大する日本市場のシェアを獲得し、日本人のニーズの変化に対応する戦略上の選択肢がいくつか存在する。

日本の人口減少とそれが日本社会にもたらす課題に対応するために、数多くの取り組みがなされています。人口の減少は、その他の人口動態や社会的トレンドと一緒になって、日本の未来に立ちふさがる課題となるでしょう。しかし、日本はこうした課題に対処できるはずであり、そして日本が対処する最中に、機敏性と先見性とを備える金融機関は、新たな金融環境で大きく成功するチャンスを得ることができるはずです。

日本人はこれから、複数のトレンドに影響され、暮らし方、働き方、リタイアの在り様が変わっていくことを余儀なくされるでしょう。具体的には、次のようなトレンドです。

  • 出生率の低下に伴う、人口減少と人手不足(OECD)
  • 長寿命化に伴う、リタイア生活の長期化(OECD、厚生労働省)
  • 貯蓄率の低下に伴う、長期化したリタイア生活に利用できる資金の減少(OECD)
  • 老後の資金不足に加え、投資より預金を好む傾向が強く、資産積立率が低い(世界経済フォーラム、日本銀行)

日本と日本社会は世の中の流れに合わせて変化し、こうした課題に対処していく必要があると言えます。

人手不足には、定年年齢の引き上げと、女性の就業率向上で対処することになりそうです。しかし、それだけでは労働力不足の解消は困難なため、積極的に外国人労働者の受け入れを拡大する必要が出てくるはずです。

図1:日本が労働力不足を外国人労働者で埋めるとしても、労働人口を2020年の水準で維持するためには、最大1,100万人の正規社員が必要

出典:"Labour Force Statistics: Population projections", OECD Employment and Labour Market Statistics (database), accessed via https://doi.org/10.1787/data-00538-en, EY-Parthenon analysis.

寿命と就労年数が伸びるにつれ、生涯一社に勤め上げること、あるいは同じ業界でずっと働くことすらほとんどなくなり、労働者の一生涯の総労働時間の一部を再教育やスキルの刷新に充てる必要が出てきます。今後は、学校を卒業し、就職し、退職する、という現在のような就労パターンではなく、卒業後、就労の合間に長期休暇を挟みながら、これまでよりずっと長い間働いた後に本格的なリタイア生活に入る、というパターンが一般的になるでしょう。

日本では公共政策と少子高齢化により、年金保険が「賦課方式」(確定給付型)から「積立方式」(確定拠出型)へと移行し、国民一人一人が老後の資金調達に責任を負うことになると考えられます。このため、今後国民の金融リテラシーは向上し、他の先進国並みにまでなり、低金利・ゼロ金利の貯蓄から、より高いリターンが得られる投資への資産運用先のシフトが起こるはずです。

図2:日本の金融リテラシー率は先進国中で最低レベルであり、このために貯蓄から投資への移行が進まない

出典:S&P, Financial Literacy Around the World (2016)

日本では金融リテラシー率の低さが、国民の老後資金不足の一因とされています。現在の日本の金融リテラシー率の低さは、以下をはじめとして、さまざまな影響を及ぼしています。

  • 低金利が続いているにもかかわらず、老後資金を貯める手段として銀行預金を利用する人が多い
  • 老後の備えとして、公的年金制度に過度に依存している
  • 投資嫌い
  • 金融機関への不信

日本社会が変化を遂げる中、金融機関には国内の労働者と投資家に商品やサービスを提供する機会があると思われます。次のように、このような機会が生じる要因はいくつかあります。

  • 外国人労働者の活躍により、国境をまたいだ貯蓄、投資、保険、あるいは現金の単純な移動といった新たなニーズが生まれる。
  • 就労年数の長期化と女性就業率の上昇により、投資に向けることのできる資産プールが拡大する。
  • 長期休暇をはさみ就業と離職を複数回繰り返すようになる人のニーズに応えるため、自由積立型商品と分割取崩型商品の需要が高まる。
  • 日本人の金融リテラシーと金融に対する見識が向上するにつれ、銀行預金離れが進み、パフォーマンスが良く、公正で透明性の高い投資商品は多くの投資を呼び込むことができる。

日本社会の変化につれて共に変わることができる金融機関は、こうした変化によりもたらされる年間収益の増加幅が4兆円を超える可能性があります。

図3:日本の家計は米国に比べ、リターンゼロの投資にあまりに多くを割いている

出典:日本銀行「資金循環の日米欧の比較」(2021年8月20日)

金融機関の戦略上の選択肢

時期や詳細はまだはっきりしませんが、今後の人口動態の変化、労働ニーズやリタイア後のニーズに対応するため、日本の政策当局と日本社会は変わっていくことになるでしょう。このような課題解決が進めば、金融機関は、日本の金融市場を通じて価値をもたらすチャンスを掴むことができるはずです。

1. 対象となる資産の増加に伴い、投資家人口が増え、アドバイザリーサービスや資産管理サービスの需要が高まりそうです。金融機関には、次のような戦略上の選択肢があります。

  • 以下を利用して資産管理サービスを提供する体制を構築する戦略を策定する。
    • デジタルプラットフォーム
    • ファイナンシャルアドバイザー・チャネル
    • 混合型またはハイブリッド型のアドバイザリー商品やサービス
  • エコシステムまたはパートナーシップ戦略の構築および実行

2. 投資行動と支出行動が変化するにつれ、日本では分割取崩型商品、自由積立型商品または特定の目的向けの商品(老後資金づくりのための商品を除く)、オーダーメイドで高利益率の商品やサービスの需要が高まるものと考えられます。金融機関には、次のような戦略上の選択肢があります。

  • 商品やソリューションのイノベーションおよび迅速な開発を可能にするケイパビリティへの投資
  •  顧客関係管理(CRM)および顧客エンゲージメントを促進するデジタルツールへの投資
  • デジタルマーケティングおよび顧客サービスのケイパビリティの開発

3. 外国人労働者の大幅な増加を中心に、日本国内の労働力の多様化が進むことで、クロスボーダー取引、複数通貨商品またはソリューション、多言語・多文化プラットフォームなどに対する旺盛な需要が生まれることになりそうです。金融機関には、次のような戦略上の選択肢があります。

  • 業界の枠を超えたパートナーシップやフィンテック関連のパートナーシップの構築
  • 国境を超えてシームレスに機能する商品ソリューションの開発
  • 求められるケイパビリティと顧客を有するトップクラスの企業に対する選択的な投資などのM&A戦略の構築

日本社会の変化が、革新的で先見性のある金融機関にチャンスをもたらすことは間違いありません。また、日本の金融ニーズが変化する今、革新的な金融機関にしか成長のチャンスはないことも明らかです。


【共同執筆者】

北濱 聡
(EY新日本有限責任監査法人 アソシエートパートナー)

EY新日本有限責任監査法人の金融事業部において資産運用ビジネスを中心として、監査業務やその他保証業務、関連するサービスを幅広く提供している。

 ※所属・役職は記事公開当時のものです。



サマリー

金融機関の中で、人口動態の変化に伴い日本の投資家のニーズが変化することを先んじて感知し、イノベーションを引き起こすことができる組織には、素晴らしい成長機会があるでしょう。期待される年間収益の増加幅は4兆円を上る見通しです。

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