仮想と現実をつなぐ巨大市場 「メタバース」から目が離せない

仮想と現実をつなぐ巨大市場 「メタバース」から目が離せない


ブロックチェーンやNFTといったテクノロジーがデジタルデータの価値を無限大にも膨らませる仮想世界「メタバース」の存在感が破竹の勢いで増しています。

仮想でありながらも現実の世界とも結びついて広がり続けるマーケットに、どんな新しいサービスが生まれているのでしょうか。コンサルタントの目から解説します。


要点

  • 「仮想世界」に芽生えた一大ビジネスチャンス
  • 誰でもコピー可能なデジタルデータのNFTが10兆円市場を生み出す世界
  • 短期決戦をモノにするデジタル&エマージングテクノロジーの核となるコンサル人材

「仮想世界」に芽生えた一大ビジネスチャンス

──メタバースという言葉をよく聞くようになりました。ビジネス界でも注目されているのはなぜでしょう。

英語の「Meta(超)」と「Universe(宇宙)」を合わせてメタバース、仮想世界などと訳されたりしますが、インターネット上に構築された仮想空間や、そこで行われるさまざまなサービスのことをいいます。スキーゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイを着け、ジョイスティックを握って、といったゲームの世界を思い浮かべる人が多いかもしれませんね。

それが、ここ1年ちょっとの間に急速にビジネスの世界にも広まって、メタバースを使った新しいサービスや事業に名乗りを上げる企業が増えてきました。Facebookが社名をMetaに変更したのが象徴的ですが、国内でもKDDIや東急が都市連動型のメタバース活用を謳って、「バーチャルシティコンソーシアム」を立ち上げたのが昨年11月。その翌月には暗号資産の事業者などが「一般社団法人日本メタバース協会」を発足させ、本年3月には産官学が連携する「一般社団法人Metaverse Japan」も設立されています。

このようにメタバース関連の取り組みがビジネスの世界でも顕在化してきている背景には、ブロックチェーンなどいわゆるWeb3.0技術によって、仮想空間が従来の閉じた世界ではなく、外部に開かれた経済活動が可能になってきたことが大きく影響しています。例えば、これまでゲームの中で手に入れたアイテムはそのゲームの中でしか利用できなかったものが、ゲーム外のマーケットプレイスで他者へ売買することができる、といったことが可能になってきています。

誰でもコピー可能なデジタルデータのNFTが10兆円市場を生み出す世界

──開かれた仮想空間によってデジタルデータの価値が高まるということでしょうか。

そうですね。それを可能にしたブロックチェーン技術がNFT(Non-Fungible Token)、日本語で「非代替性トークン」と呼ばれるもので、デジタルアートといった資産の権利が誰に帰属しているかを、ブロックチェーン上のトークンとして証明する技術です。これにより、これまでは誰でも勝手にコピーして拡散できてしまっていたデジタルデータに固有の価値が生まれ、代替性のない資産として認められ取引されるようになりました。

NFTが大きな話題になったのは、2021年3月に「EVERYDAYS - The First 5000 Days」というデジタルアートが、競売大手クリスティーズで約75億円で落札されたのがきっかけでした。デジタルアートの落札額として史上最高値だったそうです。その2週間後、Twitter創始者のジャック・ドーシー氏が投稿した最初のツイートのNFTも約3億円で売買されています。

よく誤解されるのですが、NFTはデジタルデータを複製不可能にする技術ではありません。データの権利者が特定され、それが改ざんされていないことがすべての人にわかる形(ERC-721という標準規格)でブロックチェーン上で証明されている。そこがNFTのポイントであり、値段がつくのはデータそのものというより、権利の方だと言っていいでしょう。付与される権利としては所有権だけでなく、参加者限定のパーティやコミュニティへのアクセス権といったものもあります。

実際、「Bored Ape Yacht Club」という1万体のサル(Ape)のイラストを集めたNFTコレクションでは、イラストを購入し会員となることで、会員限定のさまざまな特典を得ることができます。購入したイラストを転売することも可能で、1体 2万円程度で販売されたものが、今ではOpenSeaといったマーケットプレイスで数千万円で取り引きされるものまで出てきています。

NFTの市場規模は調査会社によってさまざまですが、投資会社のジェフリーズによると、2022年に350億ドル(約4兆円)、2025年には800億ドル(約9兆1000億円)以上になると予測されています。2020年には数百億円に過ぎなかったのですから、爆発的な勢いです。

 

仮想現実が現実世界にもたらす果実

──NFTで資産の権利がきちんと保証されるから、メタバース上でも安心して取り引きができるわけですね。どんなビジネスが行われているのですか。

先ほど例に挙げたアートをはじめ、エンターテインメント、スポーツ、ファッションなどの業界は親和性が高いといえます。スポーツでいうと、アメリカのプロバスケットリーグNBAが立ち上げた「NBA Top Shot」というNFT付きトレーディングカードの販売サービスが、開始早々に200億円を超える売上に達して話題となりました。これはコロナ禍による外出制限の影響で、スタジアムに来場する観客が激減したことから、新たな収益源を生み出すため、自分たちが持つ資産を活用する手立てを考えたのだと思います。

現実世界では実現できないような価値を製品やサービスに持たせて商品化する、それもメタバースに特徴的なビジネスの形です。昨年日本のベンチャー企業が発売した「AIR SMOKE 1」というバーチャルスニーカーはその一例です。名前のとおりソールから煙が出たり、スニーカーの色が刻々変化するなど現実にはあり得ない商品で、メタバース空間でアバターなどに履かせたりすることが可能です。140万円という高額ながら、販売開始わずか9分で完売しました。

企業にとっては新たな収益機会ができることもさることながら、ブロックチェーン上で商品の購入者や転売先などの履歴をすべて把握できるため、消費者行動をマーケティングやサービス開発に生かせる利点も大きいですね。しかも、現実には製造しないため、無駄な原材料や在庫、流通や廃棄に関するコストも一切かからずサステナブルです。

ほかにも、オンライン会議システムの「Microsoft Teams」をメタバース仕様にアップデートして、アバターを介して他の参加者とコラボレーションさせる計画も進んでいます。TeamsやZoomといったオンライン会議は便利で私たちも日々利用していますが、カメラをオンにしていても、視線やボディランゲージなど言語以外での情報伝達に乏しいことが課題となっています。オンライン会議がメタバース上でアバターを介して行われることで、より効果的な会議が持てるようになることを期待しています。

ビジネスだけではありません。この1月に東京都足立区が開設した「アバター de 防災訓練」*は、アバターとなった区民がメタバースのなかで避難訓練を体験できる防災学習コンテンツです。実際に住んでいる街に地震や洪水などを発生させ避難訓練など行うことは不可能ですが、仮想現実のなかであれば、どんなシーンも再現しゲームのように何度も訓練することが可能です。仮想現実の世界は、このように行政や生活シーンにおいても活用可能であり、メタバースの持つ可能性の大きさがわかると思います。(*サービスは2022年3月31日にて終了)

 

短期決戦をモノにするデジタル&エマージングテクノロジーの核となるコンサル人材

──松尾さんはデジタル&エマージングテクノロジーチームに所属していますね。ブロックチェーンのような先端テクノロジー案件に関して、どのようなコンサルティングを行っていますか。

新しいテクノロジーをテコとした新しいサービスの戦略策定から実際の導入支援・運用などエンド・ツー・エンドで支援を行っています。単にテクニカルな知見を提供すればいいということでは決してなく、その業界に特有の事情や課題、あるいはまったく違う業界の知見、さらに先ほどの防災のような社会的な課題も踏まえて、多面的なアプローチから解決策を探る姿勢が重要です。

また、この分野は目覚ましいスピードで展開していることから、デジタルコンテンツの売買に伴う著作権の問題や、税法処理や会計処理に関する課題に対して、まだルール作りが追いついていないのが実状です。その点についても、我々EYのようにグループ内に監査法人や税理士法人、弁護士法人などの専門組織を備えたコンサルティング会社が果たせる役割は非常に大きいと思っています。

──このチームのコンサルタントに求められる資質についてはいかがでしょう。

好奇心を第一に挙げたいですね。メタバースやNFTといったWeb3.0領域での技術トレンドの変化は驚くほど早く、この先1年でもまた大きく状況は変わるでしょう。四半期単位で新しい取り組みを仕掛け、試した結果を次に生かすそんな感覚が必要です。技術的な知見も大切ですが、それ以上に新しい領域、新しいチャレンジを面白いと思える感性が最大の原動力になると思います。

そしてもう1つ、コミュニケーション力も挙げておきましょう。メタバースのような未知の領域に踏み込むことに対しては、逡巡する企業が大半です。難しいことをわかりやすく、どのように価値が生むのかをお客様に腹落ちさせられるスキルが必要になります。その力があれば、EYの多彩なチームとお客様との間をコラボレーションの絆で結ぶ、なくてはならないコンサルタントになれるに違いありません。

EY Japan 鳥飼八幡宮
メタバースプロジェクト

EYは、福岡・鳥飼八幡宮と共に歴史や伝統と向き合い、デザイン思考を取り入れメタバース神社を企画・設計。誰もが集い思い思いに過ごせる、未来へとつながる神社を構築しました。


サマリー

急速な広がりを見せるメタバースや関連サービス。NFTにより仮想空間での経済活動が活発になり、ゲームのみならず、エンターテインメント、スポーツ、ファッション関連でも大きな盛り上がりを見せています。そんな目覚ましいスピードで発展するデジタルテクノロジーの分野において、コンサルタントに求められる資質とは。

この記事について