EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)BC-Finance
津川 裕也
国内SIerや外資系コンサルティングファームにおいて、業務/システムコンサルティングおよびシステム開発に従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)においては、国内大手企業に対するGBS/SSC/BPO/DX導入支援に注力。同社 シニアマネージャー。
中澤 正隆
外資系コンサルティングファームにおいて、PMIやGBS構築支援に従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)においては、国内および外資大手製造業や金融機関に対するGBS/SSC構想策定から運用安定化/BPO化、DX導入支援に注力。同社 マネージャー。
要点
昨今のテクノロジー進化に伴う業務効率化ソリューションの導入障壁の低下や、コロナ禍における業務継続性確保に向け、GBS(Global Business Services)/SSC(Shared Service Center)/BPO(Business Process Outsourcing)の導入ニーズおよび既存GBS/SSCの機能強化に対する関心がこれまで以上に高まっています。一方、日本企業が既に中国で展開しているオフショアBPOは、中国における人件費が高騰したことや、日本でペーパーレス化ソリューションやRPA(Robotics Process Automation)などが普及し工数削減が可能となったことなどの要因により、中国オフショアBPOについて国内回帰の動きがみられます。本稿では、中国オフショアBPOを国内へ回帰させる際の留意点について整理します。
中国へのオフショアBPOは、中国国内のインフラ安定化に加え、低賃金や豊富な日本語人材を誘致インセンティブとし、2000年代初頭から活発化してきました。しかし、その後の中国の経済成長に伴い、<図1>に示す人件費の高騰や地政学リスクの高まりなどから中国オフショアBPOを活用することの優位性が薄れ、2020年前後から国内回帰の動きが見られるようになりました。
現在では自動化ツールなどにより効率化が可能な処理も、中国オフショアBPOでは必ずしも業務が効率化されていないケースもあり、国内回帰をさせる際は業務効率化の余地があります。そのため、国内側で業務を引き継ぐ前に最新のテクノロジーを活用した業務設計を入念に行うことが重要となります。現在では、ペーパーレス化を実現する最新ソリューション(AI-OCR/ワークフロー等)や定型業務への自動化ツール(RPA/AI等)が普及しており、業務を再設計することで効率化されたより良いプロセスでの業務が可能となります。加えてコスト面からも国内は中国オフショアBPOと同等やそれ以下のコストでの運用が可能となります。よって、BPOを取り巻く環境変化を受けて業務の継続性・安定運用を考慮した際、中国オフショアBPOを国内回帰させることは日本企業の解決策の選択肢として有効です。ただし、オフショアBPOベンダーが業務受託後に自社内で導入したツールは一般的にオフショアBPOベンダーの資産であるため、委託元は契約終了後に自社でツールを契約・開発する必要があり、業務再設計には一定の時間を要します。BPOベンダーとの契約終了に対する交渉期間を含め十分な期間を設定し、準備・業務再設計に取り組む必要があります。
オフショアBPOを国内回帰させるにあたり最も重要なのは、業務品質を維持し処理ミスを発生させずに運用が開始できるか(業務継続性)という点です。そのためには、<表1>に示す業務移管に関する固有のリスクへの対応方針を事前に検討しておくことが必要です。主に、BPO契約の解約条項の精査や、BPO現行契約の満了期間内に業務引継の完了が可能か(業務数や難易度によっては、業務引継は想定以上の期間がかかる)、業務引継を行う自社担当者の工数確保は可能か、移管した業務は効率化が図れるか/国内回帰後はどれほどの処理工数となるか、現在業務で利用している機器はどちらの資産か、などについて入念に確認・試算し、自社側のプロジェクト体制を整える必要があります。また、オフショアBPOは業務引継の対応がどの範囲まで、かつ、どれほどの期間対応可能か、業務引継のコストはどれほどかかるかなど、オフショアBPOとの契約交渉において各種見積額の妥当性を検証した上で両社間の合意を図り、オフショアBPOにも業務継続性の確保に向けた協力体制の構築をコミットしてもらうことが肝要となります。
国内回帰後の業務を担う手段として、<表2>の通り自社SSC/BOT(Build, Operate,Transfer)/BPOの3パターンが検討可能です。
例として、自社SSCで運用を行う場合、国内回帰を検討・実行する際の構想策定から運用安定化までのフェーズに必要なタスクを<図2>に例示します。国内回帰のみならず、業務を移管させる場合に取り組むべきタスクは多く、BPO契約の終了期日をオフショアBPOベンダーと合意する前に、構想策定フェーズのタスクを自社プロジェクトチームが入念に検討する必要があります。
なお、業務プロセスは現行のオフショアBPOが実施している通りになるとは限らず、国内回帰後に効率化した業務設計の姿を実現するためには、設計フェーズにおける「新業務プロセス設計/評価」(As-Is業務調査~テクノロジー導入検討~新業務設計・新業務フロー作成)を精緻に行うことが肝要となります。
本稿では、近年増加傾向にあった中国オフショアBPOベンダーへの外部委託業務を国内回帰させ、安定運用を実現するための論点を整理しました。中国オフショアBPOを活用している皆さまにとって、本稿が国内で再運用を検討される際の一助となれば幸いです。
日本企業が中国で展開しているオフショアBPO(Business Process Outsourcing)は、中国における人件費の高騰や、日本でのペーパーレス化ソリューションやRPA(Robotics Process Automation)の普及などの要因により、国内回帰の動きがみられます。本稿では、中国オフショアBPOを国内へ回帰させる際の留意点について整理します。
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