荻生:先に椎名さんからNFTのリスクの話が出ましたが、NFT発行の実態についてご教示いただけますか。
椎名氏:偽物の流出に関して、NFTのマーケットプレイスには勝手にアップロードできるところが多いのがその原因でもあります。それを防ぐには、運営側が真贋(しんがん)を判定するキュレーション機能を持ったり、アーティストを限定したり。そのアーティスト自体が本物かどうか追える策を講じていくことが必要になっていくでしょう。買う側にしても、ある程度は自分で判別できる目利きの力が求められると思います。
荻生:NFTによっては賭博性があると問われています。その実態と法的な位置付けについて斉藤先生からお話しいただけますでしょうか。
斎藤氏:海外では、パック販売やリビールという仕組みがよく取られています。パック販売は、例えばブロックチェーンゲーム用のコレクションを楽しむカードを3枚1セット、何が入っているか分からない状態で販売する方法です。リビールも、購入時点では内容が不明で、2週間から1カ月後に中身が分かる仕組みです。それが日本の賭博罪に該当するリスクがあるのではといわれていますが、賭博罪は刑法的に該当性が広く解釈されており、過去の判例を見るとけっこう簡単に賭博になります。また仮に無罪になっても日本では逮捕されると起業家生命が終わってしまいますから、真面目な会社はパック販売やリビールはなかなかできない。ですから賭博にならないというガイドラインなどができれば非常に喜ばしいです。
荻生:NFTには、発行後に価格が上がっていくという特徴もあります。価値が向上した際、発行者にも利益が分配されるデザインをしているNFTもありますが、どの程度導入されているのでしょうか。
椎名氏:そうした仕組みが導入されているケースが多いと思っています。個人間でNFTを売買しても、そのロイヤリティが売った人にもクリエイターにも戻ってくるよう作っているのが割と一般的です。これは、カラオケで歌われるたびJASRACを通じて作曲家に二次流通としての印税が振り込まれるという、カラオケと音楽業界の形態に似ています。
ただしアートの場合は、二次流通時のロイヤリティが追い掛けにくい状況です。海外には追及権がありますが、日本ではその仕組みがないのでロイヤリティは入りません。しかしNFTは、そうした問題を解消できるツールでもあります。NFT 自体がブロックチェーンでできていますから、暗号資産を送るのは簡単にプログラミングできる。そこも取り込んだ形になっているところが多いと思います。
荻生:そもそも、NFT を買うと法的には何の権利が得られるのでしょうか。
斎藤氏:日本の所有権は、原則的に有体物にしか認められていませんから、NFTを買っても所有権はないことになります。NFTの規約にデジタル所有権という表記がなされることがありますが、それも民法上で認められた権利ではありません。
また、著作権や商標権ですが、多くのNFT ではそれらの権利が移るとは書かれていません。また、何億円も払って購入した絵を独占的に鑑賞できる権利があるのかというと、通常のNFTでは画像は誰でもダウンロードできる。そういうことを考えると、NFTを持っていたら何の権利を有するのか。
私自身は法律上の所有権でないにせよ、鑑定書付きでデジタルデータを保有している、排他的にNFT を移したりする権利、という意味でデジタル所有権があるといってもいいと考えておりますが、先に述べたとおり民法上の権利ではないということになります。
荻生:現在のNFTは、OpenSeaという巨大なマーケットプレイスでの取引が多いと聞きます。日本でも10前後のマーケットプレイスが立ち上がってきましたが、森川さんは今後のマーケットプレイスはどうあるべきとお考えですか。
森川氏:グローバルでもっとも利用されているマーケットプレイスがOpenSeaですが、そこに出品されている99パーセントは買われていないともいわれています。椎名さんもおっしゃっていましたが、大きなマーケットプレイスであれ、もはやNFTを出せば売れるという状態ではないと思います。その中で、OpenSeaのようなグローバルなものだけではなくコミュニティに根差したもの、セレクトショップみたいな NFT マーケットプレイスも出てきていますし、近いうちに日本独自の切り口を持ったマーケットプレイスも出てくるのかなと思っています。
NFT の活用で重要になってくるのが、日本のコンテンツがグローバル水準で評価されていくことです。日本だけで通用すると評価も価値の高まりもふたをされかねません。同一のブロックチェーン上で発行されている NFT であれば、異なるマーケットプレイスでも同じ NFT を取り扱うことはできますから、市場の流動性という観点に立つと、その辺はNFT マーケットプレイス側もしっかり整備するべきだと思っております。
荻生:NFT購入後で気になるのは、盗難などのセキュリティ面です。
森川氏:NFTの管理を事業者と個人のどちらが行うかという話になると思いますが、われわれが一般向け暗号資産のウォレットサービスを提供した際には、個々のスマートフォン内の「秘密鍵」により、個人主導で暗号資産を管理していただきました。しかし、「秘密鍵」を紛失してウォレットにアクセスできないというケースも少なからずありました。となると、やはり事業者側で管理した方がいいでしょう。NFTについては現状、暗号資産のようにカストディの規制の話が出ていませんので、事業者側がユーザーのNFTを管理して、従来の ID パスワードのログイン情報をもとにひも付けてあげるということもできます。
ですが、事業者側が多数のNFTを管理するようになると、セキュリティリスクも高まりますから、現時点では事業者と個人による管理についての明確な答えが出ていません。私個人では、今後のWeb3.0の世界観でいくと、まずは個人がしっかり管理できるような状況をつくり、その先で事業者と個人が互いにリスク分散した中間的なソリューションが出てくるべきだと考えております。
荻生:最後に私から。平議員がご提示くださった資料で興味深かったのは、DAO特区や暗号資産関連のクリプト・ビザ発行です。それらが技術ベースで実現していけば、さまざまな法律を緩和させていき、日本は世界に画期的な価値をもたらす可能性があると思いました。ソフト面の整備が進むことによって、NFT に限らずブロックチェーンやDAO、Web 3.0の環境もこの日本でしっかりと整っていくのではないでしょうか。私が所属している日本ブロックチェーン協会でも、官民の区別を越えた率直な議論を繰り返しています。今後もこの国において、新しい Web 3.0の社会とビジネスをつくり上げることを大きな期待として、このパネルディスカッションを終わります。