おそらく銀行が最も憂慮すべき動向は、BNPL事業者がより伝統的な銀行サービスにも進出していることです。PayPalでは、「Pay in 4 option」経由の購入限度額を撤廃し、今では顧客はクレジットカードではなく、銀行口座から直接返済することができるようになりました。B2B分野への進出を進めている事業者もあります。オーストラリアのフィンテック企業のSpendaは、自らを企業の成長をサポートする、より迅速でより柔軟な「ノンバンク」融資を提供する企業と位置付けました。
倫理的な融資の徹底と債務不履行リスクの軽減
消費者保護を目的としたさまざまなアプローチを検討している規制当局も、BNPLの急成長に注目しています。
オーストラリア証券投資委員会はBNPL市場の徹底的な調査を行いました。オーストラリア財務省は現在のところ、業界の自主規制規則を容認しています。英国では、FCA理事会の委託を受け発行された「Woolard Review」にて提言された規制を受けて、2021年に規制法案が可決されました。英国財務省は現在、施⾏命令についての協議を進めています。
欧州の他の諸国でも、⼩売業のウェブサイトにおいて信⽤取引が目立っていることに対し法律の制定または検討が進められています。米国では2021年12月に消費者金融保護局がBNPLサービスについての調査を開始し、消費者が負債を堆積できてしまうプランがあること、不十分な規制当局への情報開示、および事業者による顧客データの収集について、懸念があることを示しています。
多くの規制当局が懸念するBNPLモデルの最⼤の問題は、⻑期的展望に関して⼀部の業界関係者が⽰している懸念と重なります。一部のBNPLプラットフォームについて、収益の25%が延滞料金となることが予想されるため、このモデルの持続可能性に疑問の声が上がるようになってきました。債務不履行リスクが高まるため、消費者の信用力の透明性と購買能力の欠如も懸念材料です。英国のWoolard Reviewによると、ある大手銀行の顧客で、BNPLを初めて利用した人の10%がすでに滞納していることが分かりました。
BNPLの提供を検討している銀行は、持続可能で、法令順守し、事業者と消費者双方の利益のバランスを取ったモデルを構築するのであれば、こうした懸念材料に留意し、規制当局がどのようにそれを軽減する可能性があるか注目しなければなりません。
飽和状態の市場での競争
BNPLが成長し続ける中、銀行は今後、この市場への参入方法や意向を検討する必要があるでしょう。参入しない銀行や、参入を長らくためらっている銀行は、拡大するバリュープールから締め出され、また、さまざまな信用ニーズを持つ世代の消費者に接する機会を失いかねません。市場を席巻するフィンテック企業に挑む銀行については、既存の強みをいかに生かすかが、成功の鍵を握るかもしれません。
- パートナーシップを組み、差別化した商品を生み出す – BNPL事業者と手を組むことで、従来の強みと資本を最大限に生かしながら、短期の少額ローンを含む、革新的な新しいクレジットオプションに事業を拡大させることができます。例えば、オーストラリアのある銀行は、既存のプラットフォームを活用したBNPLオプションを顧客に提供するため、フィンテック企業と手を組みました。また米国では、BarclaysがAmountとパートナーシップを組み、加盟店のブランドの下で消費者が融資を受けることのできる、POSファイナンスを加盟店に提供しています。
- 会計時にクレジットカード経由でBNPLを提供する – ブラジル、アルゼンチン、チリなど一部ラテンアメリカ諸国では、銀行が以前から、分割払いを選んだ顧客を対象に、会計時にクレジットカード経由でBNPLオプションを提供していました。米国ではバリューチェーンがより複雑であるため、こうした決済方式の本格的な導入は困難を伴うかもしれません。しかし、これは同時に、銀行に成長機会をもたらしてもいます。具体的には、ヘルスケア、プロフェッショナルサービス、住宅と自動車のメンテナンスなど高価値セグメントへの進出などです。
- 独自プラットフォームを購入または構築する – Commonwealth Bank of Australia(CBA)はBNPLの脅威に真っ向から立ち向かっています。独自のBNPLサービス「StepPay」の提供を開始し、加盟店手数料を低く設定しました。他の銀行もこれに倣い、アプリや決済端末を含めたインフラへの投資を生かしながら、加盟店との関係やバランスシートを収益化するようになってきました。また、BNPL事業者を買収することで、市場参入の迅速化を図るという選択肢もあります。米国の銀行Truist Financial CorporationはService Finance Companyを買収し、POSファイナンスへの進出を加速させました。
- 加盟店手数料を引き下げる – BNPLの競争激化と規制強化により加盟店手数料は今後、下がる可能性が高いと思われます。銀行は規制市場で事業を展開し、低価格の決済モデルを提供してきた経験を生かすことで、こうしたコストをさらに削減できる可能性があります。
- カードプラットフォーム周りのイノベーションを起こす – 既存アカウントの複数の分割払いを⼀括管理するなど、銀行は既存のクレジットカードオプションを充実させることで、柔軟性の高い融資を提供し、BNPLを魅力的な決済サービスにすることができます。Citibankは、これを実現しました。新たな決済プランのCiti Flex Payでは、クレジットカードの顧客が、所定の期間、毎月決まった額を支払うことで、購入と決済を行えます。
今こそ行動を起こす時
銀行はこれまで、フィンテック企業がBNPL分野で主導権を握ることを許してきました。市場を席巻するフィンテック企業に挑むことは簡単ではないでしょう。しかし、POSファイナンスという新しいタイプの融資サービスの人気は、顧客と加盟店、双方の間で高まる一方です。今後は、この成長市場における自らの立ち位置を検討することが銀行に求められるでしょう。さもなければ、収益と市場シェアを拡大させる機会を失いかねません。
本記事の主執筆者はPatricia Partelow, EY Managing Director, EY Financial Services Consultingです。