VC&ファンド業 第6回:有責組合に関連する会計処理の概要(後編)

2022年2月10日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 VC&ファンドセクター
公認会計士 飯室圭介

7. 成功報酬及びキャリード・インタレストに係る会計処理

有責組合の収益のうち無限責任組合員が受領すべき部分について、組合契約において、①有責組合の費用、すなわち無限責任組合員のキャピタル・ゲイン獲得等に対する貢献への対価たる成功報酬として規定する場合と、②無限責任組合員への分配、出資割合を超えるキャピタル・ゲインの分配、すなわちキャリード・インタレストとして規定する場合とがあります。

成功報酬として規定するかキャリード・インタレストとして規定するかは、主に税務上の取り扱いを意識したものであり、個人(または個人を構成員として組成される有限責任事業組合)が無限責任組合員となる有責組合の増加に応じて、キャリード・インタレストとして規定する有責組合も増加しています。

キャリード・インタレストの発生条件、算定方法に関しては幾つものバリエーションがありますが、例えば出資約束金額の全額の分配が行われることを条件として規定した場合、下図のとおりとなります。

キャリード・インタレスト (例)出資約束金額の全額の分配が行われることを条件とする場合

図 キャリード・インタレスト

なお、成功報酬又はキャリード・インタレストの発生条件、算定方法などの定め方によって、クローバック(無限責任組合員が受領した成功報酬又はキャリード・インタレストの返戻)が発生する可能性があり、特に無限責任組合員において引当金等の会計処理について検討が必要となる点について留意が必要です。

① 成功報酬

有責組合における会計処理として、成功報酬は、一般的にキャピタル・ゲインを基礎に算定され、ファンドにもたらした超過利潤に対する無限責任組合員への報酬という考え方により、投資原価の一項目に「支払報酬」として記載することとされています(業種別委員会実務指針第38号36項)。

一方、無限責任組合員(個人)の所得税の計算においては、総合課税の対象となり、累進課税の方法で定まる税率が適用されます。

② キャリード・インタレスト

有責組合における会計処理として、無限責任組合員のキャリード・インタレストは、あくまで無限責任組合員に対する組合利益の分配の概念であるため、「当期分配金」に含めて記載することとされています(業種別委員会実務指針第38号 付録1 有責組合会計規則に準拠した財務諸表等のひな型 (5) 附属明細書のひな型 3.組合員の持分に関する明細 (記載上の注意))。

一方、無限責任組合員(個人)の所得税の計算においては、申告分離課税により一律の税率となります。かかる税務上の取扱いに関して、金融庁は、組合利益の分配として組合契約に定められ、かつ分配割合が経済的合理性を有していないと認められる場合を除き(下記要件参照)、分配割合に応じた構成員課税の対象になることについて国税庁に照会し確認を得ています。

(要件)

「組合契約」について
  • 組合契約の締結及び組合財産の運用が各種の法令に基づいて行われていること
  • ファンドマネージャーが金銭等の財産を投資組合に出資していること
「利益の分配」について
  • キャリード・インタレストについて、組合契約上、利益の分配を規定する条項に定められていること
「経済的合理性」について
  • 組合契約に定めている分配条件が恣意的でないこと
  • 組合契約の内容が、一般的な商慣行に基づいていること
  • ファンドマネージャーが投資組合事業に貢献していること

以上の内容を整理すると下表のとおりとなります。

  成功報酬 キャリード・インタレスト
ファンド会計処理 費用 分配
GP(個人)の税務 総合課税 申告分離課税
参考文献等
  • 『キャリード・インタレストの税務上の取扱いについて』 金融庁(令和3年4月1日)