VC&ファンド業 第4回:有責組合に関連する会計処理の概要(前編)

2022年2月10日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 VC&ファンドセクター
公認会計士 渡部紘士

はじめに

第4回から第6回は「投資事業有限責任組合(以下、有責組合)に関連する会計処理の概要」について、次の解説をします。

  1. 有責会計基準と金融商品会計基準の相違及び有責組合の投資の評価
  2. 出資者(組合員)側の取込の会計処理
  3. 有責組合を連結する際の論点
  4. 有責組合特有の継続企業の前提
  5. 有責組合における重要な会計方針の開示
  6. 日本公認会計士協会業種別委員会実務指針第38号「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」(2021年8月19日)(以下、業種別実務指針38号)改正のポイント
  7. 成功報酬及びキャリード・インタレストに係る会計処理

なお、文中の意見にわたる部分は執筆担当者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。

1. 有責会計基準と金融商品会計基準の相違及び有責組合の投資の評価

(1) 時価概念の相違及び有責組合の投資の評価

一般事業会社の有価証券の時価評価対象は、売買目的有価証券及びその他有価証券に分類されるもので、特に株式については市場価格のあるものに限定されます。これに対し、有責組合の投資勘定は、原則として市場価格のない株式等についても、各組合の組合契約に定める評価基準に従って時価評価を行います(中小企業等投資事業有限責任組合会計規則第7条)。

ただし、現行の会計基準では、市場価格のない株式等は、評価益を計上せず取得原価評価であること及び保守主義の観点から、時価>取得価額の場合で、会計方針として取得価額で計上する旨を定めた場合、評価益の計上をしないこともできます(中小企業等投資事業有限責任組合会計規則第7条2項)。

なお、市場価格のない株式等の時価評価を含めた有価証券の時価評価の方法として、実務では、経済産業省から2018年3月に公表されている「投資事業有限責任組合(例)及びその解説」の「投資資産時価評価準則」として例示されている「投資事業有限責任組合における有価証券の評価基準モデル」を参考にして評価基準を設定しているケースが多く見受けられます。

(2) 貸借対照表日の翌日から存続期限までの期間が一年未満となった場合の投資の評価の考え方

貸借対照表日の翌日から存続期限までの期間が一年未満となった場合で、かつ、その存続期限を延長せずにその存続期限までに資産の回収及び負債の返済を完了させる計画である場合においては、処分期間のない中で流動性の低い市場性のない有価証券を換価処分することになることから、残存するすべての市場性のない有価証券について、早期換金化による流動性リスクを加味した回収可能価額での評価が適切に財務諸表等に反映されることが必要となります(業種別実務指針38号25項、26項)。なお、回収可能価額の見積りにおいて、早期換金化による流動性リスクを加味した場合、その旨を財務諸表に注記する必要があります(業種別実務指針38号38項)。

(3) 例外的に組合財産(市場性のない有価証券)の換金化が完了できずに存続期限が到来した場合の投資の評価の考え方

このケースでは、「存続期限後の清算期間の有責組合は、財産を換価処分し残余財産を分配する清算手続目的の範囲内でのみ存在することから、清算期間において速やかに換価処分されることを前提とした処分可能価額の合理的な見積額による評価が適切に財務諸表等に反映されることが必要(業種別実務指針38号27項)」とされています。通常、存続期限を延長せず清算期間に入る有責組合は、清算期間が1年を超えるような長期にわたることは想定しておらず、売却交渉等を通じ、売却先との合意見込額など換金化に向けての処分可能価額が相当程度具体化しつつある状況であると考えられます。従って、売却先との合意見込額などを処分可能価額の評価とすべきであり、例えば、半年内に上場することが明確であるにもかわらず合理的な理由なく取得原価のままで評価することや明らかに備忘価額を大きく超える売却が合理的に見込めるにもかかわらず、備忘価額で評価することは認められないことに留意する必要があります。

なお、処分可能価額の合理的な見積り方法については、財務諸表に注記する必要があります(業種別実務指針38号38項)。

(4) 投資証券の評価差額の会計処理の相違

有責会計基準と金融商品会計基準とでは、市場価格のない株式等以外の有価証券の時価評価差額及び外貨建有価証券の為替換算差額の会計処理方法が異なります。具体的には、以下の図表の通りに会計処理されます。

  有責会計規則 金融商品会計基準
投資証券の評価差額の会計処理 損益計算書の末尾の「未実現損益調整額」に計上 貸借対照表の純資産の部の「その他有価証券評価差額金」に計上

2. 有責組合の出資者(組合員)側の取込の会計処理

組合の財産は出資者(組合員)の「共有」のものであり、組合の権利義務は、特段の定めがない場合、各出資者(組合員)に出資割合に応じて帰属します。これは民法組合の「共有・合有」に基づく考え方です。このため、特段の定めがない場合、会計上も、組合の持分・損益については、各出資者(組合員)が出資割合に応じて取り込む会計処理をすることとなります。

出資者(組合員)が組合の持分・損益を取り込む方法には、以下の3方法があります。

(イ)純額方式(Net-Net法)
貸借対照表・損益計算書とも持分相当額を純額で計上する方法

(ロ)損益帰属方式(Gross-Net法)
貸借対照表は純額で計上し損益計算書は損益項目の持分相当額を計上する方法

(ハ)完全認識方式(Gross-Gross法)
貸借対照表・損益計算書とも各項目の持分相当額を計上する方法

上記の3方法はいずれも金融商品会計基準にて採用が認められており、金融商品会計の実務指針では「契約内容の実態及び経営者の意図を考慮して、経済実態を適切に反映する会計処理及び表示を選択する」とされています(金融商品会計実務指針308項)。このため、当該組合への出資の実態・意図等を考慮し、どの方法を採用するか決定する必要があります。

また、上記の3方法はいずれも税務上も採用が認められていますが、各方法により、組合で発生した加減算項目や所得税額控除を出資者(組合員)の税金計算に反映することが認められる範囲が異なるため(法基通14-1-2)、この点について注意が必要です。

3. 有責組合を連結する際の論点

(1) 有責組合連結の概要

「第1回:VC及びVCファンドの事業の概要」において説明したとおり、有責組合を連結の範囲に含めるか否かは、「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」(以下、実務対応報告20号)に従い検討することになります。

すなわち、実務対応報告20号においては、連結の範囲は一般事業会社のように議決権基準ではなく、業務執行の権限により支配しているか否かを判断することとされています。

この結果、多くの有責組合は、無限責任組合員(業務執行者)であるベンチャーキャピタルの子会社に該当するものとして取り扱われることとなり、ベンチャーキャピタル各社の決算書に大きな影響を与えることになりました。

一方、出資者がファンド出資総額の半分を超える多くの額を拠出する場合やファンドの利益又は損失の半分を超える多くの額を享受又は負担する場合等は、業務執行の権限を支配している者が、当該出資者の緊密な者に該当する場合が多いと考えられ、この場合、当該ファンドは当該出資者の子会社に該当するものとして取り扱われていることに留意する必要があります。

(2) 有責組合連結の影響

連結貸借対照表については、連結により組合の外部出資者持分も含めて合算されることから、連結貸借対照表上の総資産が従来に比べて大きくなることになりました。つまり、外部出資者持分の割合が大きいほど連結貸借対照表に与える金額の影響も大きくなります。

連結損益計算書については、連結により組合に計上されている損益項目が外部出資者持分も含めて合算されてしまうことから、各損益項目(以下で述べる管理報酬及び成功報酬を除いて)が従来に比べて多く計上されることになります。そのため、当期純利益までの段階利益に関しては、組合が利益を計上している場合は、その分の利益が合算されますが、損失を計上している場合は損失が合算され、外部出資者持分の割合が大きいほど、連結損益計算書の各段階損益に与える金額の影響も大きくなります。しかし、連結損益計算書の末尾にて、当期純利益のうち、外部出資者持分に係るものは非支配株主に帰属する当期純利益として表示され、外部出資者持分に係るものを除いた当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益として表示されます。従って、実務対応報告20号適用前の従来の方式でも組合連結後でも最終的な親会社株主に帰属する当期純利益の金額は一致することになります。

また、組合を運営するベンチャーキャピタルにとって、管理報酬及び成功報酬はファンド運営のパフォーマンスを判断する上で重要な指標ですが、組合を子会社に含めることにより、ベンチャーキャピタルが組合より受領する管理報酬、成功報酬は親子会社間取引に該当することから、連結決算上相殺されることになります。

このように組合連結による連結決算に与える影響が大きいため、上場しているベンチャーキャピタルの中には、決算発表時には組合連結による通常の決算書だけでなく、連結する以前の方式により作成した決算書を決算短信又は決算説明資料に載せることで、従来からの決算との比較可能性を保つようにしている会社もあります。