ソフトウェア 第2回:研究開発費の具体例と会計処理

2011年3月28日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 井澤依子

1. 研究開発費の具体例と会計処理

(1)研究開発費の範囲(構成する原価要素)

研究開発費には、人件費、原材料費、固定資産の減価償却費及び間接費の配賦額等、研究開発のために費消された全ての原価が含まれることになります(会計基準二)。

研究開発の範囲については、活動の内容が実質的に研究・開発活動であるか否かにより判断すべきです。従って、組織上は研究開発部門の費用であっても、それが研究開発活動に係るものでなければ研究開発費とはなりません。逆に製造部門において研究開発活動が行われる場合には、その活動に係るコストが研究開発費となると考えられます。

(2)研究開発費の具体例

以下の【研究・開発の典型例】から分かるように、研究・開発の範囲には、従来製造又は提供していた業務にはない、まったく新たな製品等を生み出すための調査・探求活動や、現在製造している製品又は提供している業務に関する著しい改良が含まれます。逆に、現在製造している製品や業務を前提とした通常の改良や改善活動などは、ここでいう研究・開発には該当しないと考えられます。【研究・開発に含まれない典型例】もご参照ください。

【研究・開発の典型例】(実務指針2項)

  • 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探究
  • 新しい知識の調査・探究の結果を受け、製品化又は業務化等を行うための活動
  • 従来の製品に比較して著しい違いを作り出す製造方法の具体化
  • 従来と異なる原材料の使用方法又は部品の製造方法の具体化
  • 既存の製品、部品に係る従来と異なる使用方法の具体化
  • 工具、治具、金型等について、従来と異なる使用方法の具体化
  • 新製品の試作品の設計・製作及び実験
  • 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
  • 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動

【研究・開発に含まれない典型例】(実務指針26項)

  • 製品を量産化するための試作
  • 品質管理活動や完成品の製品検査に関する活動
  • 仕損品の手直し、再加工など
  • 製品の品質改良、製造工程における改善活動
  • 既存製品の不具合などの修正に係る設計変更及び仕様変更
  • 客先の要望等による設計変更や仕様変更
  • 通常の製造工程の維持活動
  • 機械設備の移転や製造ラインの変更
  • 特許権や実用新案権の出願などの費用
  • 外国などから技術導入により製品を製造することに関する活動

(3)研究開発費の会計処理

a. 原則

研究開発費は資産計上が認められず、発生時に費用処理します(会計基準三)。

b. 企業結合

平成20年改正企業結合会計基準では、仕掛研究開発について企業結合の取得対価の一部を研究開発費等に配分して費用処理する会計処理を廃止し、資産計上を認めることとしています。すなわち、企業結合により被取得企業から受け入れた資産については、受注制作、市場販売目的及び自社利用のソフトウェアを除き、研究開発費等に係る会計基準の定めの例外的な取扱いをすることとされています。

c. 研究開発の委託

自社に研究開発の設備がない場合には、他社に研究開発の委託を行うケースが考えられます。委託研究については一般的に研究の成果は委託者側に帰属するものと考えられるため、委託研究に係る費用は全て発生時(研究開発の内容について検収等を行った段階)に費用処理することとなります(実務指針3項)。

d. 特定の研究開発目的の機械装置等

特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない機械装置等に係る原価は取得時に研究開発費として処理します(会計基準注解1)。一方、特定の研究開発目的に使用された後に、他の研究プロジェクトや営業など他の目的に使用できる場合には、機械装置等として資産計上し、研究開発目的で使用される期間の減価償却費を研究開発費として費用処理します(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A(以下、Q&A)Q6)。

(4)研究開発費の表示と開示

a. P/L表示

発生時に費用として処理する方法には、一般管理費として処理する方法と、当期製造費用として処理する方法がありますが(会計基準注解2)、研究開発費は、新製品の計画・設計又は既存製品の著しい改良等のために発生する費用であり、一般的には原価性がないと考えられるため、通常、一般管理費として計上することになります。

ただし、製造現場において研究開発活動が行われ、かつ、当該研究開発に要した費用を一括して製造現場で発生する原価に含めて計上しているような場合があることから、研究開発費を当期製造費用に算入することが認められています。その場合には、研究開発費としての内容を十分に検討してその範囲を明確にすることが求められており、製造現場で発生していても製造原価に含めることが不合理であると考えられる研究開発費については、当期製造費用に算入できないとしています。

特に当期製造費用の大部分が期末仕掛品等として資産計上されることとなる場合には、妥当な会計処理とは認められないことに留意が必要です(実務指針4項)。

b. 注記

研究開発の規模について企業間の比較を容易にするため、一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発費の総額を財務諸表に注記します(会計基準五)。なお、研究開発費は、当期製造費用として処理されるものを除き、一般管理費の「研究開発費」という勘定科目名を付して記載することとされています(実務指針4項)。

c. 有価証券報告書の開示

有価証券報告書の「事業の状況」における「研究開発活動」の記載は、 連結財務諸表を作成する会社においては連結ベースで、個別財務諸表のみを作成する会社においては個別ベースで、研究開発活動を開示することになっています。また、研究開発活動の状況及び研究開発費の金額を、セグメント情報に関連付けて記載することになっています。

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