公認会計士 湯本 純久
1. 報告セグメントの決定
セグメント情報の開示に当たって企業がまず対応しなければならないのが報告セグメントを決定することだと思われます。
報告セグメント決定の手続きとして、企業は事業セグメントを識別し、識別した事業セグメントを集約基準に基づいて集約し、集約された事業セグメントを量的基準に従って重要性のあるセグメントに絞り込むことにより開示すべき報告セグメントを決定します。報告セグメントの決定は、以下の決定手続により決定します。
【報告セグメントの決定手続】
2. 事業セグメントの識別
(1) マネジメント・アプローチの考え方
マネジメント・アプローチでは、経営者が経営上の意思決定を行い、また、業績を評価するために、企業の事業活動を区分した方法に基づいて、単一の区分方法によるセグメント情報を連結財務諸表または個別財務諸表に開示することにしています。セグメント会計基準では、当該目的で経営者の設定する企業の構成単位を「事業セグメント」といいます(セグメント会計基準6項、61項)。「事業セグメント」は、企業の構成単位で、次の要件のすべてに該当するものをいいます(セグメント会計基準6項)。
① 収益を稼得し、費用が発生する事業活動にかかわるもの(同一企業内の他の構成単位との取引に関連する収益および費用を含む)
② 企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、また、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの
③ 分離された財務情報を入手できるもの
事業セグメントの要件を満たすセグメントの区分方法が複数ある場合の取り扱いとして、企業は各構成単位の事業活動の特徴、それらについて責任を有する管理者の存在および取締役会等に提出される情報などの要素に基づいて企業の事業セグメントの区分方法を決定するものとします(セグメント会計基準9項)。
また、連結財務諸表上、持分法を適用している関連会社(および非連結子会社)であっても企業の事業セグメントを構成することがあります。この場合にセグメント情報として開示する額は、当該企業の中で最高経営意思決定機関に報告されている金額の取り扱いに従って、連結損益計算書に計上されている持分法投資利益(または損失)の金額、持分法適用会社の財務情報の金額または当該財務情報の金額に持分割合を乗じた金額により行うことになります(セグメント適用指針4項)。
(2) 固定資産のグルーピングとの関係
事業セグメントを識別した結果、当該セグメントの範囲が固定資産のグルーピング単位に影響を及ぼす可能性があることに留意が必要です。
① 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第73項との関係
「連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくても、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられる」としています。資産グループは、管理会計上の区分や投資に意思決定単位で行うことができると考えられていますが、大小関係に留意すべきです。
② 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第74項との関係
セグメントに当該資産グルーピングについては、事実関係の変化した場合を除き、翌期以降の会計期間においても同様に行うとされており(減損会計適用指針 7項、74項)、事実関係が変化した場合の例示として、セグメンテーションの方法等の変更などが挙げられています。
今回の、マネジメント・アプローチによる事業セグメントは、新しい会計基準に基づくもので、セグメンテーションの方法等の変更には該当しませんが、グルーピングの変更に影響を及ぼし、減損損失を認識するか否かの重要な局面に該当する場合は慎重な対応が望まれます。
3. 集約基準
複数の事業セグメントが次の要件を満たす場合、企業は当該事業セグメントを一つの事業セグメントに集約することができます(セグメント会計基準11項)。
(1) 基本原則(セグメント会計基準4項)と整合していること
(2) 経済的特徴がおおむね類似していること
(3) 次のすべての要素がおおむね類似していること
①製品およびサービスの内容
②製品の製造方法または製造過程、サービスの提供方法
③製品およびサービスを販売する市場または顧客の種類
④製品およびサービスの販売方法
⑤銀行、保険、公益事業等のような業種に特有の規制環境
4. 量的基準
会計基準では、報告セグメントを決定する際に考慮すべき一定の基準値を定めています。企業は、次の量的基準のいずれかを満たす事業セグメントを報告セグメントとして開示しなければならないとされています(セグメント会計基準12項)。
(1) 事業セグメント間の内部売上高または振替高を含む売上高がすべての事業セグメントの売上高の合計額の10%以上
(2) 利益または損失の絶対値が、①利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額、または②損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上
(3) 資産がすべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上
5.「その他」の区分について
報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が連結損益計算書または個別損益計算書(以下、損益計算書)の売上高の75%未満である場合には、損益計算書の売上高の75%以上が報告セグメントに含まれるまで、報告セグメントとする事業セグメントを追加して識別しなければなりません。従来のセグメント情報の開示では、「その他」として一括されたセグメントを除く開示の対象になった売上高合計額が連結損益計算書の50%以下である場合には、その理由を明らかにするとともに「その他」として一括されたセグメントについて一定の事項を開示していましたが、この扱いと比較しますと開示されるセグメントの対象範囲が広がったといえると考えます。
6.セグメント情報の開示項目と測定方法
(1) セグメント情報の開示項目
連結財務諸表または財務諸表にセグメント情報として開示すべき項目は以下のとおりです(セグメント会計基準17項~22項)。
開示項目 | 開示内容 |
---|---|
報告セグメントの概要 |
|
報告セグメントの利益(または損失)、資産および負債等の額 |
① 外部顧客への売上高
① 持分法適用会社への投資額(当年度末残高) |
財務諸表計上額との間の差異調整に関する事項 | 報告セグメントの各開示項目についてこれに対応する財務諸表計上額との差異に関する事項を開示する。 ① 報告セグメントの売上高の合計額と損益計算書の売上高計上額 |
(2) セグメント情報の測定方法
セグメント会計基準は、上記のセグメント情報の各開示項目の測定方法について少なくとも以下の事項を開示しなくてはいけません。また、財務諸表の作成に当たって行った修正や相殺消去、または特定の収益、費用、資産または負債の配分は、最高経営意思決定機関が使用する事業セグメントの利益(または損失)、資産または負債の算定に含まれる場合にのみ、報告セグメントの各項目に含めることができます。ただし、特定の収益、費用、資産または負債を各事業セグメントの各項目に配分する場合には、企業は合理的な基準に従って配分しなければなりません(セグメント会計基準23項)。
【測定方法に関する事項】(セグメント会計基準24項)
状況 | 開示事項 |
---|---|
報告セグメント間の取引がある場合 | その会計処理の基礎となる事項 |
報告セグメントの利益(損失)と損益計算書の利益(損失)との間に差異があり、差異調整に関する事項からはその内容が明らかでない場合 | その内容 |
報告セグメントの資産(負債)の合計額と貸借対照表の資産(負債)計上額との間に差異があり、差異調整に関する事項からはその内容が明らかでない場合 | その内容 |
事業セグメントの利益(損失)の測定方法を変更した場合 | その旨、変更の理由およびセグメント情報への影響 |
事業セグメントに対する特定資産(負債)の配分基準と関連する収益(費用)の配分基準が異なる場合 | その内容 |
7.その他のセグメント情報の開示
セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合を除き、以下の事項をセグメント情報として開示しなければなりません。当該セグメント情報として開示される金額は、当該企業が財務諸表を作成するために採用した会計処理に基づいた数値によるものとされます(セグメント会計基準29項)。
開示項目 | 開示内容 |
---|---|
セグメント情報の関連情報 | ① 製品およびサービスに関する情報 ② 地域に関する情報 国内の外部顧客への売上高に分類した額と海外の外部顧客への売上高に分類した額 ③ 主要な顧客に関する情報 |
固定資産の減損損失に関する事項 | ① 損益計算書に固定資産の減損損失を計上した場合には、その報告セグメント別の内訳を開示する。 ② 報告セグメントに配分されていない減損損失がある場合には、その額およびその内容を記載する。 |
のれんに関する事項 | ① 損益計算書にのれんの償却額または負ののれんの償却額を計上した場合には、その償却額および未償却額残高に対する報告セグメント別の内訳を開示する。 ② 報告セグメントに配分されていないのれんまたは負ののれんがある場合には、その額およびその内容を記載する。 |
8.組織変更等による報告セグメント区分の変更等
セグメント会計基準では、マネジメント・アプローチの考え方が採用され、「事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法」は会計方針に該当せず、財務諸表を作成するための会計処理の原則及び手続に準拠することを求めないこととされました(セグメント会計基準83、86項)。したがって、財務諸表を作成するための「会計方針」を変更した結果、「事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法」が合わせて変更された場合は、前事業年度のセグメント情報について、遡及適用の影響を反映した情報を開示することになります(セグメント会計基準97-2項)。
その他、会計方針の変更ではありませんが、これに類似する事象について、セグメント会計基準等上の取扱いを整理すると、以下のとおりです。
① 組織変更等による報告セグメント区分の変更
年度 | 四半期 | |
---|---|---|
原 則 |
前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示 (セグメント会計基準27項) |
変更を行った四半期以後、その内容(変更後の区分方法による利益及び売上高など)を記載(四半期会計基準19項(7)④、25項(5-2)④、四半期適用指針40項(1)②)。 |
容 認 |
実務上困難な場合には、当年度のセグメント情報を前年度の区分方法により作成した情報を開示することができる (セグメント会計基準27項ただし書、セグメント会計基準28項) |
実務上困難な場合には、期首からの累計期間について前年度の区分方法により作成した報告セグメントの利益及び売上高の情報を記載することができる (四半期適用指針40項(1)②ただし書、四半期適用指針40項また書) |
② 量的重要性の変化による開示セグメントの範囲の変更
年度 | 四半期 | |
---|---|---|
原 則 |
前年度のセグメント情報を当年度の報告セグメントの区分により作り直した情報を開示(セグメント会計基準16項) | 変更を行った四半期以後、その内容(利益及び売上高に与える影響など)を記載 (四半期会計基準19項(7)④、25項(5-2)④、四半期適用指針40項(1)①) |
容 認 |
実務上困難な場合には、セグメント情報に与える影響(前年度の区分方法により作成した当年度情報を開示することを含む。)を開示することができる (セグメント会計基準16項ただし書) |
当年度の報告セグメントの区分により作り直した情報が、最高経営意思決定機関に対して提供され、使用されている場合には、当該情報を記載することが考えられる(四半期適用指針106項なお書) |
③ セグメント利益(損失)の測定方法の変更
年度 | 四半期 | |
---|---|---|
原 則 |
変更がセグメント情報に与えている影響を開示(セグメント会計基準24項(5)) | 変更を行った四半期以後、その内容(利益及び売上高に与える影響など)を記載 (四半期会計基準19項(7)④、25項(5-2)④、四半期適用指針40項(2)) |
容 認 |
当年度の測定方法に基づき作り直した前年度情報を開示することで影響を開示することが望ましい(セグメント会計基準86項) | 変更後の測定方法により作成した前年度の売上高及び利益を記載することも考えられる(四半期適用指針106項なお書) |
④ 第2四半期以降でのセグメント利益(損失)の測定方法又はセグメント区分の変更
原則 | 容認 |
---|---|
変更を行った四半期以後、その内容及び第2四半期以降に変更した理由を記載 (四半期会計基準19項(7)④、⑤、25項(5-2)④、⑤、四半期適用指針40項(2)) |
上記①~③の四半期・容認の欄参照 |
この記事に関連するテーマ別一覧
セグメント情報等の開示に関する会計基準
- 第1回:セグメント開示制度の概要 (2012.04.10)
- 第2回:報告セグメントの決定 (2012.04.10)
- 第3回:セグメント情報の開示 (2012.04.10)