2023年3月期 有報開示事例分析 第14回:2年目の収益認識注記開示分析③(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報)

2023年12月8日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山 文隆

Question

2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の収益認識に関する注記(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報)に関する注記の開示の状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2023年8月
  • 調査対象期間:2023年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する201社
    ①2023年4月1日現在、JPX400に採用されている
    ②3月31日決算である
    ③2023年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ④日本基準を適用している

【調査結果】

(1) 契約資産及び契約負債の残高

金融庁から2023年3月24日に公表された「令和5年度の有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき事項」(以下「有報レビュー」という。)の結果のうち、契約資産及び契約負債の残高等の注記においては、その内容や履行義務の充足の時期、通常の支払時期との関係を具体的に説明している開示が好開示例として記載されている。そこで契約資産及び契約負債の残高等の注記を記載している168社を対象として、定性的な説明の有無を調査した。調査結果は<図表1>のとおりである。

<図表1> 契約資産及び契約負債の残高等の注記における定性的な説明の有無

記載内容 会社数 調査対象会社に占める割合
定性的な説明あり 126社 75.0%
定性的な説明なし 26社 15.5%
小計 152社 90.5%
重要性が乏しいため省略 16社 9.5%
合計 168社 100.0%

定性的な説明がある開示例については、「契約資産及び契約負債の内容の説明」及び「履行義務の充足の時期と通常の支払時期が契約資産及び契約負債の残高に与える影響」をどちらも記載している事例だけではなく、「契約資産及び契約負債の内容の説明」のみ記載している開示例も含まれている。

また、契約資産及び契約負債の残高等の注記を記載している152社を対象として、2022年3月期決算の有報と2023年3月期決算の有報の主な記載内容の変化を調査した。調査の結果、契約資産又は契約負債の内容を新たに追記している開示例が4件、契約資産又は契約負債の内容を拡充している開示例が2件該当した。

(2) 残存履行義務に配分した取引価格

金融庁が公表した有報レビューのうち、残存履行義務に配分した取引価格の注記においては、残存履行義務に配分した取引価格の総額及び収益の認識が見込まれる期間の開示に関して、1年ごとに区分した金額を開示している例が好開示例として記載されている。そこで、調査対象会社(201社)のうち残存履行義務に配分した取引価格の注記を記載していた会社89社を対象に記載方法を調査した。調査結果は<図表2>のとおりである。

<図表2> 残存履行義務に配分した取引価格の注記の記載方法

記載方法 会社数
(ア)  表形式により期間による定量的情報を使用した方法 45社
(イ)  表形式ではないが、比率などを用いて期間による定量的情報により補足している方法 14社
(ウ) 定性的情報を使用した方法 30社
合計 89社

このうち、2022年3月期から2023年3月期にかけて(イ)から(ア)の表形式に変更した会社が1件、(ウ)から(ア)の表形式に変更した会社が2件該当した。明瞭性を高めることや残存履行義務に配分した取引価格の金額的重要性が増したことが変更理由として記載されていた。

また、表形式により期間による定量的情報を使用した方法により注記していた会社45社について、残存履行義務の残存期間の記載方法を調査した結果が<図表3>のとおりである。残存期間の記載方法として1年以内と1年超で区分する事例が24社(53.3%)と最も多く、傾向は2022年3月期決算の調査結果と同様であった。

<図表3>表形式により期間による定量的情報を使用した方法による残存期間の記載

残存期間の記載 会社数 比率
1年以内・1年超 24社 53.3%
1年以内・1年超2年以内・2年超 3社 6.7%
1年以内・1年超2年以内・2年超3年以内・3年超 11社 24.4%
1年以内・1年超3年以内・3年超 2社 4.4%
その他 5社 11.1%
合計 45社 100.0%

また、残存履行義務に配分した取引価格の注記を記載している会社89社を対象として、2022年3月期決算の有報と2023年3月期決算の有報を比較し、主な記載内容の変化を調査した。調査の結果、実務上の便法を適用している旨を新たに追記した会社が6社該当した。有報レビューにおける個別の留意事項として「実務上の便法を適用し、残存履行義務に配分した取引価格の総額等の開示を省略したにもかかわらず、その旨の記載がない」ことが記載されており、こちらを踏まえて追記したものと考えられる。

(旬刊経理情報(中央経済社)2023年9月20日号 No.1688「2023年3月期「有報」分析」を一部修正)

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