EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山 文隆
Question
2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の収益認識に関する注記(重要な会計方針の注記、収益を理解するための基礎となる情報)に関する注記の開示の状況を知りたい。
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2023年8月
- 調査対象期間:2023年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書
- 調査対象会社:以下の条件に該当する201社
①2023年4月1日現在、JPX400に採用されている
②3月31日決算である
③2023年6月30日までに有価証券報告書を提出している
④日本基準を適用している
【調査結果】
金融庁から2023年3月24日に公表された「令和5年度の有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき事項」(以下「有報レビュー」という。)の結果のうち、重要な会計方針の注記及び収益を理解するための基礎となる情報の注記においては、主な履行義務の内容等に関して企業固有の取引内容や契約条件に基づき具体的に説明している開示が好開示例として記載されている。
そこで、調査対象会社(201社)を対象に、重要な収益及び費用の計上基準における「履行義務の内容や当該履行義務を充足する通常の時点の記載方法」を調査した。調査結果は、<図表1>のとおりである。
<図表1> 重要な収益及び費用の計上基準の記載状況
記載方法 | 履行義務の内容や当該履行義務を充足する通常の時点の記載方法 | 会社数 | 調査対象会社に占める割合 |
全社ベース | 事業別、会計処理方法別及びセグメント別等に区分せず、一括して記載する方法 | 76社 | 37.8% |
セグメント・事業別 | セグメント又は主要な事業ごとに区分して記載する方法 | 66社 | 32.8% |
会計処理方法別 | 取引種類や契約形態ごとに区分して記載する方法 | 45社 | 22.4% |
その他 | - | 3社 | 1.5% |
小計 | 190社 | 94.5% | |
記載なし | - | 11社 | 5.5% |
合計 | 201社 | 100.0% |
記載方法が多い順に全社ベース、セグメント・事業別、会計処理方法別、その他という結果となったが、この傾向は2022年3月期の調査結果と同様であった。全社ベースで記載している会社(76社)は主要な事業の内容について説明し、「これらの事業においては」として履行義務の内容や企業が当該履行義務を充足する通常の時点を一括して記載しており、事業が異なっても重要な収益及び費用の計上基準として同一の方法を採用している会社が多い。その他に集計した会社はいずれも収益認識に関する注記を参照しており、参照先においてセグメント・事業別に履行義務の内容や当該履行義務を充足する通常の時点の記載方法を記載していた。
また、有報レビューにおいては、履行義務の内容と収益の分解情報やセグメント情報等との関係性が明瞭である開示が好開示例として記載されている。そこで、重要な収益及び費用の計上基準が記載されている190社を対象として履行義務の内容を分解情報又はセグメント情報と関連付けて記載している開示事例を調査した。調査結果は、<図表2>のとおりである。
<図表2> 履行義務の内容を分解情報又はセグメント情報と関連付けて記載している開示状況
内容 | 会社数 | 調査対象会社に占める割合 |
履行義務の内容を分解情報又はセグメント情報と関連付けて記載 | 107社 | 56.3% |
その他 | 83社 | 43.7% |
合計 | 190社 | 100.0% |
履行義務の内容を分解情報又はセグメント情報と関連付けて記載している会社は107社であり、調査対象会社の半数以上を占めた。また、このうち19社が主な履行義務の内容及び履行義務の充足時点に関して、重要な会計方針では端的に記載した上で、収益認識関係注記で項目ごとにより具体的に説明していた。
履行義務の内容を分解情報又はセグメントと関連付けて記載していない会社は、財又はサービスや事業が異なっても重要な収益及び費用の計上基準は同一の方法を採用しており、業種としては化学、電気機器、建設業等が多かった。
また、2022年3月期決算の有報と2023年3月期決算の有報を比較した結果、重要な収益及び費用の計上基準の記載方法を全社ベースからセグメント・事業別に変更し、履行義務の内容が分解情報やセグメントと関連するように変更している開示例が1件該当した。
さらに、重要な会計方針の注記及び収益を理解するための基礎となる情報の注記における記載内容の主な変更点を調査した。調査結果は<図表3>のとおりである。
<図表3> 重要な会計方針の注記及び収益を理解するための基礎となる情報の注記における記載内容の主な記載内容の変更点
主な変更点 (2022年3月期と2023年3月期の比較) |
件数 |
履行義務に関する記載の拡充 | 14 |
重要性等に関する代替的な取扱いの追記 | 6 |
事業又はサービスの追記 | 6 |
報告セグメントの変更に伴う記載の変更 | 5 |
その他 | 5 |
合計 | 36 |
履行義務に関する記載の拡充が最も多く14件であった。なお、これらの開示例においては履行義務の内容だけではなく、履行義務に関連する事業・サービス等の内容を拡充している開示例も含めている。
また、重要性等に関する代替的な取扱いを追記している開示例は6件該当があった。有報レビューにおいて「重要性等に関する代替的な取扱い(出荷基準等)を適用したにもかかわらず、その旨の記載がない」という個別の留意事項を反映したものと考えられる。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年9月20日号 No.1688「2023年3月期「有報」分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
2023年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:総会前提出 (2023.11.20)
- 第2回:コーポレート・ガバナンスの状況等①(取締役会及び監査役会等の記載状況) (2023.11.21)
- 第3回:コーポレート・ガバナンスの状況等②(内部監査の状況) (2023.11.22)
- 第4回:コーポレート・ガバナンスの状況等③(株式の保有状況) (2023.11.24)
- 第5回:コロナ/ロシア・ウクライナ関連開示 (2023.11.27)
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- 第8回:グループ通算制度を適用している会社 (2023.11.30)
- 第9回:グローバル・ミニマム課税制度 (2023.12.01)
- 第10回:早期適用した会計基準(電子記録移転有価証券表示権利等) (2023.12.04)
- 第11回:未適用の会計基準等に関する注記 (2023.12.05)
- 第12回:2年目の収益認識注記開示分析①(重要な会計方針の注記、収益を理解するための基礎となる情報) (2023.12.06)
- 第13回:2年目の収益認識注記開示分析②(収益の分解情報) (2023.12.07)
- 第14回:2年目の収益認識注記開示分析③(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報) (2023.12.08)