EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 須賀 勇介
Question
2023年3月期決算に係る有価証券報告書における実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下「実務対応報告第44号」という。)を適用した旨の開示状況を知りたい。
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2023年8月
- 調査対象期間:2023年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書(なお、連結財務諸表を調査の対象としており、連結財務諸表を作成していない会社、及び連結財務諸表を国際財務報告基準(以下 「IFRS」という。)又は米国会計基準に準拠して作成している会社については、個別財務諸表を調査の対象としている。)
- 査対象会社:以下の条件に該当する2,550社
① 3月31日決算である
② 2023年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を適用している
【調査結果】
企業会計基準委員会が実務対応報告第44号の適用を終了するまでの間、令和5年度税制改正に係る改正法人税法の成立日である2023年3月28日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算における税効果会計の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされている(実務対応報告第44号第3項)。このため、2023年3月期決算においては、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映せず、税効果会計を適用することになる。
開示については、企業がグローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断を適時にかつ適切に行うことについて懸念があるとの意見が聞かれたため、実務対応報告第44号の適用に関する開示は求めないこととされている(実務対応報告第44号第16項)。
調査対象会社(2,550社)について、実務対応報告第44号を適用した旨の開示状況を調査した。その結果、グローバル・ミニマム課税制度の影響が見込まれる企業などにおいて実務対応報告第44号を適用した旨の注記を行っている会社はなかった。実務対応報告第44号の適用に関する開示は求めないこととされていることを踏まえて、注記を行わなかったものと考えられる。
なお、IFRSを適用している企業においては、グローバル・ミニマム課税制度から生じる法人所得税について、国際会計基準(IAS)第12号「法人所得税」で定められる例外措置を適用しており、これに関する繰延税金資産及び繰延税金負債は認識及び開示していない旨を、重要な会計方針や法人所得税の注記に記載している事例もみられた。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年9月20日号 No.1688「2023年3月期「有報」分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
2023年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:総会前提出 (2023.11.20)
- 第2回:コーポレート・ガバナンスの状況等①(取締役会及び監査役会等の記載状況) (2023.11.21)
- 第3回:コーポレート・ガバナンスの状況等②(内部監査の状況) (2023.11.22)
- 第4回:コーポレート・ガバナンスの状況等③(株式の保有状況) (2023.11.24)
- 第5回:コロナ/ロシア・ウクライナ関連開示 (2023.11.27)
- 第6回:時価算定適用指針(改正適用指針) (2023.11.28)
- 第7回:グループ通算制度に関する注記 (2023.11.29)
- 第8回:グループ通算制度を適用している会社 (2023.11.30)
- 第9回:グローバル・ミニマム課税制度 (2023.12.01)
- 第10回:早期適用した会計基準(電子記録移転有価証券表示権利等) (2023.12.04)
- 第11回:未適用の会計基準等に関する注記 (2023.12.05)
- 第12回:2年目の収益認識注記開示分析①(重要な会計方針の注記、収益を理解するための基礎となる情報) (2023.12.06)
- 第13回:2年目の収益認識注記開示分析②(収益の分解情報) (2023.12.07)
- 第14回:2年目の収益認識注記開示分析③(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報) (2023.12.08)