2022年3月期 有報開示事例分析 第9回:会計上の見積りに関する注記の2年目開示分析②(業種別・記載内容分析)

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 水野 貴允

Question

2022年3月決算会社の有価証券報告書について、重要な会計上の見積りに関する注記における業種別の記載状況、記載内容が知りたい。

 

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2022年8月

  • 調査対象期間:2022年3月31日

  • 調査対象書類:有価証券報告書

  • 調査対象会社:2022年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する198社
    ① 3月31日決算
    ② 2022年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している
     

【調査結果】

(1) 業種別記載項目数分析

重要な会計上の見積りに関する注記の項目として、固定資産の減損及び繰延税金資産の回収可能性を記載している会社を対象に、業種別に分析を行った結果が<図表1>及び<図表2>である。
 

<図表1>固定資産の減損

業種記載数(個)内、固定資産の減損なし
化学113
小売業8-
不動産業6-
食料品54
電気・ガス業42
陸運業41
建設業4-
情報・通信業42
電気機器42
その他2412
合計7426
(※1)対象は、分析対象会社198社
(※2)連結財務諸表及び個別財務諸表で注記があった場合は1社とカウントしている

<図表2>繰延税金資産の回収可能性

業種記載数(個)内、繰越欠損金の記載あり
電気・ガス業84
陸運業52
卸売業41
電気機器41
ガラス・土石製品31
化学42
サービス業21
その他166
合計4618
(※1)対象は、分析対象会社198社
(※2)連結財務諸表及び個別財務諸表で注記があった場合は1社とカウントしている

減損の記載をしている会社で、最も多い業種が化学業であり、記載事例は11個該当した。このうち、割引前将来キャッシュ・フロー総額が固定資産の帳簿価額を上回っていること等を理由として減損損失を計上していない事例は3個であった。化学業が多かった原因として、2021年3月期は新型コロナウイルス感染症の影響でプラントの稼働停止や生産停止等の理由から収益性が低下していたが、2022年3月期はウクライナ情勢等に起因して原材料不足や原燃料価格の高騰により収益性が低下したことによる影響が、業界全体として大きかったのではないかと推察される。

また、食料品業では5個の記載が該当し、そのうち4個は減損損失を計上していない会社の記載であった。

繰延税金資産の回収可能性について記載している事例は、電気・ガス業が最も多く8個が該当した。電気・ガス業のうち4個は繰越欠損金に対して回収可能と判断した額について繰延税金資産を計上している旨の記載があった。電気・ガス業は税務上の繰越欠損金を多額に有し、かつ当該欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している会社が多いという結果になった。
 

(2) 記載内容分析

① 固定資産の減損

固定資産の減損判定においては、資産又は資産グループに減損の兆候が生じているか、減損を認識するかを判定し、減損損失の金額を測定する(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という。)二 1、2、3)。また、減損を認識するかどうかの判定に際しては、将来キャッシュ・フローを見積る必要がある(減損会計基準 二 4)。

一方で、取得時にあらかじめ合理的な事業計画が策定されており、当該計画では継続して営業利益やキャッシュ・フローがマイナスな場合に、実際の営業利益又はキャッシュ・フローが事業計画で予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していない場合は減損の兆候には該当しないとされている(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第12項(4))。

以上より、固定資産の減損判定においては兆候、認識、測定のいずれの段階でも会計上の見積りが関係するため、調査対象会社(198社)の連結財務諸表を対象として、重要な会計上の見積り注記で減損の兆候の有無を記載しているか調査した。調査結果は<図表3>のとおりとなった。
 

<図表3>減損の兆候に関する注記

減損損失の計上兆候の有無2022年3月
なし兆候あり16

 
兆候なし4

 
記載なし6
あり 48
合計 74
(※1)対象は、分析対象会社198社
(※2)連結財務諸表及び個別財務諸表で注記があった場合は1社とカウントしている

調査対象会社(198社)のうち、連結財務諸表において固定資産の減損を重要な会計上の見積り注記で記載している事例は74社あり、そのうち減損損失を計上していないものの重要な会計上の見積り注記をしている事例は26社該当した。そのうち、減損の兆候があるとしているが減損損失を認識していない事例は16社該当した。また、減損の兆候がなく、減損損失を計上していない事例が4社該当した。減損の兆候がない場合で注記をしている会社では、会社が特定の固定資産に対して、減損の兆候を識別する状況を記載し、翌期のキャッシュ・フローも考慮した上で減損の兆候がない旨の記載をしている事例がみられた。

減損損失を計上している旨の記載をした会社は、主に回収可能価額のうち、使用価値を算定する際の将来キャッシュ・フローや割引率等について主要な仮定を置いている旨の記載をしていた。
 

(旬刊経理情報(中央経済社)2022年9月20日号 No.1655「2022年3月期「有報」分析」を一部修正)



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