2022年3月期 有報開示事例分析 第8回:会計上の見積りに関する注記の2年目開示分析①(記載項目数分析)

2022年12月12日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 水野 貴允

Question

2022年3月決算会社の有価証券報告書(以下「有報」という。)について、重要な会計上の見積りに関する注記の開示状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2022年8月
  • 調査対象期間:2022年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2022年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する198社
    ① 3月31日決算
    ② 2022年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【調査結果】

(1) 重要な会計上の見積に関する記載の項目数

2022年3月期の有報において、調査対象会社(198社)を対象に、重要な会計上の見積りに関する注記の記載項目数を調査した。調査結果は、<図表1>のとおりである。 

連結財務諸表における平均記載項目数が1.6個であるのに対して、個別財務諸表における平均記載項目数は1.1個となっていた。2021年3月期は203社を対象として分析を実施し、連結財務諸表が1.7個、個別財務諸表が1.2個であったため、2022年3月期はいずれも減少する結果となっている。

<図表1>重要な会計上の見積りに関する注記の記載項目数分析

    記載項目合計(個)  平均記載項目数(個)  最大記載項目数(個) 
連結財務諸表  2021年3月  343  1.7 
2022年3月  318  1.6 
個別財務諸表  2021年3月  235  1.2 
2022年3月  213  1.1 

記載項目数について、2021年3月期と比べて、2022年3月期は連結財務諸表及び個別財務諸表のいずれも減少した理由を調べるために、重要な会計上の見積りに関する注記の主要な項目(固定資産の減損、のれんの評価・投資評価、棚卸資産の評価、繰延税金資産の回収可能性、工事契約に関する収益認識)の記載項目数を調査した。調査の結果は、<図表2>のとおりである。1社が複数の項目を記載している事例があるため、単位を個数として分析をしている。

<図表2>主要な重要な会計上の見積りに関する注記項目の記載項目数分析 

見積項目  連結(個)  個別(個) 
  2021年3月 2022年3月 2021年3月 2022年3月
固定資産の減損  92  74  51  37 
繰延税金資産の回収可能性  58  42  46  35 
のれんの評価・投資評価  32  36 
棚卸資産の評価  28  25  16  16 
工事契約に関する収益認識  27  21 
工事進行基準  27  23 
投資評価  47  52 
その他  106  114  52  52 
合計  343  318  235  213 

(2) 固定資産の減損に関する記載

固定資産の減損に関する記載(以下「減損の記載」という。)については調査対象会社(198社)のうち連結財務諸表が74個、個別財務諸表が37個と多くの会社が重要な会計上の見積りに関する注記の中で開示を行っていた点は、2021年3月期と同じ傾向である。しかし、減損の記載の項目数を2021年3月期と比較した場合、2022年3月期は連結財務諸表、個別財務諸表のいずれも減少していた。減少の大きな理由は調査対象会社であるJPX400に選定されている会社が2021年3月期と2022年3月期で異なっていたことである。

項目数の増減が対象会社の違いによる影響を受けたため、次の会社を対象として追加で分析を行った。

① 2021年3月期は対象会社で2022年3月期は対象から外れた会社
② 2021年3月期及び2022年3月期のいずれも対象会社


① 2021年3月期は対象会社で2022年3月期は対象から外れた会社 

2021年3月期は対象会社であったが、2022年3月期はJPX400に選定されなかったため、対象会社から外れた会社30社のうち、2021年3月期の減損の記載は連結財務諸表で20個、個別財務諸表で13個あった。これらの会社は、ホールディングス化後の上場会社の記載1個、IFRSへ移行した会社の記載1個を除き、すべて2022年3月期も継続して減損の記載をしていた。なお、調査対象会社は日本基準を採用している会社に限定している。 

② 2021年3月期及び2022年3月期のいずれも対象会社

2021年3月期と2022年3月期のいずれも調査対象会社であった会社173社を対象に、減損の記載の有無について調査した結果、<図表3>の結果となった。2021年3月期は減損の記載をしており、2022年3月期は記載していない事例は、連結財務諸表が10個、個別財務諸表が3個該当した。このうち、2021年3月期に減損損失を計上している会社の事例は、連結財務諸表が4個、個別財務諸表が2個該当した。 

一方で、2021年3月期は減損の記載をしておらず、2022年3月期に新たに記載した事例は、連結財務諸表が7個、個別財務諸表が1個となった。これらの会社の業種は食料品業、化学業が多かったが、新型コロナウイルス感染症による影響に加え、ウクライナ情勢等に起因して原材料価格、原燃料価格の高騰による影響を受けたことが原因と推察される。

<図表3>固定資産の減損に関する記載数の変化

  2021年3月 2022年3月 連結(個)  個別(個) 
記載の有無  あり  あり  59  35 
あり  なし  10 
なし  あり 
合計      76  39 

(※1)対象は2021年3月期及び2022年3月期のいずれも調査対象の会社である。

(3) 繰延税金資産の回収可能性に関する記載

減損の記載と同様の傾向は繰延税金資産の回収可能性にも見られた。<図表2>によれば、2021年3月期の対象会社で繰延税金資産の回収可能性について記載していた会社のうち、2022年3月期にJPX400から除外された会社の記載は、連結財務諸表で24個、個別財務諸表で19個該当した。IFRSへ移行した会社を除き、すべての会社が2022年3月期も継続して繰延税金資産の回収可能性について記載していた。

(4) 工事契約に関する収益認識の記載

2022年3月期において改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)が適用となったことから収益認識に関する項目が記載された。収益認識会計基準導入前に適用されていた工事進行基準に関する項目が2021年3月期において連結財務諸表が27個、個別財務諸表が23個あったが、2022年3月期に工事契約に関する収益認識の項目は連結財務諸表で27個、個別財務諸表は21個あり、同程度となった。

また、2022年3月期に収益認識に関する項目について記載している会社について、「工事進行基準」の文言を使用している会社を追加で調査した結果、15社該当した(2021年3月期は25社)。このうち、12社は建設業であった。「工事進行基準」の文言を使用している会社では、比較情報に前年度の記載をそのまま記載している会社が4社、2022年3月期は収益認識会計基準による金額を記載しており、2021年3月期は工事進行基準による金額を補足又は注書きに記載している会社が7社、「旧工事進行基準」と補足をしている会社が3社、当年度も「工事進行基準」として説明している会社が1社該当した。

(旬刊経理情報(中央経済社)2022年9月20日号 No.1655「2022年3月期「有報」分析」を一部修正)