平成28年6月第1四半期 四半期報告書分析 第2回:会計方針の変更・会計上の見積りの変更

2016年11月28日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 新井 篤

Question 

平成28年6月第1四半期の四半期報告書で、その他の会計方針等の変更(「繰延税金資産の回収可能性適用指針」「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更」以外)の注記の開示状況を知りたい。

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:平成28年9月
  • 調査対象期間:平成28年6月30日
  • 調査対象書類:四半期報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する2,334社
    ① 年度決算日が3月31日であり、平成28年6月30日を第1四半期決算日としている
    ② 平成28年8月14日までに四半期報告書を提出
    ③ 日本基準を採用

【調査結果】

(1)総論

企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」(以下「四半期会計基準」という。)では、前年度及び直前四半期に採用した会計方針は継続して適用し、みだりに変更してはならないと定められており(四半期会計基準第10項、第21項)、実務的には会計方針の変更及び会計上の見積りの変更(以下、これらをまとめて「会計方針等の変更」という。)は、期首に行われることが一般的であると考えられている(同基準第47-3項)。

そこで、第1四半期の四半期報告書に記載された会計方針等の変更の注記を分析することで各社の会計方針等の変更の傾向を把握できると考え、回収可能性適用指針の適用、及び平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更以外の要因で行われた会計方針等の変更(以下「その他の会計方針等の変更」という。)の開示例を調査した。

その他の会計方針等の変更について開示を行っている会社は130社であり、総件数は140件であった。具体的な内訳は(図表1)のとおりである。

(図表1)その他の会計方針の変更の開示状況

変更区分 変更内容 会社数
会計上の見積りの変更と区別することが困難な会計方針の変更 減価償却方法の変更 71
会計上の見積りの変更(*) 固定資産の耐用年数の変更 19
退職給付引当金の過去勤務債務及び数理計算上の差異の費用処理年数の変更 2
資産除去債務の見積りの変更 1
残存価額の変更 1
退職給付債務の計算方法の変更 2
会計方針の変更 税金費用の計算方法の変更 8
棚卸資産の評価方法の変更 7
在外連結子会社等の収益及び費用の換算方法の変更 6
収益認識基準の変更 4
仕入割戻しに関する会計方針の変更 2
組込ソフトウェアにおける社内制作費の資産計上 2
為替予約の処理方法の変更 1
運賃及び荷造費に関する会計方針の変更 1
営業収益の計上方法の変更 1
拡販費に係る会計方針の変更 1
渇水準備引当金に関する省令の施行 1
金融資産と金融負債の会計処理の変更 1
在外子会社における国際財務報告基準(IFRS)の適用 1
作業くず売却益に係る会計方針の変更 1
子会社で適用しているSEC基準の改正 1
持分法適用会社における会計方針の変更 1
借入金利子の資産取得原価算入 1
受取返戻金等の計上基準の変更 1
助成金収入の処理方法の変更 1
委託研究費の処理方法の変更
少額減価償却資産の会計処理の変更 1
費用認識基準の変更 1
総計   140

(*) 開示上は「会計方針の変更」として開示されていた場合でも、一般的に会計上の見積りの変更に分類される変更については、会計上の見積りの変更として集計している。

(2)固定資産の減価償却方法の変更(平成28年税制改正を除く。)及び耐用年数の変更に係る注記の分析

平成28年度税制改正以外の要因で行った減価償却方法の変更では、変更を行ったすべての会社が従来使用していた方法(定率法や加速度償却法)から定額法に変更していた。変更理由は以下のような事例が比較的多く見られた。これら以外に、平成28年度税制改正を契機に見直しを行った事例も見受けられた。

  • 中期経営計画の策定時や、これを実行する過程で資産の使用状況を調査した
  • 新社屋の竣工、新工場の稼働開始に伴い、今後の使用見込を調査した

固定資産の耐用年数の変更については、変更会社数20社のうち、減価償却方法の変更と同時に実施している会社が7社あった。減価償却方法と同時に変更を行っている場合でも、変更理由は必ずしも同じではなかった。

また、耐用年数の変更に係る注記がなされていた19社のうち、耐用年数の変更の詳細が注記から読み取れない会社が一定数存在したが、耐用年数を延長したと思われる事例が9社と最も多かった。

(図表2)耐用年数変更会社の開示分析

  変更前後の耐用年数の記載
変更による影響額の記載
  あり なし あり 軽微
延長(9社)(*1) 5
4 8
1
短縮(4社)(*2)
  4
0
双方(1社) 1 0 1 0
不明(5社) 0 5 (*3) 3 2

(*1) 在外子会社のある無形固定資産の償却を非償却とした例を含む。

(*2) 特定の資産の移転や建替えなどによる短縮であるため、いずれの会社も変更前の耐用年数は記載されていなかった。

(*3) いずれも減価償却方法の変更と合わせた影響額が記載されており、耐用年数の変更のみの影響額が不明な事例である。

(3)税金費用の計算方法の変更

四半期財務諸表における税金費用の計算は、原則として年度決算と同様の方法によることとされているが、税引前四半期純利益に年度の見積実効税率を乗じて計算する方法(四半期特有の会計処理)によることができる(四半期会計基準第14項)。税金費用の計算方法を変更した会社8社のうち、原則法から四半期特有の会計処理に変更した会社は5社、四半期特有の会計処理から原則法(ないし簡便法)に変更した会社は3社であった。四半期特有の会計処理に変更した会社では、四半期決算の迅速化・効率化を目的としていた。一方で、原則法(ないし簡便法)に変更した会社では、税金費用をより適切に四半期財務諸表に反映することを目的としていた。
また、四半期特有の会計処理に変更を行った会社5社について、四半期決算日から四半期決算短信の開示日までの経過日数を前年度と比較した。その結果、実際に提出までの日数が短縮した会社が4社であり、1社は前年度と同日数であった。また、四半期報告書提出日までの経過日数を調査したところ、短縮した会社は3社であり、長期化した会社は2社であった。

(図表3)税金費用の計算方法の変更

変更内容
変更
会社数
決算短信開示日数 四半期報告書開示日数
短縮化 変化なし 長期化 短縮化
変化なし 長期化
原則法→四半期特有
5社
4社 1社 0社 3社
0社 2社
四半期特有→原則法 3社  
総 計 8社

(*1) 原則法から四半期特有の方法に変更した会社は、四半期決算の迅速化・効率化を目的としていたことから、短信開示日数・四半報開示日数の前年第1四半期の開示日数を調査した。

(*2) 原則法には簡便法を含んでいる。

(4)在外連結子会社等の収益および費用の換算方法の変更

変更を行った会社6社は、いずれもこれまで決算時の為替相場により換算していたものを、期中平均相場による換算に変更したものである。また、6社のうち影響が軽微であるため遡及適用を行っていない会社が3社、過去の情報が収集・保存されていないため、一定期間(10年)のみ遡及した会社が1社存在した。

(旬刊経理情報(中央経済社) 平成28年10月20日号 No.1460 「平成28年6月第1四半期『四半期報告書』の開示分析」を一部修正)

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