公認会計士 友行 貴久
公認会計士 横山 彰
1.従業員賞与の会計処理
(1) 発生主義にもとづく費用計上
従業員賞与も、給与と同様、発生主義に基づいて、労働が提供された期間において費用計上することが必要です。
具体的には、多くの企業が就業規則などで定めている支給対象期間(「○月から○月の勤務に対する賞与を、○月に支給する」)を考慮することになります。
例
3月決算会社
支給時期と支給対象期間 | ① 5月~10月にかかる賞与を12月に支給 |
② 11月~翌期4月にかかる賞与を翌期6月に支給 |
(3月末の仕訳)
② について、支給は翌期6月となりますが、賞与の支給される可能性が高く、かつ金額を合理的に見積もることができる場合には、当期において賞与を引当金計上する必要があります。
この場合、財務諸表作成時において、賞与の支給見込み総額が6,000とすると、当期に属する対象月である11月~3月の5カ月分(6,000×5/6 ⇒5,000)を引当金計上します。
また、賞与に係る社会保険料等の会社負担分も賞与が支給されれば必ず発生し、金額を合理的に見積もることができますので、併せて見積り計上する必要があります。
なお、期末における負債科目を、賞与引当金ではなく未払費用としている会社もみられます。負債科目に関する判断基準は、以下のとおりです。
「未払従業員賞与の財務諸表における表示科目について」(リサーチ・センター審理情報No.15)より
支給額が確定しているか(※) |
表示科目 |
確定している |
未払費用(成功報酬的賞与など、賞与支給額が支給対象期間以外の基準に基づいて算定されている場合には、未払金も考えられる) |
確定していない |
賞与引当金 |
※「確定している」には、個々の従業員への賞与支給額が確定している場合のほか、例えば、賞与の支給率、支給月数、支給総額が確定している場合などが含まれます。
(翌期6月 支給時の会計処理)
実際支給額も6,000であったとします。また、社会保険料および労働保険料の従業員負担分、所得税の源泉徴収額の合計が1,200であったとします。
前期に帰属する額5,000は引当金を取崩し、当期の費用となる額1,000(4月の1カ月分)は賞与勘定で計上します。
(2) 賞与引当金と税効果会計
会計上は、上述のように発生主義に基づいて費用計上しますが、法人税法上は、未払の賞与が損金算入できるのは、
「支給予定月がすでに到来している賞与」および
「個々の従業員に支給額が通知されているなどの要件を満たす賞与」のみ
であり、それ以外は実際の支給時に損金算入されることになります(法人税法施行令第72条の3)。そのため、多くの場合、期末に計上した賞与引当金(または未払賞与)は、会計と税務との一時差異となり、税効果会計の対象となります。
2.退職給付の会計処理
退職給付は、従業員が一定期間労働を提供したこと等により、退職以後に支給される給付であり、将来に支払われる退職給付のうち、当期に発生している額を費用として処理します。
退職給付制度は、確定拠出制度と確定給付制度とに分類できますが、会計処理はいずれも当期に属する負担額を費用計上します。詳しくはリンク先をご覧ください。
3.早期割増退職金の会計処理
希望退職を募集するにあたり、通常の退職金とは別に、早期割増退職金(または特別退職金、特別加算金など)を支給することがあります。早期割増退職金は、当該金額が合理的に見積られる時点で費用処理を行います。そのため、期末時点では支給が行われていなくても、費用計上することがあります。
なお、希望退職の募集は、大量退職(※)にも該当することがあります。その場合、退職給付制度の終了(一部終了)に準じた会計処理を行うことになります。「退職給付制度の終了」についてはリンク先をご覧ください。
※「大量退職」とは、工場の閉鎖や営業の停止等により、従業員が予定より早期に退職する場合であって、退職給付制度を構成する相当数の従業員が一時に退職した結果、相当程度の退職給付債務が減少する場合をいいます。
4.日本版ESOPに関する会計処理
従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(いわゆる日本版ESOP)の会計処理について、「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(企業会計基準委員会 実務対応報告第30号)が公表されています。
日本版ESOPでは、従業員に対する福利厚生として、一定の要件を満たせば自社株式の受給権となるポイントが付与されることがあります。同実務対応報告では、この付与されたポイントについて、
付与ポイントに対応する株式数×自社株式の取得株価の金額を基礎に費用と引当金を計上する会計処理を示しています。
詳しくは、リンク先をご覧ください。
5.ストック・オプション
ストック・オプションとは、企業が従業員または役員に対する報酬として、一定の金額の支払により自社の株式を取得する権利を付与することをいいます。
ストック・オプションによる報酬については、企業がその従業員や役員から得る役務に応じて費用計上し、貸借対照表では純資産の部「新株予約権」に計上する会計処理を行います。
詳しくは、リンク先をご覧ください。
この記事に関連するテーマ別一覧
- 第1回:給与の会計処理 (2014.04.26)
- 第2回:従業員に対するその他の人件費 (2014.05.29)
- 第3回:役員人件費の会計処理 (2014.05.30)