公認会計士 井澤依子
公認会計士 江村羊奈子
1.概要
企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、会計基準)および企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)は平成19年3月30日に企業会計基準委員会から公表されています。
今回のシリーズではリース会計基準の概要を解説します。
なお、文中意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添えます。
2.会計基準における主な論点
(1) ファイナンス・リース取引については、所有権移転、移転外に関わらず、売買処理を行う。
(2) 所有権移転外ファイナンス・リース取引について、利息相当額の各期への配分方法は原則として利息法によるが、リース取引に重要性が乏しいと認められる場合は、定額法(借手の場合は利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法も可、貸手の場合はリース取引を主たる事業としていない場合のみ定額法の適用可)を採用することができる。
(3) 借手の所有権移転外ファイナンス・リース取引では、少額および短期のリース取引(リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引等)については、簡便的に賃貸借処理を行うことができる。
(4) 不動産リースについての取扱いが明確化されている。
3.リース取引の分類
リース取引とは、貸手(レッサー)が借手(レッシー)に対し使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料を貸手に支払う取引をいいます。ファイナンス・リース取引とは、リース契約を解除することができないリース取引またはこれに準ずるリース取引で、借手が使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、使用に伴って生じるコストを実質的に負担するリース取引をいいます。オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいいます。
また、ファイナンス・リース取引は、リース物件の所有権が借手に移転すると認められる所有権移転ファイナンス・リース取引と、それ以外の所有権移転外ファイナンス・リース取引に分類することができます。
ファイナンス・リース取引については、所有権移転、移転外に関わらず、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。
4.ファイナンス・リース取引の判定
(1) ファイナンス・リース取引とは
ファイナンス・リース取引とは、次のいずれも満たすリース取引をいいます。
a.リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引またはこれに準ずるリース取引(解約不能のリース取引)
b.借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウトのリース取引)
a.は、契約上中途解約できない定めがあるものと、解約時に未経過のリース期間に係るリース料のおおむね全額を、相当の違約金(規定損害金)として支払うこととされているリース取引など事実上解約不能と認められる取引が該当します。
b.は、借手が自己所有するならば得られると期待されるほとんどすべての経済的利益を享受することです。具体的には、リース料の総額が当該リース物件の取得価額相当額、維持管理等の費用、陳腐化によるリスク等のほとんどすべてのコストを賄っていることを意味します。
(2) ファイナンス・リース取引の具体的な判定基準
ファイナンス・リース取引の具体的な判定のフローは、以下のとおりです。
まず現在価値基準か経済的耐用年数基準のうち、いずれかに該当する場合にはファイナンス・リース取引とし、次に所有権移転の判定を行って所有権移転ファイナンス・リース取引か所有権移転外ファイナンス・リース取引かを分類します。
① フルペイアウトの判定
(i) 現在価値基準
解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、当該リース物件を借手が現金で購入するものと仮定した場合の合理的見積金額のおおむね90%以上である場合
(ii) 経済的耐用年数基準
解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数のおおむね75%以上である場合
<設例>
(i) 現在価値基準
借手の見積現金購入価額が48,000で、借手の追加借入利子率が8%である場合、以下の計算によって現在価値基準の判定を行います。
月額リース料1,000を追加借入利子率8%で60回分のリース料を現在価値に割り引きます。
1回目のリース料 1,000 の現在価値は、1,000÷(1+8%×1/12)=993
2回目のリース料 1,000 の現在価値は、1,000÷(1+8%×1/12)^2=987
59回目のリース料 1,000 の現在価値は、1,000÷(1+8%×1/12)^59=676
60回目のリース料 1,000 の現在価値は、1,000÷(1+8%×1/12)^60=671
現在価値の合計49,318が48,000の90%以上である(約103%)ことから、ファイナンス・リースと判定できます。
ファイナンス・リースの判定
割引率 8.000% | |||||
回数 | 返済額 | 返済額 | 現在価値 | ||
1 | ×1 | 1 | 31 | 1,000 | 993 |
2 | ×1 | 2 | 28 | 1,000 | 987 |
3 | ×1 | 3 | 31 | 1,000 | 980 |
4 | ×1 | 4 | 30 | 1,000 | 974 |
5 | ×1 | 5 | 31 | 1,000 | 967 |
6 | ×1 | 6 | 30 | 1,000 | 961 |
・ | ・ | ・ | |||
・ | ・ | ・ | |||
・ | ・ | ・ | |||
・ | ・ | ・ | |||
・ | ・ | ・ | |||
・ | ・ | ・ | |||
55 | ×5 | 7 | 31 | 1,000 | 694 |
56 | ×5 | 8 | 31 | 1,000 | 689 |
57 | ×5 | 9 | 30 | 1,000 | 685 |
58 | ×5 | 10 | 31 | 1,000 | 680 |
59 | ×5 | 11 | 30 | 1,000 | 676 |
60 | ×5 | 12 | 31 | 1,000 | 671 |
合計 | 60,000 | 49,318 |
借手が現在価値の算定に用いる割引率は、以下のいずれかとなります。
- 貸手の計算利子率を知り得る場合 → 当該利率
- 貸手の計算利子率を知り得ない場合 → 借手の追加借入に適用されると合理的に見積もられる利率
↓
追加借入利子率の具体例として、以下が挙げられています(適用指針第95項)
- リース期間と同一の期間におけるスワップレートに借手の信用スプレッドを加味した利率
- 新規長期借入金等の利率
※ 利子率の見積方法をあらかじめ検討しておく必要があります。
(ii) 経済的耐用年数基準
リース期間と経済的耐用年数を比較して判定することになります。仮に経済的耐用年数が8年とすると、8年の75%は6年ですので6年以上のリース期間だとファイナンス・リースと判定されます。
ただし、現在価値基準で90%以上の判定が行われている本設例の場合は、経済的耐用年数基準の判定が75%未満であっても、ファイナンス・リースと判定されることになります。
なお、経済的耐用年数は簡便法としての性格を有することから、経済的耐用年数が75%を超える場合でも、リース物件の特性、経済的耐用年数の長さ、リース物件の中古市場の存在等により、借手がリース物件に係るほとんどすべてのコストを負担することにはならないことが明らかな場合には、原則的な基準である現在価値基準のみにより判定を行うことに留意する必要があります(適用指針第13、94項参照)。
② 所有権移転の判定
ファイナンス・リース取引と判定された後、次に示すような事実等がある場合は、所有権移転ファイナンス・リース取引に該当するものとされます。これらの条件に該当しない場合が所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当します。
i. リース期間終了後またはリース期間の中途でリース物件の所有権が借手に移転するリース取引
ii. 借手に対して、リース期間終了後またはリース期間の中途で、名目的価額またはその行使時点のリース物件の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利(割安購入選択権)が与えられており、その行使が確実に予想されるリース取引
iii. 借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作または建設されたものであって、当該リース物件の返還後、貸手が第三者に再びリースまたは売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかなリース取引
所有権移転ファイナンス・リース取引と判定された場合、以下の点で所有権移転外ファイナンス・リース取引と会計処理が異なります。
5.借手の会計処理
所有権移転ファイナンス・リース取引およびオペレーティング・リース取引については、改正前基準からの大きな変更はありません。ここでは主に所有権移転外ファイナンス・リース取引について解説します。
改正前 |
改正後 | |
ファイナンス・リース取引 | ||
所有権移転ファイナンス・リース取引 |
売買処理 | 売買処理 |
所有権移転外ファイナンス・リース取引 |
原則・・・売買処理 例外・・・賃貸借処理 |
売買処理 |
オペレーティング・リース取引 | 賃貸借処理 | 賃貸借処理 |
(1) 所有権移転外ファイナンス・リース取引の一連の会計処理
所有権移転外ファイナンス・リース取引の一連の会計処理を示すと以下のとおりです。
① リース資産およびリース債務の計上
リース物件とこれに係る債務を、リース資産およびリース債務として計上します。
月額リース料1,000を5年間支払い、5年間でリース料総額60,000というリース契約を想定します。このときの、リース物件の見積もり現金購入価額を48,000とすると、固定資産に計上する金額は48,000で、60,000-48,000=12,000は利息相当額となります。
借手における会計処理のポイントは、48,000の減価償却と12,000の利息費用の配分です。
② 毎月のリース料の支払い
毎月のリース料は1,000ですが、毎回の元本返済額と支払利息の金額が異なります。利息相当額は、原則としてリース期間にわたり利息法により配分します。第1回のリース料における元本返済額と支払利息をそれぞれ634と366とすると、第1回目の支払いに係る仕訳は次のようになります。なお、支払い回数が増えるたびに元本返済額が増加し、支払利息が減少する関係にあります。
③ リース資産の減価償却費の計上
原則としてリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定します。今期の使用月数を12カ月、定額法を前提とすると減価償却費の計上は次のようになります。
計算式: 48,000×1年/5年×12カ月/12カ月=9,600
ここまで、一連の仕訳の流れを説明しましたが、次に、具体的な規定内容を説明したいと思います。
(2) リース資産およびリース債務の計上価額
リース資産およびリース債務の計上価額は以下のとおりです(適用指針第22項参照)。改正前基準からの変更はありません。
貸手の購入価額が明らかな場合 | リース料総額の現在価値と貸手の購入価額等とのいずれか低い額 |
貸手の購入価額が明らかでない場合 | リース料総額の現在価値と見積現金購入価額とのいずれか低い額 |
貸手の購入価額が明らかでない場合、見積現金購入価額の把握が必要となりますが、業者から見積もりがとれるのか、もしくは自社で合理的な見積もりが可能であるのかなど、あらかじめ入手方法を検討しておく必要があります。
(3) 貸借対照表表示
リース資産については、原則として、有形固定資産、無形固定資産の別に、一括して「リース資産」として表示します。ただし、有形固定資産または無形固定資産に属する各科目に含めることもできます。
リース債務については、ワンイヤールールを適用し、流動負債または固定負債に「リース債務」として計上します(会計基準第16項、17項)。