Q14. 全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの領域について教えてください。
Answer
全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスは、財務報告の信頼性を確保するために、企業グループ全体の体制として整備する仕組みです。実施基準では次のような手続きが例として挙げられており、例えば<図14-1>の網掛けをした部分が考えられます。
- 総勘定元帳から財務諸表を作成する手続き
- 連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続き
- 財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続き
図14-1 全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの例
Q15. 全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの評価手順について教えてください。
Answer
評価手順は、基本的に全社的な内部統制と同様です。
1. チェックリストの作成
例えば、<図14-1>(「Q14.全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの領域について教えてください。」参照)の業務区分ごとに評価項目を列記したチェックリストを作成し、項目に対する回答から有効性を評価します(<図15-1>参照)。
図15-1 チェックリストの例
2. 評価項目の決定
評価項目は、企業グループとして整備すべきプロセスや仕組みについて記載します。具体的には、日本公認会計士協会監査委員会研究報告第16号「統制リスクの評価手法」付録5に記載されている統制手続や、監査法人のチェックリストの例などを参考に、評価項目を決定していきます。
3. 統制の状況の記載
チェックリストの評価項目に回答することにより、企業の統制の状況を文書化していきます。文書化のポイントは、全社的な内部統制のチェックリスト(第3回「Q9.全社的な内部統制の評価手順について教えてください。」参照)と同様です。
なお、決算・財務報告プロセスは財務報告の信頼性に重要な影響を与えるプロセスであるにもかかわらず、専門的で複雑な業務が多いことから、内部統制の可視化が難しい部分もありますが、例えば「決算業務点検表」などを参考に(「Q16.決算業務点検表の有効性について教えてください。」参照)、可視化を行う必要があります。
Q16. 決算業務点検表の有効性について教えてください。
Answer
決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、専門的で複雑な業務が多く、業務のマニュアル化が必要です。また、開示までの時間的制約からコントロールの運用の証跡を残すのが難しいという特徴があります。そこで、<図16-1>のような決算業務点検表の利用が有効と考えられます。この点検表により、担当者が実施すべき業務が明確になり、担当者が決算業務を実施しながら実施記録を残し、担当者以外の者が担当者の業務の点検や記録を行うことで、コントロールの証跡を残すことができ、運用評価手続を効率的・効果的に行うことが可能となります。
図16-1 決算業務点検表
※ 当該点検表は各点検項目がどのアサーションに対応しているかを明確にしています。これによって、点検表が財務報告リスクを十分に低減しているかどうかを評価することが可能となります。
また、<図15-1>(「Q15.全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの評価手順について教えてください。」参照)のチェックリストにおける評価項目について、「決算業務点検表が整備され、適用されている」ことをもって回答とすることが可能になります。
Q17. 全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの整備状況・運用状況の評価方法について教えてください。
Answer
全社的な内部統制と同様、担当者に対する質問や記録の閲覧などを行い、チェックリストの全ての評価項目に対して内部統制が整備・運用されているかを確かめます。このとき、評価項目は、親会社と子会社とで内容が異なる場合もあるので、適宜加除修正が必要です。
反復継続される業務プロセスと異なり、決算・財務報告プロセスにおける内部統制の実施時期、回数は限られています。そのため、サンプリングによる検証がなじまない場合があります。期末日時点において内部統制が業務に適用されていることの検証が目的であり、目的を達成できるよう評価の実施時期、手続きについては創意工夫が必要です。
Q18. 決算・財務報告プロセスの評価時期について教えてください。
Answer
実施基準では、「期末日までに内部統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的である」とされています。実際、期末決算業務の終了後、内部統制監査報告書提出日までの短期間に経営者と監査人の評価を終了することは容易ではなく、また不備の是正を行うことができません。
前年度の運用状況の評価を利用するとは、具体的には、平成X1年3月期の会社であれば、平成X1年度の早い時期に、前期末である平成X0年3月期末の内部統制の運用状況の評価を行うことになります。そこで識別された不備については是正し、是正後の運用状況については、平成X1年3月期の期末決算(四半期決算で評価が実施できるものについては四半期決算)に再評価を実施することになります。この場合、不備の有無にかかわらず、平成X1年3月末には内部統制に重要な変更がなかったことの確認が必要です。なお、四半期決算を評価対象とできるプロセスは年度と同じプロセスだけであることに留意が必要です。
Q19. スプレッドシートを利用する上でのリスク及びコントロールの必要性について教えてください。
Answer
スプレッドシートとは表計算ソフトなどで作成した表や数式を含むシートのことをいい、企業の実務において必要不可欠なものになっていますが、計算式や使用するマクロの誤りなどにより処理結果が正しくないリスクや、シートを各自各様に保管しており、過去の処理結果に関する記録が残っていないといったリスクがあります。よって、スプレッドシートを財務報告目的に利用している場合には、その複雑性に応じて特別なコントロールが必要となります。
ただし、スプレッドシートで計算した結果の妥当性について、照合などによって別途、検証を実施している場合には特別なコントロールは必要なく、内部統制評価においては当該検証業務をコントロールとして評価すればよいことになります。
Q20. スプレッドシートの複雑性によって、例えば、どのような特別なコントロールが必要となりますか。
Answer
スプレッドシートの複雑性によって、次のようなコントロールが必要と考えられます。マクロやピボットテーブルを利用しているものや、容易に計算できない計算式や複雑な参照関係を持っているものは複雑性が高いといえるため、(1)~(7)全てのコントロールが求められます。一方、複雑性の低いものは、(6)や(7)の必要性はそれほど高くないと思われます。スプレッドシートの複雑性や、財務報告への重要性を勘案して、最低限必要と考えられるコントロールを整備します。
(1) 一覧表の作成(スプレッドシートの管理対象とするシートの一覧表)
(2) スプレッドシートの処理(マクロや計算式)の正確性の確認
(3) アクセスコントロール(ファイルへのアクセスコントロール及びシートやセルの保護)
(4) データの安全性(重要なデータの変更・消去・改ざんを防止するため、セルにロックを掛けるなどの保護措置を取っているか)
(5) バックアップの確保
(6) 変更管理(作成時・変更時には適切な承認と、意図したとおりに機能していることの確認がされているか。また、最終版が判別できるようなネーミングルールはあるか)
(7) 操作手順や仕様の明確化
この記事に関連するテーマ別一覧
内部統制
- 第1回:内部統制報告制度の概要 (2012.03.14)
- 第2回:内部統制の評価範囲の決定 (2012.03.22)
- 第3回:全社的な内部統制 (2012.03.29)
- 第4回:全社的観点で評価する決算・財務報告プロセス及びスプレッドシートの管理 (2012.04.05)
- 第5回:その他の業務プロセス (2012.04.20)
- 第6回:ITに係る業務処理統制及びITに係る全般統制 (2012.04.27)