公認会計士 山岸 正典
公認会計士 七海 健太郎
1. はじめに
設例で解説「キャッシュ・フロー計算書」も今回が最終回となりますが、「第4回 財務活動によるキャッシュ・フロー」では、財務活動によるキャッシュ・フローについて、設例を使って解説していきます。
2. 財務活動によるキャッシュ・フローの意義
【ポイント】
- 財務活動によるキャッシュ・フローには、資金の調達及び返済などの財務活動に関係するキャッシュ・フローの情報を記載します。
財務活動によるキャッシュ・フローには、資金の調達及び返済によるキャッシュ・フローが記載されます。資金の調達には新規の借り入れや借り換え、社債の発行、新株の発行などが含まれ、資金の返済には借り入れの返済や社債の償還、株主への配当金の支払いなどが含まれます。
財務活動によるキャッシュ・フローは、営業活動及び投資活動を維持するために、資金をどのように調達して、返済したかを示す情報です。例えば、成長過程にある企業が、自己資金以上の投資を積極的に行っている場合、多額の資金調達を行うため、財務活動による正味のキャッシュ・フローがプラスになる傾向があります。
3. 借入金・社債による資金調達と返済に関する設例
【ポイント】
- 借入金や社債により資金調達を行った場合、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、それぞれ「(長期・短期)借入れによる収入」および「社債の発行による収入」等の科目によって表示します。
- 借入金や社債の返済を行った場合、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、それぞれ「(長期・短期)借入金の返済による支出」および「社債の償還による支出」等の科目によって表示します。
【設例7】
(前提条件)
①長期借入金
期首残高:1,500、当期借入:2,000、当期返済:1,000、期末残高:2,500
②社債
期首残高:500、当期発行:1,000、当期償還:500、期末残高:1,000
②未払利息
期首残高:30、当期計上:50、当期支払:60、期末残高:20
借入金・社債により資金調達を行った場合、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、それぞれ「(長期・短期)借入による収入」および「社債の発行による収入」等の科目によって表示します。借入金・社債に係る利息についても、第1法を採用している場合(第2回【設例4】参照)、「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、「利息の支払額」の科目によって表示します。なお、社債発行費等に重要性がある場合は、資金調達額から社債発行費等を控除した実質手取額で表示します。社債発行費等に重要性がない場合は、それぞれのキャッシュ・フローを総額で表示することもできます(連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針第40項)。
※1,3 長期借入金・社債による資金調達額を、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、それぞれ長期借入による収入2,000および社債の発行による収入 1,000として記載します。
※2,4 長期借入金の返済額と社債の償還額を、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、それぞれ長期借入金の返済による支出1,000および社債の償還による支出500として記載します。
※5,6 財務活動に関する費用である長期借入金・社債に係る利息が発生しているため、損益計算書に計上されている支払利息50を「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分においてプラスするとともに、未払利息の調整を行ったうえで、実際の支払額を「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分の小計欄の下に利息の支払額60(50+30-20)として記載します。第2回【設例4】参照。
(仕訳イメージ)
<長期借入>
<長期借入金の返済>
<社債の発行>
<社債の償還>
<支払利息>
4. 株式の発行による資金調達と自己株式の取得と処分に関する設例
【ポイント】
- 株式の発行により資金調達を行った場合、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、「株式の発行による収入」等の科目によって表示します。
- 自己株式を取得および売却した場合、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、それぞれ「自己株式の取得による支出」および「自己株式の売却による収入」等の科目によって表示します。
【設例8】
(前提条件)
①資本金
期首残高:3,000、株式発行:1,000、期末残高:4,000
②自己株式
期首残高:500、取得:350、売却:400(売却価額500)、期末残高:450
②自己株式処分差益
期首残高:150、当期発生:100、期末残高:250
株式の発行により資金調達を行った場合、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、「株式の発行による収入」等の科目によって表示します。なお、社債における社債発行費等と同様に、株式発行費に重要性がある場合は、資金調達額から株式発行費を控除した実質手取額で表示します。株式発行費に重要性がない場合は、それぞれのキャッシュ・フローを総額で表示することができるのも同様です。
また、自己株式を取得および売却した場合、「財務によるキャッシュ・フロー」の区分において、それぞれ「自己株式の取得による支出」および「自己株式の売却による収入」等の科目によって表示します。
※1 株式の発行により資金調達した1,000を「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、「株式の発行による収入」として記載します。
※2「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、自己株式の取得に要した支出額350を、「自己株式の取得による支出」として記載します。
※3「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分において、自己株式の売却価額500を、「自己株式の売却による収入」として記載します。なお、「自己株式処分差益」は、損益としては認識されず、貸借対照表の純資産の部に直接計上されるため、「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分での損益の調整は不要となります。
(仕訳イメージ)
<株式の発行>
<自己株式の取得>
<自己株式の売却>
この記事に関連するテーマ別一覧
設例で解説 「キャッシュ・フロー計算書」
- 第1回:営業活動によるキャッシュ・フロー(1) (2015.11.18)
- 第2回:営業活動によるキャッシュ・フロー(2) (2015.11.19)
- 第3回:投資活動によるキャッシュ・フロー (2015.12.07)
- 第4回:財務活動によるキャッシュ・フロー (2015.12.08)