四半期開示制度の見直しに伴う企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準等(案)」等のポイント

2024年1月11日
カテゴリー 会計情報トピックス

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 前田 和哉

<企業会計基準委員会が2023年12月15日に公表>

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)において検討が行われ、2023年12月15日に、企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針公開草案82号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「本公開草案」という。)が公表されました。

1. 本公開草案の背景

2023年11月20日に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(以下「改正金商法」という。)をうけ、上場企業について、四半期開示義務(第1・第3四半期)が廃止され、改正金商法第24条の5第1項によって、従前の第2四半期報告書が半期報告書(以下「新半期報告書」という。)として提出することとされました。

新半期報告書では、中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表(以下「中間財務諸表」という。)が開示されることになるため、当該中間財務諸表に係る会計処理及び開示に関する取扱いについて、ASBJにおいて検討が行われ、2023年12月15日に本公開草案が公表されました。

2. 公表された公開草案

  • 企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準」(以下「本会計基準案」という。)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第82号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「本適用指針案」という。)

3. 本公開草案の概要

(1) 適用対象会社

以下の会社が半期報告制度に基づき作成する中間財務諸表に適用します。

①上場会社等で新半期報告書を作成する会社(改正金商法第24条の5第1項の表の第1号に掲げる上場会社等)
②非上場会社で半期報告書を提出する会社であって、従来の半期報告書に代えて新半期報告書を提出することを選択した会社(改正金商法第24条の5第1項ただし書き)


(2) 基本方針

本会計基準は、新半期報告書において開示される中間財務諸表に適用される会計処理及び開示を定めることを目的としているため、期首から6か月間を1つの会計期間(以下「中間会計期間」という。)とする中間財務諸表に係る会計処理を定めることを原則としています。

そして、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告等において、従前の第2四半期報告書と同程度の記載内容とするとされていることから、中間財務諸表の記載内容が従前の第2四半期報告書と同程度の記載内容となるように、基本的に企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期会計基準等」という。)の会計処理及び開示を引き継ぐことを提案しています。

四半期会計基準等では、四半期財務諸表が年度の財務諸表や中間財務諸表よりも開示の迅速性が求められること、四半期会計期間が中間会計期間より短い期間であること、制度として第1四半期や第3四半期決算が行われることを前提としていることを踏まえた会計処理を定めています。このため、四半期会計基準等の取扱いを中間会計期間とする財務諸表に係る取扱いとした場合、四半期会計基準等に従った第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合と、第1四半期は決算短信のみで制度開示を行わず、中間会計期間を1つの会計期間として会計処理を行った場合とで差異が生じる項目があります。

本来であれば、このような差異のある項目について、変更を踏まえた検討が必要となるものの、改正金商法の成立日から施行日までの期間が短期間であることから、会計処理の見直しによる企業の実務負担が生じないように、従来の四半期会計基準等に基づく取扱いが継続可能となる経過措置を定めることを提案しています。


(3) 今後の開発方針

本公開草案が会計基準等(以下「中間会計基準等」という。)として確定した後、企業の報告頻度(中間又は四半期)が異なることにより生じる中間会計基準等と四半期会計基準等の取扱いの差異を解消するため、国際会計基準第34号「期中財務報告」(以下「ISA第34号」という。)における「企業の報告頻度(年次、半期、又は四半期)によって、年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則(ISA第34号第28項)を踏まえ、中間会計基準等と四半期会計基準等を統合した期中財務諸表に関する会計基準等(以下「期中財務諸表に関する会計基準等」という。)を開発し、取扱いを統一することが考えられるとされています。


(4) 会計処理

  • 四半期会計基準等の会計処理及び開示を引き継ぐことを提案しています。
  • 中間会計期間(期首から6か月間を1つの会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従い第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる可能性のある以下の項目については、従来の四半期の実務が継続可能となる取扱いを提案しています。このうち、一部の項目については経過措置が定められています。

① 原価差異の繰延処理(本会計基準案第17項)
② 子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日(本会計基準案第20項)
③ 有価証券の減損処理に係る中間切放し法(本適用指針案第4項)
④ 棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法(本適用指針案第7項)
⑤ 一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理(本適用指針案第3項)
⑥ 未実現損益の消去における簡便的な会計処理(本適用指針案第28項)

経過措置を提案している項目は以下の項目になります。当該経過措置は、今後開発を検討する期中財務諸表に関する会計基準等において変更を検討することが考えられるとされています。

  • 有価証券の減損処理に係る中間切放し法(本適用指針案第4項)
    企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期適用指針」という。)第4項に基づいて、四半期切放し法を適用していた場合、中間会計期末における有価証券の減損処理について、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期末において切放し法を適用することができる(本適用指針案第62項)。
  • 棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法(本適用指針案第7項)
    四半期適用指針第7項に基づいて切放し法を適用していた場合、棚卸資産の簿価切下げについて、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期末において切放し法を適用することができる(本適用指針案第63項)。
  • 一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理(本適用指針案第3項)
    第1四半期の貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合には、第1四半期の貸倒実績率等の合理的な基準を使用して中間会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高を算定することができることができる(本適用指針案第61項)。
  • 未実現損益の消去における簡便的な会計処理(本適用指針案第28項)
    第1四半期から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる中間会計期間末における未実現損益の消去について、第1四半期における損益率を使用して計算することができる(本適用指針案第64項)。
  • 四半期会計基準等以外の会計基準等における四半期財務諸表に関する取扱いも、本会計基準案が適用される中間財務諸表においては、これまでに公表された会計基準等における四半期財務諸表に関する会計処理及び開示の定めも引き継ぐことを提案しています(本会計基準案第38項)。


(5) 開示

従来の第2四半期会計期間において、四半期会計基準等で求められていた開示が求められています。


(6) 四半期会計基準等の取扱い

改正金商法によって四半期報告制度は廃止されますが、上場会社では引き続き取引所規則に基づき第1・第3四半期決算短信の報告が行われるため、今後、期中財務諸表に関する会計基準等の開発が行われるまでの間、四半期会計基準等は適用を終了しないことが予定されています。

4. 適用時期

改正金商法の附則第3条に基づき、新半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間から適用予定です。

図表 決算期別の改正金商法の適用時期

なお、本稿は本改正案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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