会計情報トピックス 吉田剛
ASBJから平成28年3月14日に公表
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成28年3月14日に企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(以下「本適用指針」という。)を公表しています。
税効果会計に関連する会計基準の体系は、企業会計審議会が平成10年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)を中心に、日本公認会計士協会から公表されている会計上の実務指針及び監査上の実務指針(会計処理に関する定め)が実務上の適用指針として定められる形となっていました。これらの実務指針については、基準諮問会議から平成25年12月にASBJへ移管するための審議を行うことが提言され、平成26年2月からASBJにおいて審議が続けられてきています。
平成27年12月に公表された企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」において取り扱われている以外の論点に関する実務指針の移管に係る審議が進められる中で、税効果会計に適用する税率について実務上の課題があるため、先行して関連する適用指針を開発するものとされ、今般、本適用指針が公表されたものです。
具体的には、これまで決算日において「公布」されている税法規定によることとされていた税効果会計に適用する税率を、決算日において国会で「成立」している税法規定によることが、本適用指針において新たに定められています。
1. 本適用指針の概要
(1)目的(本適用指針第1項)
本適用指針は、税効果会計の適用に際して用いられる税率について、税効果会計基準を適用する際の指針を定めるものであるとされています。
(2)税効果会計に適用する税率(本適用指針第4項から第8項)
① 法人税などに関する税率
法人税、地方法人税、地方法人特別税といった国税については、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に際し、決算日において国会で成立している税法(法人税法等)に規定されている税率を用いることとされます(本適用指針第5項)。
② 利益に関連する金額を課税標準とする地方税(住民税等)に関する税率
住民税(法人税割)、事業税(所得割)といった利益に関連する金額を課税標準とする地方税(住民税等)については、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に際し、決算日において国会で成立している税法(地方税法等)に基づく税率を用いることとされます(本適用指針第6項)。
住民税等については、地方税法の改正を受けて各地方公共団体が規定する条例が改正されるというプロセスを経ることになりますが、当事業年度において地方税法等が改正されている場合には、条例の改正状況により、以下のように場合分けをして、適用する税率を決定(算定)することになります(本適用指針第7項(2))。
決算日以前に改正条例が地方公共団体の議会等で成立している場合 | 決算日において成立している条例に規定された税率(標準税率又は超過税率) | |
決算日以前に改正条例が地方公共団体の議会等で成立していない場合 | 標準税率の場合 | 改正地方税法に規定する標準税率 |
超過税率の場合 | 改正地方税法に規定する標準税率に改正前条例に規定される超過税率に係る「差分」を考慮する税率(*) |
上表(*)における「差分」を考慮する税率は、改正後標準税率に改正前条例における「差分」を加算する方法と、改正後標準税率に改正前条例における「差分」を考慮した割合を乗ずる方法の2つが例示されています(本適用指針第8項)。
なお、当事業年度において地方税法等が改正されていない場合には、決算日における条例に基づく税率によることとなります(本適用指針第7項(1))。
(3)決算日後に税率改正が国会等で成立した場合(本適用指針第10項、第22項、第23項)
本適用指針の公開草案の公表に際しては、決算日後に税率が改正された場合に「開示後発事象」とする現行の取扱いを改めるかどうかについても審議されました。結論としては、現行の取扱いを踏襲するものとし、決算日後に税率の改正に係る法律が成立した場合、税効果会計基準等の定めに従い、その内容及び影響を注記することになります。
2. 適用時期等(本適用指針第11項)
本適用指針については、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用されます。
3. 公開草案から修正された主な点
本適用指針では、公開草案の段階より、以下に示した点が主として修正されています。
- 決算日後に税率の変更を伴う法律の改正が成立した場合には、税効果会計基準 第四 4の定めに従った注記が必要となる点が本文に明示された点
また、公開草案では結論の背景において、決算日後に当該税率の変更を伴う法律又は条例が成立した場合に注記を要するとされていたものが、重要性も鑑み、前述のように、決算日後に税率の変更を伴う法律の改正が成立した場合に注記を要するとされた点 - 上述1.(2)②の表中(*)で示した「差分」を考慮する税率の算定方法について、公開草案では「原則として、次のいずれかの方法による」とされていたものが、最終版では制限税率が一定であることを考慮した例示である点を表すために「例えば、次の方法がある」とされた点