監査委員会報告第66号の取扱いなどを移管する「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」のポイント

2016年4月1日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計情報トピックス 吉田剛

企業会計基準委員会が平成27年12月28日に公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成27年12月28日に企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「本適用指針」という。)を公表しています。

税効果会計に関連する会計基準の体系は、企業会計審議会が平成10年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)を中心に、日本公認会計士協会から公表されている会計上の実務指針及び監査上の実務指針が実務上の適用指針として定められる形となっていました。これらの実務指針については、基準諮問会議から平成25年12月にASBJで審議を行うことが提言され、平成26年2月から審議が続けられてきました。

審議の中で、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に対する問題意識が強く聞かれることから、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の開発(移管)を先行して進めることとされました。具体的には、以下の実務指針等のうち、繰延税金資産の回収可能性に関する定めを本適用指針に引き継ぐものとされ、その上で見直しが必要と考えられる点について検討が重ねられ、今般、本適用指針が公表されたものです。

  • 会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「個別税効果実務指針」という。)
  • 会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」
  • 会計制度委員会「税効果会計に関するQ&A」(以下「税効果Q&A」という。)
  • 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第66号」という。)
  • 監査委員会報告第70号「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第70号」という。)

なお、日本公認会計士協会から公表されている上記実務指針等のうち本適用指針に含まれないもの及び会計制度委員会報告第11号「中間財務諸表等に関する税効果会計に関する実務指針」並びに監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」については、ASBJの適用指針として開発していく予定であることが示されています(本適用指針第55項)。また、これらのうち税効果会計に適用する税率の取扱いに関しては、実務上の課題があるため、実務指針全体の移管作業から切り離して早急に対応を図るべきとの意見が聞かれたため、先行して適用指針を開発するものとし、平成27年12月10日に企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」が公表されています。

1. 本適用指針の概要

(1)目的(本適用指針第1項)

本適用指針は、繰延税金資産の回収可能性について、税効果会計基準を適用する際の指針を定めるものであるとされています。

(2)繰延税金資産の回収可能性に係る取扱い

本適用指針では、監査委員会報告第66号における企業の「分類」に応じて回収可能性を判断するという基本的な枠組みを基本的に踏襲するものとしています。すなわち、企業を5つの分類に分け、それぞれの分類に応じて繰延税金資産の回収可能性を判断する現行の方法を原則として引き継いだ上で、当該定めの一部について、必要に応じた見直しを行うという形で本適用指針は作成されています。

以下では、監査委員会報告第66号の定めなどの現行の取扱いと異なる点を中心に、本適用指針における定めの概要を説明します。

① (分類1)から(分類5)の要件のいずれにも該当しない場合の取扱い(本適用指針第15項、第16項)

前述のとおり、本適用指針では監査委員会報告第66号における「会社分類」という考え方を踏襲しており、各企業は将来の課税所得による繰延税金資産の回収可能性の判断に当たり、それぞれ(分類1)から(分類5)に区分されます。これらの各分類の要件は、極力隙間が生じないように作成されていますが、それでも(分類1)から(分類5)のいずれの要件にも該当しないようなケースが想定されます。本適用指針では、そのような場合に、過去及び当期までの実績、並びに将来の見込みなどを総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断される分類に当てはめるものとされました。

この定めの適用により、例えば監査委員会報告第66号の適用の際に、分類と分類の間に当てはまっていたときに保守的に下位の分類に該当するなどとしていたケースでは、従前の会社分類と異なる結果となることがあるため、留意が必要です。

② (分類2)及び(分類3)に係る分類の要件(本適用指針第19項、第22項)

(分類2)及び(分類3)に係る分類の要件を判断する際の指針として、これまでの規準であった「経常的な利益」に代え、「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得」を用いることとし、繰延税金資産の回収可能性の判断において求められる要件が「将来の課税所得の十分性」であることと平仄を合わせる形とされました。

なお、このときに「臨時的な原因により生じたもの」を除くこととしているのは、過去において「臨時的な原因により生じたもの」は、将来においても頻繁に生じることは見込まれないという推定に基づくとされています。また、分類要件を課税所得に基づく要件に変更するものの、これまで分類②又は分類③に該当していた企業の範囲を変更しないこと、及びこれまでの「経常的な利益」に基づく分類と概ね整合的になることを意図して、課税所得から「臨時的な原因により生じたもの」を除くこととした旨が示されています(本適用指針第71項)。

③ (分類2)に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る取扱い(本適用指針第21項)

これまで、監査委員会報告第66号の分類②の企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異については、一律にそれに係る繰延税金資産の回収可能性がないものとして取り扱われていました。本適用指針では、原則としてこれまでの取扱いを踏襲するとした上で、一定の要件を満たす場合(将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性があるものとして取り扱うこととされました。

④ (分類3)に該当する企業における将来の合理的な見積可能期間に係る取扱い(本適用指針第23項、第24項)

監査委員会報告第66号では、「おおむね5年」とされていながら実務上は5年を上限として運用されていたものと考えられる分類③の会社における将来の課税所得の合理的な見積可能期間について、見直しが行われています。

具体的には、各企業の実態を反映すべく、課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における当該計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案した上で、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた将来減算一時差異等に係る繰延税金資産の回収可能性があると企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、(分類3)の企業において、当該繰延税金資産に回収可能性があるものとされます。

⑤ (分類4)に係る分類の要件に該当する企業が(分類2)、(分類3)に該当する取扱い(本適用指針第28項、第29項)

これまでの定めにおいても、監査委員会報告第66号の会社分類ではいわゆる「④のただし書き」と呼ばれる分類があり、期末において重要な繰越欠損金が存在していたとしても、一定の要件を満たす場合には分類③として取り扱うとする定めがありました。

本適用指針ではこの取扱いに調整を加える形で、(分類4)の要件を満たす場合において重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における当該計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の繰越欠損金の推移等を勘案した上で、将来5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得(後述)が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には(分類2)に、将来においておおむね3年から5年程度一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には(分類3)に該当するものと取り扱うとものとされます。

⑥ その他
  • (分類4)、(分類5)の要件(本適用指針第26項、第30項)
    監査委員会報告第66号では、分類④の要件として「期末における重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社」、分類⑤の要件として「債務超過の状況にある会社や資本の欠損の状況が長期にわたっている会社で、かつ、短期間に当該状況の解消が見込まれない場合」といった要件が設けられていました。これらの要件は期末の「残高(ストック)」ベースとなっており、当該分類の他の要件や、分類①から分類③までの要件である「発生(フロー)」ベースのそれと整合しないものとなっていました。 本適用指針では、(分類4)及び(分類5)の要件を過去、当期、将来の「発生(フロー)」ベースに統一することとし、監査委員会報告第66号のときのような「残高(ストック)」ベースの要件は削除されています。
  • 「一時差異等加減算前課税所得」の定義(本適用指針第3項(9)、第11項(5)、(6))
    本適用指針では、スケジューリングされた将来減算一時差異と比較(相殺)する将来課税所得の概念を明確化しています。具体的には、「将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合には、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額」を「一時差異等加減算前課税所得」として定義し、当該「一時差異等加減算前課税所得」と、スケジューリングされた将来減算一時差異とを比較(相殺)するものとして整理されました。
  • 長期解消将来減算一時差異の取扱いなど(本適用指針第35項、第36項)
    監査委員会報告第66号5(2)で定められていたいわゆる「長期解消将来減算一時差異」の取扱いは、本適用指針でも踏襲されています。すなわち、建物に係る減価償却超過額や退職給付引当金(退職給付に係る負債)のように、スケジューリングの結果、その解消見込年度が長期となる将来減算一時差異に関する特例は、本適用指針の第35項に引き継がれています。なお、固定資産の減損損失に関して、この「長期解消将来減算一時差異」の特例が適用とならない取扱いも、監査委員会報告第70号の取扱いが踏襲されています。

(3)開示等(参考)

本適用指針では、注記事項に係る追加の定めは設けられていません。
開示(注記)に関しては、前述した今後行われる他の実務指針の移管の際に、税効果会計に関する注記事項の見直しを行う方針が示されています。

2. 適用時期等

(1)適用時期(本適用指針第49項(1))

平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用とするものとされています。
ただし、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から早期適用することができます。

(2) 経過措置(本適用指針第49項(3)、(4))

本適用指針の適用初年度においては、以下の項目を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。

  • (分類2)に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る取扱い(上記1.(2)③)
  • (分類3)に該当する企業における将来の合理的な見積可能期間(5年超の課税所得を見積る場合)に係る取扱い(上記1.(2)④)
  • (分類4)に係る分類の要件に該当する企業が(分類2)に該当する取扱い(上記1.(2)⑤)

上記の会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に係る影響額は、当該期首時点の利益剰余金に加減することとされています。ただし、その他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に係る影響額に関しては、当該その他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減することになります。

3. 設例

税効果会計基準及び本適用指針で示された内容についての理解を深めるため、参考として以下の設例が示されています。

【設例1】 一時差異等加減算前課税所得の算定方法
【設例2】 過年度にその他有価証券を減損した場合の税効果(税効果Q&A Q3から移管)
【設例3】 繰越外国税額控除の税効果(個別税効果実務指針 設例6から移管)

4. 公開草案から修正された主な点

本適用指針では、公開草案の段階より、以下に示した点が主として修正されています。

  • 上記1.(2)③から⑤に記載した3つの定め(反証規定)について、「合理的に説明できる場合」とされていた要件が、「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」とされた点
  • 適用初年度期首の影響額の取扱いについて、公開草案では影響額の全額を期首の利益剰余金等に加減するとされていたものが、本適用指針では2.(2)のとおり、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に係る影響額とされる3つの定め(反証規定)による影響額のみを期首の利益剰余金等に直接加減するものとされ、その他の影響額については、法人税等調整額(又はその他の包括利益)に計上するものとされた点
  • (分類1)及び(分類2)に該当する企業において、分類の要件に将来事象を織り込む観点から、「当期末において経営環境に著しい変化がない」という要件が、「当期末において近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない」 とされた点
  • 将来の課税所得の見積りに際し、「適切な権限を有する機関の承認を得た」ものであることが改めて示された点(監査委員会報告第66号で設けられていた要件が、公開草案の段階ではいったん削除されていたもの)
  • (分類3)の要件のうち「課税所得が大きく増減」するという点につき、「課税所得から臨時的な原因により生じたものを除いた数値」にはマイナスの値が含まれることが示された点
  • 重要性の乏しい連結子会社等における簡便的な処理が容認されるかどうかについて、重要性の乏しい連結子会社等における考え方(従前の取扱いを継続することは妨げられないなど)が結論の背景で明示された点

なお、本稿は本適用指針の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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