会計情報トピックス 浅井哲史
企業会計基準委員会から平成27年3月26日に公表
平成27年3月26日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から改正企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下「本適用指針」という。)が公表されました。
平成24年1月31日付で厚生労働省から、厚生労働省通知「厚生年金基金の財政運営について等の一部改正及び特例的扱いについて」及び「「確定給付企業年金の規約の承認及び認可の基準等について」及び「厚生年金基金から確定給付企業年金に移行(代行返上)する際の手続及び物納に係る要件・手続等について」の一部改正について」が発出され、厚生年金基金及び確定給付企業年金における財務諸表の表示方法の変更が行われました。また、厚生年金基金における財務諸表の表示方法については、平成26年3月24日付で発出された厚生労働省通知「厚生年金基金の財政運営について等の一部改正等について」による変更も行われています。以上を受けて、本適用指針において複数事業主制度の会計処理及び開示についての改正がなされています。
1. 改正の概要
(1)複数事業主制度の会計処理及び開示(確定拠出制度に準じた場合の開示)の改正(本適用指針第65項、第72-2項、第119-2項、第126-2項)
厚生年金基金及び確定給付企業年金における貸借対照表について、従前は、「数理債務」(負債)及び「未償却過去勤務債務残高」(資産)が表示されていましたが、表示方法が変更された後は、「数理債務」から「未償却過去勤務債務残高」を控除した純額が、厚生年金基金の場合は「責任準備金(プラスアルファ部分)」(負債)として、確定給付企業年金の場合は「責任準備金」(負債)として表示されることとなっています。また、「数理債務」の額と「未償却過去勤務債務残高」は、原則として厚生年金基金等の貸借対照表の欄外に注記されることとなっています。
さらに、厚生年金基金の場合、従前は「数理債務」(負債)と代行部分に該当する「最低責任準備金(継続基準)」(負債)を合計した額が、厚生年金基金の貸借対照表に「給付債務」(負債)として表示されていましたが、表示方法の変更後は、「給付債務」(負債)が貸借対照表には表示されず、「責任準備金(プラスアルファ部分)」(負債)と「最低責任準備金」(負債)を合計した額が「責任準備金」(負債)として表示されることとなっています。
上記の変更に伴い、複数事業主制度を採用している場合において、確定拠出制度に準じた会計処理及び開示を行う場合の注記事項である「直近の積立状況等」のうち「年金財政計算上の給付債務の額」について、本適用指針では、従来と実質的に同じ内容の額の注記を求めることとし、名称を「年金財政計算上の数理債務の額と最低責任準備金の額との合計額」と変更して、注記すべき金額を明らかにすることとされました。
この「年金財政計算上の数理債務の額と最低責任準備金の額との合計額」について、厚生年金基金の場合は両者の合計額となり、確定給付企業年金の場合は代行部分の給付がないため、年金財政計算上の数理債務の額のみとなっています(下記(2)参照。)。
(2)(参考)厚生年金基金及び確定給付企業年金の貸借対照表の表示方法の変更のイメージ図 (本適用指針[開示例3]参照)
① 厚生年金基金の貸借対照表の改正のイメージ図
② 確定給付企業年金の貸借対照表の改正のイメージ図
(※)貸借対照表の欄外に、数理債務と未償却過去勤務債務残高が注記されていない場合には、基金又は制度の受託者がそれらの数値を把握しているものと考えられる。
2. 適用時期等
公表日時点において、厚生年金基金及び確定給付企業年金の財務諸表は変更後の表示方法により作成されていることから、本適用指針は公表日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用するとされています。なお、その適用にあたっては、表示方法の変更として取り扱うため、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項の定めに従って、表示する過去の期間における本適用指針第65項の注記についても新たな表示方法を適用することになるとされています。
3. 公開草案から変更された主な点
厚生労働省通知による変更が二段階で行われた点が本適用指針の第72-2項の記述に反映されています。また、簡便法による退職給付債務の計算及び自社の負担に属する年金資産等の計算において、厚生年金基金の貸借対照表に表示されている「最低責任準備金」(負債)の額も勘案するように変更が行われています。
なお、本稿は本改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。