会計情報トピックス 江村羊奈子
内閣府令第19号が平成26年3月26日に公布
平成26年3月26日に内閣府令第19号「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等(以下、「本改正」という。)が公布されています。
本改正は、平成25年6月20日に企業会計審議会から公表された「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下、「当面の方針」という。)を踏まえ、金融商品取引法における単体開示の簡素化を図るためのものです。
連結財務諸表作成会社のうち会計監査人設置会社(別記事業を営む株式会社又は指定法人(以下、「別記事業会社等」という。)を除く。)は「特例財務諸表提出会社」とされ、会社法の要求水準に合わせた新たな個別財務諸表の様式によることや、一定の注記については会社計算規則の規定をもって注記できるものとする特例が定められています。また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合に、リース取引に関する注記、一株当たり情報、その他複数の注記項目について、個別財務諸表における注記が免除されています。その他、貸借対照表並びに販売費及び一般管理費等の区分掲記に係る重要性基準について連結財務諸表規則と同様の規準への見直し、連結財務諸表においてセグメント情報を注記している会社における製造原価明細書の開示の免除、連結財務諸表作成会社における「主な資産及び負債の内容」の開示の免除等の改正が行われています。
また、連結財務諸表規則、中間財務諸表等規則及び財務諸表等規則ガイドライン等についても所要の改正が行われています。
なお、平成26年3月31日以後に終了する事業年度に係る財務諸表から適用されます。
1. 改正される規則等
- 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、「財規」という。)
- 「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、「連結財規」という。)
- 「中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」
- 「中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」
- 「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」
- 「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」
- 「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「開示府令」という。)
- 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」
- 「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)」
- 「「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(連結財務諸表規則ガイドライン)」
2. 本改正の概要
単体開示の簡素化に関して、「当面の方針」では、方向性として主に以下の項目が示されていました。
- 本表(貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書)を会社法の水準へ統一
- 注記、附属明細表、主な資産及び負債の内容に関しては、金融商品取引法と会社法で大きく異ならない場合は、会社法の水準に統一
- 連結財務諸表において十分な情報が開示されている場合においては、金融商品取引法の単体ベースの開示の免除
- 単体開示のみの会社は簡素化しない
- 連結財務諸表におけるセグメント情報の充実や、注記等の記載内容を非財務情報として開示することを検討
「当面の方針」を踏まえ、本改正では、主に以下の見直しが行われています。なお、上記それぞれ事項のうち、「セグメント情報の充実」は今回の本改正で対応されていません。
(1)連結財務諸表を作成している会社の特例
連結財務諸表を作成している会社のうち、会計監査人設置会社(別記事業会社等を除く。)は、「特例財務諸表提出会社」とされ、以下の特例により、会社法の要求水準に合わせた新たな財務諸表の様式によることや、一定の項目においては、会社計算規則の定めをもって注記できることとされています。なお、この場合には、特例財務諸表提出会社に該当する旨、また特例により作成している旨の記載が必要とされています。
① 財務諸表の様式(改正財規第127条第1項)
会社法の要求水準に合わせるため、以下の財務諸表の様式が新たに規定されています。
項目 | 様式 |
貸借対照表 | 第五号の二 |
損益計算書 | 第六号の二 |
株主資本等変動計算書 | 第七号の二 |
有形固定資産等明細表 | 第十一号の二 |
引当金明細表 | 第十四号の二 |
② 会社計算規則の注記の準用(改正財規第127条第2項)
以下の項目については、会社計算規則に規定される注記をもって、財務諸表の注記を行うことができるものとされています。
項目 | 財規 | 会社計算規則 |
重要な会計方針の注記 | 第8条の2 | 第101条 |
表示方法の変更に関する注記 | 第8条の3の4 | 第102条の3第1項 |
会計上の見積りの変更に関する注記 | 第8条の3の5 | 第102条の4 |
親会社株式の表示及び注記 | 第18条、第32条の2 | 第103条第9号 |
関係会社に対する資産・負債の注記 | 第39条、第55条 | 第103条第6号 |
担保資産の注記 | 第43条 | 第103条第1号 |
偶発債務の注記 | 第58条 | 第103条第5号 |
関係会社に係る損益計算書項目の注記 | 第74条、第88条、第91条、第94条 | 第104条 |
(2)連結財務諸表を作成している場合の単体財務諸表における注記の免除
以下の項目については、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合に、記載を要しないこととされています。
項目 | 財規 |
---|---|
リース取引に関する注記 | 第8条の6、平成19年内閣府令第65号附則第9条第3項 |
事業分離における分離元企業の注記 | 第8条の23 |
資産除去債務に関する注記 | 第8条の28 |
資産から直接控除した引当金の注記 | 第20条、第34条 |
資産から直接控除した減価償却累計額の注記 | 第26条 |
減損損失累計額の注記 | 第26条の2 |
事業用土地の再評価に関する注記 | 第42条 |
たな卸資産及び工事損失引当金の表示(注記含む。) | 第54条の4 |
企業結合に係る特定勘定の注記 | 第56条 |
一株当たり純資産額の注記 | 第68条の4 |
工事損失引当金繰入額の注記 | 第76条の2 |
たな卸資産の帳簿価額の切下げに関する記載 | 第80条 |
研究開発費の注記 | 第86条 |
減損損失の注記 | 第95条の3の2 |
企業結合に係る特定勘定の取崩益の注記 | 第95条の3の3 |
一株当たり当期純損益金額に関する注記 | 第95条の5の2 |
潜在株式調整後一株当たり当期純利益金額に関する注記 | 第95条の5の3 |
自己株式に関する注記 | 第107条 |
(3)注記項目の削除
以下の項目については、財規の項目が削除され、開示を要しないこととされました。
項目 | 財規(現行) |
固定資産の再評価に関する注記 | 第42条 |
配当制限に関する注記 | 第68条の2 |
(4)区分掲記に係る重要性基準について連結と同様の規準への見直し
貸借対照表並びに販売費及び一般管理費等の区分掲記に係る重要性基準が、連結財務諸表規則と同様の規準に見直されています。
項目 | 現行 | 本改正 |
---|---|---|
貸借対照表
|
総資産または負債及び純資産の1%超 |
|
損益計算書
|
販売費及び一般管理費合計の5%超 | 販売費及び一般管理費合計の10%超 |
上記の他、財務諸表等規則ガイドラインにおいても見直しが行われています。
(5)製造原価明細書の開示免除
連結財務諸表上セグメント情報を注記している場合は、製造原価明細書を掲げることを要しないこととされています(改正財規第75条第2項、改正開示府令第二号様式記載上の注意(69)b)。
(6)主な資産及び負債の内容の開示免除
連結財務諸表を作成している場合は、主な資産及び負債の内容の記載を省略できることとされています(改正開示府令第二号様式記載上の注意(73))。
(7)有価証券明細表の開示免除
別記事業会社等を除く財務諸表提出会社(金融商品取引法第24条第1項第1号または第2号に掲げる有価証券の発行者に限る。)は、有価証券明細表の作成が不要とされています(改正財規第121条第3項)。
なお、連結財務諸表を作成している場合に社債明細表、借入金等明細表、資産除去債務明細表の作成を要しないとする規定について、別記事業会社等を除くものとされました(改正財規第121条第4項)。
(8)被合併会社の個別財務諸表の開示規定の見直し
財務諸表において求められている被合併会社の個別財務諸表の開示(開示府令(現行)第二号様式記載上の注意(67)e、第三号様式記載上の注意(47)e等)は、本改正では項目が削除されています。
3. 公開草案からの主な変更点
項目 | 変更点 |
---|---|
区分掲記に係る重要性基準 | 関係会社に対する資産・負債の注記についても、貸借対照表の区分掲記に係る重要性基準の連結財務諸表規則と同様の規準への見直しがされました。 |
有価証券明細表の開示免除 | 有価証券明細表の作成が不要とされる会社は、別記事業会社等を除く財務諸表提出会社のうち、金融商品取引法第24条第1項第1号または第2号に掲げる有価証券の発行者に限ることとされました。 |
様式第十一号の二 「有形固定資産等明細表」 |
償却累計率の記載は様式案から削除されました。 |
リース取引に関する注記 | 平成20年4月1日以前がリース取引開始日の所有権移転外ファイナンス・リース取引に係る注記についても、連結財務諸表を作成している場合には個別財務諸表における注記を省略できることとされました。 |
4. 適用時期
平成26年3月31日以後に終了する事業年度、連結会計年度、中間会計期間及び中間連結会計期間から適用されます。
なお、金融庁のホームページに掲載されている「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」のNo.2及びNo.4では、特例財務諸表提出会社が改正財規第127条の規定に基づいて開示した場合には表示方法の変更に該当する旨、及び開示免除となった項目の前年度分(比較情報)の記載が不要である旨が示されています。
本稿は本改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。