会計情報トピックス 金子裕子
企業会計基準委員会が平成21年12月4日に公表
企業会計基準委員会は、平成21年12月4日に企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、本会計基準)および企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(両者を合わせて、以下、本会計基準等)を公表しました。
本会計基準等は、会計方針を変更した場合や誤謬(ごびゅう)の訂正が行われた場合等における過去の財務諸表の遡及(そきゅう)処理に関する取り扱いを定めています。また、固定資産の減価償却方法や耐用年数の変更に関する考え方を整理するとともに、臨時償却が廃止されています。
1. 本会計基準等における原則的取り扱い
本会計基準等における、原則的な取り扱いは次のとおりです。
用語 | 原則的な取り扱い |
---|---|
会計上の変更 | |
会計方針の変更 | ○(遡及適用) |
表示方法の変更 | ○(財務諸表の組替え) |
会計上の見積もりの変更 | ×(将来にわたり会計処理) |
過去の誤謬の訂正 | ○(修正再表示) |
○:遡及処理する ×:遡及処理しない
企業会計基準委員会「「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び「同適用指針」の公表」を一部修正
2. 会計方針の変更
(1)原則的な取り扱い(本会計基準6項および7項)
会計方針の変更には、①会計基準等の改正に伴うものと、②それ以外の正当な理由によるものがあります。いずれの場合にも、原則として、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用します。これは、遡及適用により、財務諸表全般についての比較可能性が高まると考えられるためです。
例えば、棚卸資産の評価方法をX2期に変更した場合には、X1期の財務諸表に変更後の新たな評価方法を遡及適用し、新たな会計方針で作成されたX1期の財務諸表を前提に、X2期の財務諸表が作成されます。従って、X2期の有価証券報告書に記載されるX1期の財務諸表の棚卸資産、利益剰余金等の金額は、X1期の有価証券報告書に記載されたX1期のそれぞれの金額とは異なることになります。
ただし、会計基準等の改正に伴う会計方針を変更する際に、会計基準に経過的な取り扱いが定められている場合には、当該取り扱いに従います。
(2)原則的な取り扱いが実務上不可能な場合の取り扱い(本会計基準8項および9項)
ケース | 取り扱い |
---|---|
新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額は算定できるが、どの期間に影響を与えるかの算定が不可能な場合 | 遡及適用が実行可能な最も古い期間の期首で累積的影響額を算定し、当該期首残高から新たな会計方針を遡及適用 |
新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することが不可能な場合 | 実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用する |
(3)注記(本会計基準10項および12項)
会計基準等の改正に伴い会計方針を変更した場合と、それ以外の正当な理由による会計方針の変更の場合に分けて、注記事項が定められています。また、公表済みで適用されていない新会計基準等がある場合には、その名称や概要、新会計基準適用による影響に関する記述等の注記が必要です。
3. 表示方法の変更の取り扱い
(1)原則的な取り扱い(本会計基準13項および14項)
表示方法の変更が認められるのは、①表示方法を定めた会計基準または法令等の改正により表示方法の変更が求められる場合と、②会計事象等を財務諸表により適切に反映するために表示方法の変更を行う場合です。
いずれの場合においても、表示する過去の財務諸表を新たな表示方法により、組み替えることが必要です。これは、会計方針の変更の場合と同様、財務諸表全般についての比較可能性が高まると考えられるためです。
(2)原則的な取り扱いが実務上不可能な場合の取り扱い(本会計基準15項)
新たな表示方法により、過去の財務諸表を組み替えることが実務上不可能な場合には、実行可能な期間から新たな表示方法を適用するとともに、実務上不可能な理由を注記します。
(3)表示方法の変更の注記(本会計基準16項)
表示方法を変更した場合には、その内容等を注記することが必要です。
4. 会計上の見積もりの変更
(1)原則的な取り扱い(本会計基準17項)
会計上の見積もりの変更が行われた場合には、過去にさかのぼって処理せず、その影響を変更期以降の財務諸表において認識します。
(2)注記(本会計基準18項)
会計上の見積もりを変更した場合には、その内容や影響額等を注記します。
(3)減価償却等に関する取り扱い
① 減価償却方法の変更(本会計基準20項)
有形固定資産の減価償却方法および無形固定資産の償却方法は会計方針として位置付けられていますが、減価償却方法等の変更は、会計上の見積もりの変更と同様に扱い、遡及適用は行いません。
② 耐用年数の変更(本会計基準57項)
固定資産の耐用年数の変更は、当期以降の費用配分にのみ影響させる取り扱いとし、臨時償却については廃止されています。
5. 過去の誤謬の取り扱い
(1)原則的な取り扱い(本会計基準21項)
過去の財務諸表に誤謬が発見された場合には、原則として過去の財務諸表を修正再表示します。また、重要性の判断に基づいて、過去の財務諸表を修正再表示しない場合には、営業損益または営業外損益として認識するとされています。
(2)原則的な取り扱いが実務上不可能な場合の取り扱い(本会計基準67項)
本会計基準等では、実務上不可能な場合の取り扱いは明示しないとしていますが、まれな実務において誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性を否定するものではないとされています。
(3)注記(本会計基準22項)
過去の誤謬の内容や影響額等について注記することが必要です。
6. 適用時期(本会計基準23項)
平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更および過去の誤謬の訂正から適用されます。なお、未適用の会計基準の影響等の注記については、平成23年4月1日以後開始する事業年度から適用されます。
7. その他の会計基準等への影響(本会計基準70項)
四半期財務諸表に固有の遡及処理等に関する取り扱いについては、引き続き検討が行われる予定です。また、その他の会計基準(1株当たり当期純利益に関する会計基準、株主資本等変動計算書に関する会計基準等)についても改正が予定されています。
本稿は「企業会計基準第24号『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』及び企業会計基準適用指針第24号『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針』の公表」の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。