会計監理レポート 岡田眞理子
企業会計基準委員会が平成21年7月10日に公表
平成21年7月10日に企業会計基準委員会(ASBJ)から「財務諸表の表示に関する論点の整理」(以下、論点整理)が公表されました。論点整理は、財務諸表の表示に関する主要な論点を示し、今後の議論の整理を図ることを目的としたものです。
なお、平成21年9月7日(月)までコメントが募集されており、寄せられた意見も参考に、今後、会計基準等の取りまとめに向けた検討が続けられる予定です。
1. 論点整理公表の背景
わが国の財務諸表の基本的な構成や表示方法については、「企業会計原則」、「連結財務諸表に関する会計基準」等に定めがあります。
一方、国際財務報告基準(IFRS)においては、IAS第1号「財務諸表の表示」で財務諸表の表示に関する事項が定められています。また、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、昨年10月にディスカッション・ペーパー「財務諸表の表示に関する予備的見解」(以下、DP)を公表しています。
これらを受けて、DPにおいて検討されている主要な論点を示し、議論の整理を図ることにより、IASBおよびFASBに対して意見発信を行うとともに、今後の財務諸表の表示に関する会計基準の取りまとめに向かう検討を進めるため、論点整理が公表されました。
2. 論点整理の構成
論点整理では、DPで示された論点を次の二つのグループに分けて、意見募集を行っています。
- 現行の国際的な会計基準との差異に関する論点
国際的な会計基準とわが国の会計基準との差異の分析を行い、短期的に対応すべき項目を検討しています。 - IASBとFASBの予備的見解における主な論点(フェーズB関連)
DPに対応する中長期的な検討の方向性に関し、特に重要と考えられる論点についてコメントを求めています。
3. 第1部 現行の国際的な会計基準との差異に関する論点
論点1 包括利益の表示
現行の当期純利益の計算方式(利益のリサイクリング※1)および当期純利益の表示の維持を前提に、包括利益の表示を行うべきか、包括利益を表示する場合には、どの計算書に表示するかが検討されています。
※1 過年度に計上されたその他の包括利益のうち期中に実現した部分等をその他の包括利益から当期純利益に振り替えることをいう。
論点2 非継続事業に関連する損益の損益計算書における区分表示
損益計算書上、非継続事業に関連する損益を、継続が見込まれている事業の損益と区分して表示すべきかに関する論点です。区分表示するとした場合の、非継続事業の定義、具体的な表示方法および内訳情報等の開示を中心に検討されています。
論点3 売却目的保有の非流動資産及び処分グループの貸借対照表における区分表示
売却目的で保有する非流動資産および処分グループ(資産および関連する負債)を、貸借対照表において他の資産および負債と区分して表示すべきかが論点とされています。
論点4 損益の段階別表示
損益計算書における損益の段階別表示を見直すかについて、第2部で取り扱われている論点の動向を踏まえ、中長期的に検討することが適当とされています。
論点5 損益項目の性質別開示
損益計算書または注記における損益項目の性質別開示に関する論点についても、第2部で取り扱われている論点の動向を踏まえ、中長期的に検討することが適当とされています。
論点6 貸借対照表における流動固定区分と表示科目
貸借対照表における流動と固定の区分および最低限の表示科目についても、第2部で取り扱われている論点の動向を踏まえ、中長期的に検討することが適当とされています。
論点7 その他
IAS第1号には、財務諸表の一般的特性に関する定めがありますが、わが国の企業会計原則等では明示されていないものがあります。次に掲げる項目について、わが国においても定めを設けるべきかが論点とされています。
検討事項
① どのような場合に適正な表示が達成されるかを会計基準に明示すべきか。
② 会計基準等からの離脱の定めを設けるか。
③ 継続企業の前提に関する注記を会計基準に定めるか。
④ 表示に関する重要性と合算に関する取り扱いを明示するか。
⑤ 総額表示ないし純額表示(相殺)の取り扱いを見直すべきか。
⑥ 報告の頻度を明示すべきか。
⑦ 比較情報の記載の必要性や比較期間を会計基準に明示すべきか。
⑧ 表示の継続性を会計基準に明示すべきか。
⑨ 注記事項に関する一般的な定めを会計基準に明示すべきか。
4. 第2部 IASBとFASBの予備的見解における主な論点
(1)第2部の構成
論点整理第2部は、IASBとFASBの共同プロジェクトによるDPの論点のうち、9の論点についてコメントが求められています。なお、DPに対して、ASBJから平成21年4月14日付けでコメントが提出されており、各論点は「DPの論点の要約」、「ASBJが提出したコメントの要旨」の順で記載されています。また、論点整理には、コメント提出者の理解に資するように、(参考)としてDPの要約が日本語で添付されています。
(2)個別論点
論点A 財務諸表の表示の目的(一体性の目的・分解の目的・流動性および財務的弾力性の目的)
一体性の目的を徹底すると、財政状態計算書、包括利益計算書およびキャッシュ・フロー計算書において、科目の表示順序等の大幅な変更が必要となりますが、これにより財務諸表利用者の適切な投資意思決定に役立つかが論点とされています。
論点B 事業セクションと財務セクションの区分
キャッシュ・フロー計算書でなされているように、財政状態計算書および包括利益計算においても事業セクションと財務セクションを区分表示するべきかが論点とされています。
論点C マネジメント・アプローチ
マネジメント・アプローチは、財務諸表利用者に対して企業の有用な概観を提供することになるのか、また、マネジメント・アプローチによる比較可能性の減少は当該アプローチによる便益を上回るかが論点とされています。
論点D 各セクションにおける資産および負債の純額表示
事業セクションと財務セクションにおいて、資産と負債の両方を表示するため、資産と負債は各セクションで純額表示されます。当該表示の変更と、包括利益計算書およびキャッシュ・フロー計算書における事業活動および財務活動の区分が一体となることを比較し、現行よりも投資意思決定に有用な情報が提供されるか、あるいは、構成要素別(資産・負債・資本)に区分し、次に各構成要素を事業セクションと財務セクションに区分すべきかが論点とされています。
論点E 事業セクションおよび営業カテゴリーと投資カテゴリーの定義
事業セクションは、さらに営業カテゴリーと投資カテゴリーに区分されますが、それぞれの定義がどうあるべきかが論点とされています。
論点F 財務セクションおよび財務資産と財務負債カテゴリーの定義
財務セクションは、さらに財務資産カテゴリーと財務負債カテゴリーに区分されますが、それぞれの定義がどうあるべきかが論点とされています。
論点G 収益および費用項目の分解
DPでは、企業の将来キャッシュ・フローの予測に係る情報の有用性が高まる場合、機能別、性質別または両方により、収益、費用、利得および損失を包括利益計算書の各セクションおよびカテゴリー内でさらに分解しなければならないことが提案されています。
第1部の論点4および論点5に関連する論点です。
論点H キャッシュ・フロー計算書の直接法による作成
DPでは、直接法を用いなければならないことが提案されています。間接法に比べてコストがかかると考えられる直接法の採用について、コストとベネフィットの観点等から意見が求められています。
論点I キャッシュ・フロー計算書と包括利益計算書との調整表
DPでは、直接法によった場合、包括利益との関係が分かりにくくなるため、キャッシュ・フロー計算書からスタートして包括利益計算書に至る調整表の作成が提案されています。調整表の作成について、コストとベネフィットの観点等から意見が求められています。
本稿は「『財務諸表の表示に関する論点の整理』の公表」の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。