組織再編が会計に及ぼす影響

2015年1月27日
カテゴリー 経理実務最前線

公認会計士 中村 崇

Q. 

昨今、国内外の市場環境が大きく変化している中、収益の持続的な拡大のため、海外事業の重要性がさらに増し、海外への進出や海外企業のM&Aが盛んに行われています。また、会社や事業の整理・統合を目的とする事業再編、全社的な組織再編 (以下、組織再編等とします。) なども多く行われています。経営者が組織再編等の意思決定を行った際に会計に及ぼす影響としてのれんの影響が大きいことは理解していますが、のれん以外の論点で重要な事項を教えてください。

A.

組織再編等の意思決定を行うとさまざまな影響がありますが、その中でも会計の見地から経営者の方々に認識して頂きたい点は、1.セグメント情報への影響及び2.減損会計への影響の二つと考えます。組織再編等の意思決定により、経営者の意思に依存する管理会計上の区分や投資の意思決定、業績評価の単位の考え方が大きく変わる可能性があることがその理由です。これらは減損会計の前提となるキャッシュ・フローの生成単位や、セグメントの区分方法に影響を与える可能性があるという点で、会計の見地から重要な検討事項であると考えられます。

結論
(1) 経営者が行う組織再編等などの意思決定は会計処理や開示にも大きく影響する。
(2) 会計処理や開示の前提となる管理会計上の区分の設定や、業績を評価する単位の設定までの影響を考慮して意思決定をする必要がある。

図1

1. セグメント情報における検討事項

(1)セグメントの決定

セグメント情報はマネジメント・アプローチにより作成されます。セグメントを決定する際には、企業の構成単位が業績評価の単位となっており経営資源配分の意思決定のために経営成績を定期的に検討しているかどうか、収益を獲得し費用が発生する事業活動に関わるものかどうかを考慮します。

組織再編等が行われると、財務情報の報告単位や経営資源配分の単位を変更し、経営者のモニタリングの視点が変化することが考えられ、会計上はセグメント情報として開示するセグメントの区分方法を変更するという影響があります。例えば、新規に会社を買収した場合、既存セグメントの単位に含めるのか、新たなセグメントを設けるのか、セグメント全体を見直して細分化したり、従前とは異なる角度の切り口でセグメントを変更するのかどうか等を検討する必要があります。

経営者は、企業を取り巻く内外の経営環境の変化や、事業等の将来の方向性、経営の効率化がどのように行われるのかといった観点から業績を評価する単位を検討するものと思われます。その結果、当該単位がセグメント情報のベースとなり、開示される情報に大きな影響があることにも留意して検討を行う必要があります。

(2)組織変更等によるセグメントの区分方法の変更と開示

企業の組織構造の変更等、企業の管理手法が変更されたために、報告セグメントの区分方法を変更する場合には、下表の情報を開示することになります。

原則 セグメント区分を変更した旨、前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示。
容認 前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示することが実務上困難な場合には、当年度のセグメント情報を前年度の区分方法により作成した情報を開示できる。
開示が困難 企業が従来とは大きく異なる組織体制を採用した場合等、上記の開示を行うことが実務上困難な場合には、実務上困難な旨及びその理由を記載。

財務諸表を利用する投資家は、過去から将来に向けての傾向を分析し、企業の将来の業績を予測するために必要な情報が開示されることを期待しています。経営者には、この期待に応え、企業の会計情報を時系列で比較できるように情報を開示することが求められています。

つまり、組織変更等によって業績評価の単位が変更となることも多いですが、変更された業績評価単位と従前情報との比較可能性が確保できるように、適切な開示を行うことが必要とされています。

2. 固定資産減損会計における検討事項

(1)減損会計におけるグルーピングの決定

減損会計におけるグルーピングとは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位をいいます。製品やサービスの性質、市場などの類似性等によってグルーピングを決定する扱いになっていますが、組織再編等により、減損会計におけるキャッシュ・フロー生成単位である資産のグルーピングを変更することが考えられます。例えば、新規に会社を買収した場合に、その固定資産は新しいグルーピングを組成するか、既存のグルーピングに属させるかといったことを検討することになります。

セグメントとは、会社の最高意思決定機関が当該構成単位への資源配分に関する意思決定を行い、また、その業績評価のために経営成績を定期的に検討する単位です。一方、減損会計におけるグルーピングとは、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位等を考慮して定めるものであり、両者の概念は基本的にとても似ていると思います。

セグメントとグルーピングは同様ではないものの、両者の関連性は高いと考えられます。このため、セグメント変更時には、減損会計におけるグルーピングの変更の要否も併せて検討する必要があると考えられます。

セグメントの単位の変更が行われた場合に、減損会計における資産のグルーピングを変更することは会計基準上では必ずしも要求されている訳ではありませんが、セグメントの単位を変更したことをきっかけに資産のグルーピングを見直す事例もあり、組織再編等の内容によって資産のグルーピングを変更する可能性が十分に考えられます。

組織再編等により、従来は別単位と考えられていた組織、事業間においてシナジー効果が期待される局面もあると考えられ、再編前にはなかった相互補完的なキャッシュ・イン・フローが生じる可能性もあります。この場合は、大きな単位にグルーピングが見直される可能性がありますが、経営の実態が適切に反映されるかどうかの観点や管理会計上の区分の設定に配慮してグルーピングの変更の要否を検討する必要があります。

(2)組織再編等によりグルーピングが変更された際の減損の兆候

減損の兆候の例示として、「営業損益等がおおむね過去2期継続してマイナスの場合」が基準上示されています。ここで、組織再編等が行われた場合、その期において、ある資産グループの営業損益等がマイナスだったとすると、2期という考え方をリセットして1期目と考えるべきか、前期までの営業損益等も考慮すべきか、再編前と再編後のグルーピングの連続性が問題になります(図1参照)。

図2

図1

ここで、企業再編後のグルーピングが従前にはない新規の事業により構成されているのであれば、前期を考慮する余地がありませんので、1期目と考えることになります。しかし、図1の様に前期以前のグルーピングを再編成した様なグルーピングであれば、グルーピングの連続性があり、1期目としてゼロスタートとすべきではないと考えます。この場合、組織再編後のグルーピングの営業損益等の赤字要因はすでに前期以前から生じているため、2期連続して営業赤字と捉え、減損の兆候があるものとすべきと考えます。

そもそも、減損損失の検討において減損の「兆候」を検討する理由としては、対象資産すべてについて減損損失の認識、測定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあるためです。したがって、図1の様に従来から営業赤字となっているグルーピングを再構成しているのみであれば、当期において、その事実を重視して減損損失の要否について判断すべきです。つまり、減損の兆候として捉えたうえで、認識、測定を行うべきと考えられます。

3. まとめ

上記のように、組織再編等の意思決定を行った際にセグメント情報への影響及び減損会計への影響を確認してきました。まとめとして、組織再編等が行われた場合の経営者としての「説明責任」の観点から、再度考察してみたいと思います。

(1)セグメント情報と経営者の説明責任

セグメント情報は、投資家やアナリストなど、財務諸表の読者にとって最も重要な情報の一つとして捉えられています。そのなかでも、組織再編等が行われた場合におけるセグメント利益や利益率の変化等のセグメント情報は非常に重要で、未来情報を読み取るためにも有用な情報だと考えます。

組織再編等の規模にもよりますが、その成果は最高意思決定機関で継続的に報告されていくことが考えられます。経営者においては、組織再編等が会社の将来をどのように変化させていくのか、マネジメント・アプローチの観点から適切なセグメント情報の開示を行うことが、組織再編等に関する説明責任を果たすことにつながるとともに、会社の将来性を示すことができるものと考えられます。

(2)減損会計と経営者の説明責任

減損会計において、組織再編後の資産グループに対する減損損失の認識、測定は、組織再編等の効果を適切に検討した事業計画により判断されることになります。つまり、経営者としては、組織再編等により今後シナジー効果が得られ、業績は好転するであろうという事業計画の実現可能性、経済合理性を適切に評価し、将来キャッシュ・フローを見積もった上で減損損失の計上の要否を慎重に判断することになります。

結果として、減損損失を計上する場合においても、そうでない場合においても、経営者の判断を適切に財務諸表に反映しつつ、組織再編等の妥当性、減損損失の要否についての判断根拠や意思決定にかかる体制等を明瞭にしておくことで、セグメント情報と同様、説明責任を果たすことにつながると考えます。

減損会計基準とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態において、一定の条件下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。このことを踏まえると、組織再編等によって思った以上の効果があげられず、当該資産グループから投資の回収が困難と判断すれば、減損損失を計上するだけでなく、当該事業からの撤退という経営意思決定が会社にとって最善という状況を示唆している可能性もあります。

このような会計基準の趣旨を理解すれば、減損会計は、会計上の厳格なルールというネガティブな側面よりも、むしろ、経営意思決定への指針ともなり、場合によっては経営意思決定を早め、会社を正しい方向に導くというポジティブな側面があることに気づかれると思われます。会計基準というルールをうまく利用しながら、会社経営に生かしていくことも有用なのではないでしょうか。

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