退職給付 第9回:その他の論点

2014年2月13日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 牧野 幸享

1. 複数事業主制度

(1) 複数事業主制度

複数事業主制度とは、複数の事業主が共同して一つの企業年金制度を設立する場合をいいます。わが国の場合、連合設立型厚生年金基金、総合設立型厚生年金基金、共同で設立された確定給付企業年金制度などが複数事業主制度に該当します(平成24年改正適用指針118項)。

(2) 複数事業主制度の会計処理

a.原則的な会計処理

複数事業主制度においても、事業主ごとに退職給付債務、年金資産を算定し退職給付会計を適用しなければならず、複数事業主制度を採用している年金資産等は、複数の事業主へ合理的な基準をもって按分計算しなければなりません。
合理的な基準としては、次に例示する額についての制度全体に占める各事業主に係る比率によることができるものとされています(平成24年改正適用指針63項)。

(i) 退職給付債務
(ii) 年金財政計算における数理債務の額から、年金財政計算における未償却過去勤務債務を控除した額
(iii) 年金財政計算における数理債務の額
(iv) 掛金累計額
(v) 年金財政計算における資産分割の額

ここで算定された年金資産と事業主ごとに計算された退職給付債務に基づき、退職給付に係る負債を計上することになります。

b.合理的な按分計算ができない場合の会計処理

複数の事業主により設立された企業年金制度を採用している場合において、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないことがあります。このケースでは、確定拠出制度に準じて、要拠出額を退職給付費用として計上することになります(平成24年改正会計基準33(2)項、31~32項)。
この場合、重要性が乏しい場合を除き、当該年金制度全体の直近の積立状況等(年金資産の額、年金財政計算上の給付債務の額及びその差引額)及び年金制度全体の掛金等に占める自社の割合ならびにこれらに関する補足説明の注記が必要になります(平成24年改正会計基準33(2)項、平成24年改正適用指針65項)。

2. 制度間移行に関する会計処理

(1) 制度間移行について

企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」(平成14年1月31日(平成24年5月17日))において退職給付制度間の移行等を行った際の会計処理について明記されています。
ここでいう退職給付制度間の移行等とは以下の事項を指します(退職給付制度間の移行等に関する会計処理3項)。

種類 内容
退職給付制度間の移行 確定給付型退職給付制度から、他の確定給付型退職給付制度又は確定拠出年金制度への移行
退職給付制度の改訂 退職金規程や年金規約等の改訂

このような制度間の移行等に伴い、退職給付債務が増加又は減少することになります。適用指針においては、退職給付制度の終了(移行等により支払等を伴う場合)と退職給付債務の増額又は減額(移行等により支払等を伴わない場合)に分けて記述されています。

(2) 退職給付制度の終了

a.退職給付制度の終了とは

退職給付制度の終了とは、退職金規程の廃止、厚生年金基金の解散等のように退職給付制度が廃止される場合や、退職給付制度間の移行等により退職給付債務がその減少分相当額の支払等を伴って減少する場合をいいます。ここでいう支払等とは、以下を指しています(退職給付制度間の移行等に関する会計処理4項)。

  • 年金資産からの支給又は分配
  • 事業主からの支払又は現金拠出額の確定
  • 確定拠出年金制度への資産の移換

なお、退職給付制度の終了には、退職給付制度の全部終了のみならず、退職給付制度の一部終了も含まれます(退職給付制度間の移行等に関する会計処理5項)。

b.会計処理

退職給付制度の終了においては、当該退職給付債務が消滅すると考えられるため、以下の会計処理を行います(退職給付制度間の移行等に関する会計処理10項)。

(1) 退職給付制度の終了時点で、終了した部分に係る退職給付債務と、その減少分相当額の支払等の額との差額を、損益として認識します。終了した部分に係る退職給付債務は、終了前後の計算基礎に基づいて数理計算した退職給付債務の差額として算定します。

(2) 未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異の未処理額は、終了部分に対応する金額を、終了した時点における退職給付債務の比率その他合理的な方法により算定し、損益として認識します。

(3) 上記により認識される損益は、退職給付制度の終了という同一の事象に伴って生じたものであるため、原則として特別損益で純額表示します。

具体例としては、退職金規程を廃止する場合は、退職金規程廃止日が終了の時点、確定給付年金制度の一部について確定拠出年金制度へ資産を移換する場合は、移換を伴う改訂規程等の施行日が終了の時点となります。ただし、廃止日や施行日が翌期となる場合であっても、規程等の改訂日が当期中であり、終了損失の発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当該終了損失の額を当期の退職給付費用として計上し、退職給付に係る負債を増加させる処理を行う必要があります(退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱いQ&A1)。

c.経過措置について

退職一時金制度から確定拠出年金制度へ全部又は一部移行する場合、退職一時金制度の終了した部分に係る会計基準変更時差異については、残存の費用処理年数又は分割拠出年数のいずれか短い年数で定額法により費用処理することが認められています。ただし、終了した部分に係る退職給付債務が、その減少部分相当額の移換額を超過するときは、その利益相当額を当該終了部分に係る会計基準変更時差異の未処理額から控除した残額について当該費用処理を行うこととなります。
この経過措置を適用する場合には、その旨及び貸借対照表、損益計算書に与える影響額を注記します(退職給付制度間の移行等に関する会計処理15項)。

(3) 退職給付債務の増額又は減額

a.退職給付債務の増額又は減額とは

退職給付債務の増額又は減額とは、退職給付制度間の移行等による退職給付債務の支払等を伴わない増加部分又は減少部分をいいます。これは退職給付会計基準上の過去勤務費用に該当します。ただし、退職給付制度の終了部分はこれに該当しません(退職給付制度間の移行等に関する会計処理9項)。

退職給付債務の増額又は減額の会計処理が適用される具体例は以下のとおりです(退職給付制度間の移行等に関する会計処理13項)。

  • 確定給付型の退職給付制度の将来勤務に係る部分を改訂し、将来勤務に係る部分を確定拠出年金制度へ移行する場合
  • 確定給付型の退職給付年金制度を改訂し、他の確定給付型の退職給付年金制度へ移行する場合

b.会計処理

退職給付債務の増額又は減額は、退職給付会計基準上の過去勤務費用に該当するため、以下の会計処理を行います(退職給付制度間の移行等に関する会計処理12項)。

  • 原則として、各期の発生額について、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理することになります(平成24年改正会計基準25項)。
  • 当該増額又は減額が行われる前に発生した未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異の未処理額については、従前の費用処理方法及び費用処理年数を継続することになります。

(4) 厚生年金基金の代行返上についての取扱い

確定給付企業年金法に基づき、厚生年金基金制度を確定給付企業年金制度へ移行し、厚生年金基金制度の代行部分を返上した場合、代行部分に係る退職給付債務は、当該返還の日にその消滅を認識します。
厚生年金基金の代行返上に関する詳細な会計処理等については、平成24年改正適用指針46項及び61項をご参照ください。

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