EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 中澤 範之
Question
2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)及びウクライナ情勢に関する開示の状況を知りたい。
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2023年8月
- 調査対象期間:2023年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書
- 調査対象会社:以下の条件に該当する201社
①2023年4月1日現在、JPX400に採用されている
②3月31日決算である
③2023年6月30日までに有価証券報告書を提出している
④日本基準を適用している
【調査結果】
(1) 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
調査対象会社(201社)を対象に、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において、本感染症又はウクライナ情勢の影響を記載しているか、開示状況を調査した。調査結果は<図表1>のとおりである。また、対処方針又は対応策に関してどのような記載がなされているかについて、開示状況を調査した。調査結果は、<図表2>のとおりである。なお、ウクライナ情勢との関連が明示されていない地政学リスクの高まりに関する記載は、本分析においてはカウントしていない。
<図表1> 本感染症及びウクライナ情勢に関する影響の記載状況
記載状況(注) | 本感染症 | ウクライナ情勢 | ||
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
|
① 自社の属する業界や自社にどのような影響があるかを記載 | 102社 | 67社 | 26社 | 19社 |
(うち、事業又はセグメントごとにどのような影響があるかを記載) | 34社 | 19社 | 3社 | 4社 |
② 経済又は社会全般に対してどのような影響があるかを記載(①を除く) | 44社 | 47社 | 21社 | 20社 |
③ 経済全般の先行きが不透明又は影響がある旨のみ記載(①、②を除く) | 25社 | 10社 | 35社 | 27社 |
小計 | 171社 | 124社 | 82社 | 66社 |
記載なし | 27社 | 77社 | 116社 | 135社 |
合計 | 198社 | 201社 | 198社 | 201社 |
(注)「事業等のリスク」の記載を参照している場合には、参照先の記載内容から判断している。
<図表2> 本感染症及びウクライナ情勢への対処方針又は対応策の記載内容
記載内容(注) | 本感染症 | ウクライナ情勢 | ||
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
|
感染拡大防止に取り組み事業活動を継続していく旨 | 46社 | 13社 | - | - |
新たな需要に対応する商品やサービスの提供、増産や安定供給に取り組む旨 | 36社 | 21社 | 4社 | 3社 |
将来計画や事業戦略に織り込んだ旨 | 29社 | 19社 | 2社 | 4社 |
在宅勤務や業務のデジタル化の推進等を行う旨 | 25社 | 11社 | - | - |
既存のコストを削減していく旨 | 5社 | 2社 | 3社 | - |
具体策は示さず、影響を注視する、柔軟又は慎重に対応する旨を記載 | 9社 | 8社 | 9社 | 7社 |
その他 | 2社 | - | 4社 | - |
合計 | 152社 | 74社 | 22社 | 14社 |
(注)複数の項目を記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。
<図表1>のとおり、経営環境についての経営者の認識の説明において影響を記載している会社は、本感染症については2022年3月期から減少し124社(61.7%)、ウクライナ情勢については66社(32.8%)となった。特に、本感染症について、経済が回復した旨を記載している会社が40社あり、会社に与える影響が軽微になったことから本感染症の影響に関する記載を省略する会社が増えたと考えられる。また、<図表2>のとおり、対処方針又は対応策の記載内容を記載した会社は、本感染症については「新たな需要に対応する商品やサービスの提供、増産や安定供給に取り組む旨」や「将来計画や事業戦略に織り込んだ旨」を記載していた一方で、ウクライナ情勢については、そのような対処方針又は対応策を記載した会社は少数であり、「具体策は示さず、影響を注視する、柔軟又は慎重に対応する旨を記載」した会社が最も多かった。
(2) 事業等のリスク
調査対象会社(201社)を対象に、「事業等のリスク」において、本感染症及びウクライナ情勢に関連するリスク及び当該リスクに対する対応策を記載しているか、開示状況を調査した。調査結果は<図表3>のとおりである。
「事業等のリスク」に関連するリスクを記載している会社は、本感染症については2022年3月期に引き続き大半の175社(87.1%)、ウクライナ情勢については47社(23.4%)であった。このうち、当該リスクに対する対応策を「事業等のリスク」に記載している会社は、本感染症については2022年3月期に引き続き大半の140社(69.7%%)、ウクライナ情勢については25社(12.4%)であった。
リスクの記載内容は、本感染症については<図表4>のとおりであった。本感染症に関するリスクの記載は、2022年3月期とおおむね近い傾向であったが、「自然災害・感染症リスク」のように自然災害と並列してリスクを開示する会社が多く見受けられた。また、「操業の中止等の事業の停止リスク」や「需要の減少を含む販売市場の環境に及ぼすリスク」を記載した会社が多かった。
<図表3> 本感染症及びウクライナ情勢に関するリスクの記載状況
記載状況 | 本感染症 | ウクライナ情勢 | ||
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
|
リスクの記載あり | 185社 | 175社 | 45社 | 47社 |
(うち、リスクへの対応策の記載あり) | 153社 | 140社 | 23社 | 25社 |
リスクの記載なし | 13社 | 26社 | 153社 | 154社 |
合計 | 198社 | 201社 | 198社 | 201社 |
<図表4> 本感染症に関するリスクの記載内容
記載内容(注1) | 2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
操業の中止等の事業の停止リスク(注2) | 140社 | 142社 |
需要の減少を含む販売市場の環境に及ぼすリスク | 88社 | 74社 |
サプライチェーンの中断リスク | 46社 | 40社 |
取引先の信用リスクの悪化 | 19社 | 17社 |
資産価値の毀損リスク | 12社 | 9社 |
資金調達リスク | 8社 | 2社 |
在宅勤務の拡大に伴う情報流出リスク | 4社 | - |
追加的な債務負担リスク | 3社 | 2社 |
その他 | 11社 | 6社 |
(注1)複数の項目を記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。
(注2)自然災害に関するリスクに本感染症の内容を含めて記載している場合には、「操業の中止等の事業の停止リスク」としてカウントしている。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年9月20日号 No.1688「2023年3月期「有報」分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
2023年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:総会前提出 (2023.11.20)
- 第2回:コーポレート・ガバナンスの状況等①(取締役会及び監査役会等の記載状況) (2023.11.21)
- 第3回:コーポレート・ガバナンスの状況等②(内部監査の状況) (2023.11.22)
- 第4回:コーポレート・ガバナンスの状況等③(株式の保有状況) (2023.11.24)
- 第5回:コロナ/ロシア・ウクライナ関連開示 (2023.11.27)
- 第6回:時価算定適用指針(改正適用指針) (2023.11.28)
- 第7回:グループ通算制度に関する注記 (2023.11.29)
- 第8回:グループ通算制度を適用している会社 (2023.11.30)
- 第9回:グローバル・ミニマム課税制度 (2023.12.01)
- 第10回:早期適用した会計基準(電子記録移転有価証券表示権利等) (2023.12.04)
- 第11回:未適用の会計基準等に関する注記 (2023.12.05)
- 第12回:2年目の収益認識注記開示分析①(重要な会計方針の注記、収益を理解するための基礎となる情報) (2023.12.06)
- 第13回:2年目の収益認識注記開示分析②(収益の分解情報) (2023.12.07)
- 第14回:2年目の収益認識注記開示分析③(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報) (2023.12.08)