2020年3月期 有報開示事例分析 第1回:収益認識基準(早期適用)

2021年5月26日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 加藤 大輔

Question

収益認識に関する会計基準の早期適用会社(2020年3月決算会社)における適用初年度の取扱いの記載状況は?

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:2020年8月
  • 調査対象期間:2020年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する2,415社

① 3月31日決算
② 2020年7月末までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している

【調査結果】

調査対象会社2,415社のうち、2020年3月期に収益認識に関する会計基準(以下「収益認識会計基準」という。)を早期適用した会社は7社であった。収益認識会計基準の適用初年度においては、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する方法(以下「原則的な取扱い」という。)と、適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当期首残高から新たな会計方針を適用する方法(以下「84項ただし書きの取扱い」という。)が認められている。この点、当該7社のすべてが84項ただし書きの取扱いを適用していた(<図表1>参照)。また、84項ただし書きの取扱いを選択する場合、1つ又は複数の実務上の便法(<図表2>参照)の適用が認められており、当該実務上の便法の適用状況は、<図表3>のとおりであった。

<図表1> 収益認識会計基準等に係る適用初年度の取扱い

区分 原則的な取扱い 84項ただし書きの取扱い 合計
2020年3月期に早期適用を行った会社 0 7 7

<図表2>収益認識会計基準84項ただし書きにおける実務上の便法

収益認識会計基準84項ただし書きの取扱いを選択する場合、以下の方法の1つ又は複数を適用することが認められている(収益認識会計基準86項)。

  • 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないこと(以下「86項本文の取扱い」という。)
  • 契約変更について、次の(1)又は(2)のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減すること

(1)適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の①から③の処理を行うこと(以下「86項また書き(1)の取扱い」という。)

①履行義務の充足分及び未充足分の区分
②取引価格の算定
③履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

(2)適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、(1)の①から③の処理を行うこと(以下「86項また書き(2)の取扱い」という。)

<図表3>収益認識会計基準等に係る適用初年度の取扱い - 84項ただし書きにおける実務上の便法の適用状況

区分 84項ただし書きにおける実務上の便法の適用なし 84項ただし書きにおける実務上の便法(※) 合計
86項本文の取扱い 86項また書き(1)の取扱い 86項また書き(2)の取扱い
2020年3月期に早期適用を行った会社 3 2 4 0 9

(※)同一の会社で複数の項目を記載している場合、それぞれ1社としてカウントしている。

(旬刊経理情報(中央経済社)2020年10月10日号 No.1591「2020年3月期 「有報」分析」を一部修正)