出版業 第2回:出版業ビジネスの収益認識

2024年7月3日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター
公認会計士 内川裕介/吉野 緑/峰 麻衣子

1. 収益認識基準の影響

(1) 返品権付販売に係る会計処理

企業会計ナビ『出版業ビジネスの概要』で述べたとおり、出版業界では委託販売制度のもと、返品を前提とした返品条件付き販売となっています。そのため、従来は将来に返品が予想される金額に対して、返品調整引当金を計上するという会計実務が行われてきました。

2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から、「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識基準」)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識基準適用指針」)が原則適用となっています。この収益認識基準の適用により、従来の返品調整引当金の計上は認められなくなり、新たに返金負債と返品資産の計上が行われることになりました。

この返金負債・返品資産の仕訳例を示すと次のとおりとなります。

(売上時点)

(売上時点)

返金負債については、返品部分の対価が変動することで、顧客と約束した対価の一部が変動する可能性があることから、収益認識基準における変動対価の見積りが論点となります。返金負債については、「顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識する」とされており(収益認識基準第53項)、どのような方法が返金負債の最善の見積方法になるかは、顧客との契約内容や実務慣行に照らして慎重に検討する必要があります。

また、返品資産とは、返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利(収益認識基準適用指針第85項(3))をいいます。この返品資産については、商品又は製品の価値の潜在的な下落の見積額も控除する必要がある点について留意が必要となります(収益認識基準適用指針第88項)。

収益認識基準の適用により、2018年度税制改正によって税法上の返品調整引当金も廃止されています。ただし、経過措置として、2018年4月1日において返品調整引当金制度の対象事業を営む法人の2021年3月31日までに開始する各事業年度について、改正前の規定による損金算入限度額による引当が認められるとともに、2021年4月1日から2030年3月31日までの間に開始する各事業年度については、改正前の規定による損金算入限度額に対して1年ごとに10分の1ずつ縮小した額の引当が認められています。この経過措置を適用した場合、会計と税務に差異が生じる可能性がありますので、税効果会計の適用に当たり留意が必要です。

(2) 顧客に支払われる対価の処理

取次との取引においては、新刊の刊行時や重版時などまとまった冊数を配本する際の手数料としての売上歩戻や販売奨励金等のリベートが取次に対して発生する実務慣行があります。これらの費用は、販売費及び一般管理費として処理する会計実務が多く行われてきました。

収益認識基準においては、「顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額する」とされており(収益認識基準第63項)、これらのリベートは売上高から控除する方法に変更されています。

2. 電子書籍ビジネスの収益認識

企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することによって、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識します。そして、財又はサービスは、顧客がその財又はサービスに対する支配を獲得した時点又は獲得するにつれて移転します(収益認識基準第35項)。

通常の紙書籍については、引渡時点で顧客が支配を獲得したと判断し、納品時点で収益認識する場合が多いと考えられます。

一方、電子書籍ビジネスにおいては、「顧客が支配を獲得した」と判断される時点が紙書籍と異なるため、留意が必要です。

電子書籍ビジネスの形態としては、(a)ユーザーが電子書籍を電子書籍リーダー等へダウンロードして閲覧する方法、(b)ユーザーが電子書籍をストリーミング配信により一定期間閲覧する方法等があります。

(a)の場合には一般的に、ユーザーが電子コンテンツをダウンロードした時点で顧客が支配を獲得したと考えられるため、当該時点での収益を認識することになります。ただし、出版社等の電子コンテンツの提供者は、電子取次や電子書店から書籍ごとのダウンロード数等の実績報告を受けることが多いと考えられますので、収益認識する時点については、実務を考慮して慎重な検討が必要です。

(b)の場合においては、履行義務は一定期間にわたり電子書籍をストリーミング可能な状態に保つことであると考えられるため、履行義務はストリーミング可能期間にわたって充足されるとの判断から、ストリーミング可能期間にわたって収益計上することが考えられます。

また、近年多くの電子書店において、読み放題サブスクリプションサービスが取り入れられています。この場合にも、前述の(b)の場合と同様に、提供するサービス期間にわたってサブスクリプション料金を収益計上することが考えられます。

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