EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
1. 権利確定日以前の会計処理の概要
(1) 会計処理の考え方
企業がその従業員等に対してストック・オプションを付与する場合、それに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上します(会計基準第4項)。
(2) 各会計期間における費用計上額
各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間(ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間)を基礎とする方法その他合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額となります。ここでいうストック・オプションの公正な評価額(A)とは、公正な評価単価(B)×ストック・オプション数(C)として算定されます(会計基準第5項)。
<費用計上の仕訳処理>
- ストック・オプションの公正な評価単価(B):5,000円/個
- ストック・オプションの数(C):6,000個
- 対象勤務期間:2年(期間に応じて発生。期首に付与)
- 権利行使や権利の失効その他については度外視
(X1年度の会計処理)
(注)5,000円/個×6,000個×12カ月/24カ月=15,000,000円
(3) 各会計期間における費用計上額算定上のポイント
各会計期間における費用計上額の算定においてポイントとなるのは、ⅰ公正な評価単価(B)をどのように算定するか、ⅱストック・オプション数(C)をどのように算定するか、ⅲストック・オプションの公正な評価額(A)を各会計期間にどのように費用配分するか、といえます。
2. ストック・オプションの公正な評価単価(B)の算定方法
(1) ストック・オプションの公正な評価単価(B)の算定時点
ストック・オプションの付与日現在で算定し、その後の見直しは行いません。ただし、行使価格を変更するなどの条件変更があった場合は見直しが必要になります(会計基準第6項(1))。
(2) ストック・オプションの公正な評価単価(B)の算定技法が満たすべき要件
ストック・オプションの公正な評価単価(B)は、本来はストック・オプションの市場価格をいいますが、ストック・オプションは通常、譲渡が禁止されており、市場で取引されていないため、市場価格を観察することができません。そこで、ストック・オプションの公正な評価額を見積るため、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている株式オプション価格算定モデルなどの算定技法を利用することが必要になりますが、次の要件を満たす算定技法でなければなりません(会計基準第6項(2)、適用指針第5項、第38項)。
- 確立された理論を基礎としており、実務で広く適用されていること
- 算定の対象となるストック・オプションの主要な特性(※)や条件を適切に反映するよう必要に応じて調整を加えていること(ただし、失効の見込数については、ストック・オプション数(C)に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない)
(※) 特性
1) 株式オプションに共通する特性
2) ストック・オプションに共通する特性
3) 算定対象である個々のストック・オプションに固有の特性
上記1)および2)に関するそれぞれの特性を公正な評価単価の算定に用いる算定技法に反映するために考慮すべき基礎や方法については、それぞれ適用指針第6項(下記(3)参照)、第7項(下記(4)参照)に示されています。
ストック・オプションの公正な評価単価の算定技法については、今後も進化していくものと考えられるため、会計基準等においては、公正な評価単価の算定技法について、特定の方法の採用を具体的に定めず、このように一般的な条件が示されています(適用指針第39項)。
(3) 株式オプションに共通する特定の算定技法への反映
株式オプションに共通する特性を、ストック・オプションの公正な評価単価の算定に用いる算定技法に反映するためには、使用する算定技法において少なくとも次の基礎数値が考慮されている必要があります(適用指針第6項)。
- オプションの行使価格
- オプションの満期までの期間
- 算定時点における株価(算定時点は付与日または条件変更日)
- 株価変動性(将来の予想値に関する最善の見積値)
- オプションの満期までの期間における配当額(将来の予想値に関する最善の見積値)
- 無リスクの利子率(割引率)
(4) ストック・オプションに共通する特性の算定技法への反映
ストック・オプションに共通する、譲渡が禁止(又は制限)されているという特性は、次の方法により、公正な評価単価の算定に用いる算定技法に反映します。
- ブラック・ショールズ式などの連続時間型モデルによる算定技法を用いる場合には、上記(3)のⅱ オプションの満期までの期間に代えて、算定時点から権利行使されると見込まれる平均的な時期までの期間(予想残存期間)を用いるとされています(適用指針第7項(1))。
- 二項モデルなどの離散時間型モデルによる算定技法を用いる場合には、算定時点から上記(3)のⅱ オプションの満期までの期間全体の株価変動を想定した上で、株価が一定率以上に上昇した時点で権利行使が行われるなど、従業員等の権利行使などに関する行動傾向を想定するとされています(適用指針第7項(2))。
(5) その他ストック・オプションの公正な評価単価の算定について留意すべき事項
- 算定技法の変更
算定技法の変更が認められるのは、従来と異なる特性を有するストック・オプションを新たに付与する場合や新たにより優れた算定技法が開発されたことで、より信頼性の高い算定が可能となる場合など、一部のケースのみとなります(適用指針第8項)。 - 基礎数値の見積り
算定技法で用いる基礎数値の見積りに当たっては、原則として、客観的な過去の情報を基礎としつつ、個別のケースに応じて合理的な調整を行うことになります(適用指針第9項)。
この記事に関連するテーマ別一覧
ストック・オプション
- 第1回:会社法における取扱いと会計基準の概要 (2019.06.28)
- 第2回:権利確定日以前の会計処理について(1) (2019.06.28)
- 第3回:権利確定日以前の会計処理について(2) (2019.06.28)
- 第4回:権利確定日以後の会計処理について (2019.06.28)
- 第5回:条件変更があった場合の会計処理 (2019.06.28)
- 第6回:未公開企業における取り扱い (2019.06.28)
- 第7回:親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合 (2019.06.28)
- 第8回:自社株式オプションまたは自社の株式を用いる取引 (2019.06.28)
- 第9回:開示 (2019.06.28)
- 第10回:有償ストック・オプション (2019.10.04)