監査上の主要な検討事項(KAM) 第2回:詳細

2024年10月21日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山 文隆

はじめに

第1回:概要」においては、KAMの概要、報告目的及び期待される効果等を紹介致しました。「第2回:詳細」においては、KAMについて理解を深めて頂くために、KAMとして記載されている具体的な項目及びKAMと関連する有価証券報告書の記載項目を紹介致します。

1. KAMとして記載されている具体的な項目

KAMとして記載されるのは当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項であり、業種や企業規模によって様々です。KAMとして記載されている具体的な項目としては以下が挙げられます。

  • 会計上の見積り
    • 固定資産の評価(のれんを含む)
    • 繰延税金資産の評価
    • 投融資の評価
    • 棚卸資産の評価
  • 収益認識
  • 組織再編

参考:日本公認会計士協会、「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート 、2021年10月29日、13ページ~16ページ、jicpa.or.jp/specialized_field/20211029fgf.html(2024年9月30日アクセス)

これらは監査上、特に重要であると判断される事が多いため、KAMとして記載される事も多くなっています。監査上、重要と判断される主な理由としては以下が考えられます。

  • 経営者の判断に依存する程度が高く、見積りの不確実性の程度が高いため
  • 財務諸表における金額的重要性が高いため
  • 会計方針の適用等に複雑な判断を伴う、または対象となる財務数値の作成過程が複雑であるため
  • 監査手続を実施するために、または当該手続の結果を評価するために専門的な知識や技能が必要であるため

参考:日本公認会計士協会、「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート、2021年10月29日、17ページ~19ページ、jicpa.or.jp/specialized_field/20211029fgf.html(2024年9月30日アクセス)

なお、KAMの記載内容は企業によって様々であるため、当該解説シリーズにおいて開示事例は取り上げていません。そのため、具体的な記載内容については各社の有価証券報告書をご確認下さい。

2. KAMと関連する有価証券報告書の記載項目

KAMは監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項です。そのため、有価証券報告書のうちKAMを確認する事で、企業の財務情報の中でも特に重要な取引やリスクの高い項目をピンポイントで確認する事ができます。更に、有価証券報告書における経理の状況の注記事項や経理の状況以外の関連項目と合わせて読む事で、当該項目についてより理解を深める事ができます。このパートでは、「1.KAMとして記載されている具体的な項目」で取り上げた項目のうち、会計上の見積り、組織再編及び収益認識についてKAMと関連する有価証券報告書の記載項目を紹介致します。

参考:EY新日本有限責任監査法人「3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(第3版)」(中央経済社、2022年4月25日、16ページ~21ページ)

① 会計上の見積り

会計上の見積りのうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目については経理の状況において注記事項「重要な会計上の見積り」(以降、「見積り注記」という)を記載することとされています。具体的には翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について以下の項目を注記します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第7~8項)。

  • 当年度の財務諸表に計上した金額
  • 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報(当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響)

固定資産の評価(のれんを含む)や繰延税金資産の評価、投融資の評価等の会計上の見積りがKAMとして記載されている場合、KAMにおいて当該見積り注記を参照している事が多く、見積り注記と合わせて読む事で詳細な情報を確認できます。

例えば、図1では有形固定資産の評価をKAMとしており、見積り注記を合わせて読む事で、将来キャッシュ・フローの見積りにおける主要な仮定の具体的な算定方法を理解する事ができます。また、有価証券報告書における見積り注記では財務諸表に計上した金額の比較情報が記載されているため前事業年度からの状況変化も確認する事ができます。図1においては当事業年度において多額の減損損失を計上しており、翌年度の財務諸表に影響を及ぼすリスクは減少している点が読み取れます。

図1 有形固定資産の評価をKAMとしている場合のイメージ

図1 有形固定資産の評価をKAMとしている場合のイメージ

② 組織再編

企業結合や事業分離等の組織再編が行われた場合には、組織再編における取得原価の配分やのれんの償却年数等の様々な会計論点が生じます。これらの会計論点は見積りの不確実性、金額的重要性及び複雑性が高いだけではなく、監査手続を実施するために専門的な知識や技能が必要である事が多いためKAMとして選定される事が多いです。

ここで、組織再編については重要性が乏しいときを除き、経理の状況において注記事項「企業結合等関係」(以降、「企業結合等注記」という)を記載することとされています(企業結合に関する会計基準 第49~54項、事業分離等に関する会計基準 第28項及び54項)。当該注記においては組織再編に関する詳細な情報が記載されています。そのため、組織再編をKAMとして記載している場合、企業結合等注記も合わせて読む事でより理解を深める事ができます。

例えば、図2では当年度の企業結合をKAMとしており、企業結合等注記を合わせて読む事で、取得価額やのれんの計上額以外にも企業結合を行った主な理由、企業結合により受け入れた資産及び負債の内訳や連結損益計算書に及ぼす影響等の詳細な情報を確認する事ができます。

図2 企業結合をKAMとしている場合のイメージ

図2  企業結合をKAMとしている場合のイメージ

また、組織再編は企業において対象期の重要なトピックスとなっている事も多く、有価証券報告書だけではなく、決算説明資料やその他IR資料等も合わせて確認する事でより理解が深まると考えられます。


③ 収益認識

経理の状況の注記事項「収益認識関係」(以降、「収益認識注記」という)においては、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示するため、以下の項目を注記することとされています(収益認識に関する会計基準 第80-4~80-5項)。

  • 収益の分解情報
  • 収益を理解するための基礎となる情報
  • 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

そのため、収益認識をKAMとして記載している場合、収益認識注記と合わせて読む事でより詳細な情報を確認する事ができます。また、収益の源泉となる事業内容についてより詳細に把握したい場合には「第1 企業の概況」における事業の内容、「第2 事業の状況」における事業等のリスク、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析も確認することで理解が深まると考えられます。

図3 収益認識をKAMとしている場合のイメージ

図3 収益認識をKAMとしている場合のイメージ

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