税効果会計(平成27年度更新) 第5回:連結財務諸表と税効果会計

2018年10月1日
カテゴリー 解説シリーズ

2016.05.13
(2018.10.01更新)

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 浦田 千賀子
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 村田 貴広
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 加藤 大輔

1. 未実現損益の消去に関する事項

連結会社間の資産の売買取引で、当該資産がグループ外に販売されず、連結グループ内にとどまっている場合において、当該取引により売却元の連結会社が計上した損益を未実現損益といいます。以下特に断りのない限り未実現利益を前提とします。

税効果会計の方法には資産負債法と繰延法の二つがあります。我が国では、国際財務報告基準と同様に資産負債法によることとされていますが、実務上の負担等を考慮し、未実現利益の消去に係る税効果においては例外的に繰延法が採用されています。

1 資産負債法と繰延法の具体的な相違

  資産負債法 繰延法
税効果の計算に用いる税率 一時差異の解消見込年度(売却先)に適用される税率 未実現利益が発生した売却元に適用された税率
繰延税金資産の回収可能性の検討 繰延税金資産の回収可能性の検討が必要 繰延税金資産の回収可能性の検討は不要。ただし、繰延税金資産の計上額に上限あり。

図2 連結会社間の売買取引例

図2 連結会社間の売買取引例

図2のケースでは、資産の売却元である親会社においてすでに課税済みである200の利益は連結上、未実現利益として消去されます。ここで、個別上の簿価と連結上の簿価に差異が生じるため、税効果を認識することとなりますが、当該税効果の計算を行うにあたり、税金を計上した親会社と、一時差異の対象となった資産を有する子会社のどちらの実効税率を用いるのかが問題となります。この点、資産負債法では、一時差異が生じている資産を有する子会社の実効税率を用いて繰延税金資産を計算することとなりますが、我が国では未実現利益の消去に係る税効果については、繰延法を採用しているため、売却元である親会社の実効税率を用いて繰延税金資産を計算することとなります。

未実現利益の消去に係る税効果仕訳

未実現利益の消去に係る税効果仕訳

60=未実現利益200 × 親会社の実効税率30%

繰延法は売却元で計上された税金費用を将来に繰り延べるものであるため、繰延税金資産の回収可能性の検討は不要となりますが、計上した税金費用以上に繰延税金資産を計上することはできない点に留意が必要です。

2. 100%グループ内の法人間の資産の譲渡損益を繰り延べる場合の税効果会計

グループ法人税制や連結納税制度のもとでは、一定の要件(100%グループ内の内国法人間で譲渡される簿価1,000万円以上の固定資産や土地など)を満たす、連結会社間の資産の売買取引により生じた譲渡損益は税務上、繰延べられることとなります。

1. 繰り延べられた譲渡損益に係る税効果仕訳

税務上、譲渡益を繰り延べると、対応する税金は将来に納付することとなるため、当該資産を譲渡した会社の個別財務諸表上、繰延税金負債が計上されます。

繰り延べられた譲渡損益に係る税効果仕訳

2. 未実現利益の消去に伴う税効果の仕訳

当該譲渡益が連結上未実現利益として消去された場合、対応する税効果を認識することとなります。

未実現利益の消去に伴う税効果の仕訳

3. 繰延税金資産と繰延税金負債の相殺

1. において計上した、譲渡益に係る一時差異に対する繰延税金負債と2. において計上した、未実現利益の消去に係る繰延税金資産を相殺することとなります。このため、結果として、個別財務諸表上、計上された繰延税金負債は消去される形となります。

繰延税金資産と繰延税金負債の相殺

なお、連結会社間において子会社株式等を売却した場合は、上記とは取扱いが異なるため、留意する必要があります(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」39項)。

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