公認会計士 浦田千賀子
公認会計士 村田貴広
1. 繰延税金資産の回収可能性に関する判断指針
繰延税金資産は、将来の課税所得を減少させることにより、将来の税負担を軽減することが認められることを条件に資産計上が認められる資産です。よって将来の課税所得を減少させ、税負担を軽減すると認められる範囲での計上が要求されており、繰延税金資産の計上は、将来減算一時差異のスケジューリングなど、慎重かつ十分な検討を行い決定することが必要です。以下では、その判断要件について説明します。なお、繰延税金資産は、その後の事業年度に回収不能が明らかになり、取り崩しがなされることがあります。
繰延税金資産が計上されている事業年度に繰延税金資産に相当する金額が、配当の原資として使われる場合には、繰延税金資産計上時点に遡って繰延税金資産計上の妥当性を問われることがあり、当時の配当決議が違法配当と判断される可能性があることに十分留意する必要があります。
(1) 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得※1の十分性
繰延税金資産の回収可能性の判断において、まず収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性が問題とされます。収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性は、将来減算一時差異の解消見込年度ないし税務上の繰越欠損金の繰越が認められる期間において一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるか否かにより判断されることとなります。
一時差異等加減算前課税所得が発生する可能性が高いかどうかを判断するためには、合理的な仮定に基づく業績予測によって、将来の一時差異等加減算前課税所得の額を見積る必要があります。実務においてこの将来の一時差異等加減算前課税所得を合理的に見積ることが最も難しいと考えられます。
※1 一時差異等加減算前課税所得とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の金額を除いた額のことをいいます。
(2) タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得
タックス・プランニングとは、将来減算一時差異の解消見込年度や税務上の繰越欠損金の繰越期間に、具体的な一時差異等加減算前課税所得を発生させることを計画することをいいます。含み益のある固定資産または有価証券を売却するなどタックス・プランニングが存在することにより、将来減算一時差異等の減算が生じる年度における一時差異等加減算前課税所得を確保することで繰延税金資産の回収可能性が確実なものとなります。
(3) 将来加算一時差異
① 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性
将来減算一時差異の解消見込年度に、将来加算一時差異が解消されると見込まれるかどうか。
② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性
繰越期間に税務上の繰越欠損金と相殺される将来加算一時差異が解消されると見込まれるかどうか。
2. 繰延税金資産の計上限度額と回収可能性の見直し
将来減算一時差異と税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、回収可能性の判断要件を考慮した結果、当該将来減算一時差異(複数の将来減算一時差異が存在する場合には、それらの合計)及び税務上の繰越欠損金が将来の課税所得を減少させ、税金負担額を軽減する効果を有さなくなったと判断される場合があります。当該部分については、評価性引当額として繰延税金資産を計上しないことになります。
また、繰延税金資産の計上額は毎期見直し、回収可能性がなくなった場合には、計上されていた繰延税金資産のうち回収可能性がない金額を取り崩さなければなりません。
3. 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順
繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の具体的な手順は、以下の図のとおりに行います。
また期末に税務上の繰越欠損金を有する場合、その繰越期間にわたって将来の課税所得の見積額に基づき、税務上の繰越欠損金の控除見込年度及び控除見込額のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上します。
この記事に関連するテーマ別一覧
税効果会計(平成27年度更新)
- 第1回:「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」について (2016.04.12)
- 第2回:税効果会計の意義と計算構造 (2016.05.13)
- 第3回:繰延税金資産の回収可能性 (2016.05.13)
- 第4回:繰延税金資産の回収可能性 (2016.05.13)
- 第5回:連結財務諸表と税効果会計 (2016.05.13)
- 第6回:その他有価証券の評価差額に対する税効果会計 (2016.05.17)