2021年6月第1四半期 四半期報告書分析 第1回:収益認識会計基準(会計方針の変更注記)

2022年2月9日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 清宮 悠太

Question

2022年3月期決算会社の第1四半期決算において、「収益認識に関する注記」に記載される収益に関する会計方針の変更注記の開示状況は?

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:2021年10月
  • 調査対象期間:2021年6月30日
  • 調査対象書類:四半期報告書
  • 調査対象会社:2021年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する189社

① 3月31日決算
② 2021年6月30日(法定提出期限)までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している
④ 2021年4月1日より開始する連結会計年度の期首からIFRS(国際財務報告基準)へ移行した会社を除く
⑤ 2021年3月期までに収益認識会計基準を早期適用済みの会社及び会計方針の変更注記を記載していない会社を除く

【調査結果】

1. 収益認識等の変更内容の分析

調査対象会社(189社)を対象として、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)の適用による主な収益認識方法等の変更内容を調査した。

調査結果は、<図表1>のとおりであった。

「本人・代理人取引に係る収益認識」方法の変更を行った会社が合計84社(うち純額表示(本人→代理人)76社、総額表示(代理人→本人)8社)と最も多かった。なお、①本人取引として総額表示していた方法から、②代理人取引として純額表示する方法に変更した会社76社の業種別の内訳としては、陸運業が18社であり、最も多かった。調査対象会社(189社)のうち陸運業の会社は19社であり、このうち94.7%(18社/19社)の会社が収益認識方法を純額表示(本人→代理人)に変更していた。

次に「変動対価が含まれる取引に係る収益認識」と「商品及び製品販売・サービス提供に係る収益認識」がいずれも53社であった。「変動対価が含まれる取引に係る収益認識」(53社)のうち、業種別では食料品(8社)が最も多かった。これは、主に業界慣行として販売奨励金・リベート等の支払いを日常的に行うことが多い影響と考えられる。また、「商品及び製品販売・サービス提供に係る収益認識」(53社)のうち、業種別では陸運業(15社)が最も多かった。これは、主に陸運業に分類される鉄道会社における定期券の収益認識方法が変更されたこと(たとえば、発売日を基準に月割で収益を認識していた方法から、有効開始日を基準に月割で収益を認識する方法への変更など)によるものであった。

その他、「工事契約に係る収益認識」(38社)については、建設業が15社と最も多かった。

<図表1>収益認識会計基準の適用による主な収益認識等の変更内容

  会社数(※1)
本人・代理人取引に係る収益認識(※2) 純額表示(本人→代理人) 76
総額表示(代理人→本人) 8
変動対価が含まれる取引に係る収益認識(※3) 53
商品及び製品販売・サービス提供に係る収益認識(※4) 53
工事契約に係る収益認識(※5) 38
有償支給取引に係る会計処理(※6) 16
製品販売に関連して提供されるサービスの収益認識(※7) 14
収益認識適用指針(※8)98項に定める代替的な取扱いを適用(※9) 10
その他(※10) 14
変更内容の具体的な記載なし 33
合計 315

※1 同一の会社で複数の項目を記載している場合、それぞれ1社としてカウントしているため、合計社数は189社とは一致しない。

※2 主に顧客への財又はサービスの提供における会社グループの役割(本人又は代理人)が、代理人に該当する取引については顧客から受け取る額から仕入先等に支払う額を控除した純額で収益を認識し、本人に該当する取引については、顧客から受け取る対価の総額を収益として認識する方法に変更することなど。

※3 主に販売奨励金・リベート等の顧客に支払われる対価について、売上原価、販売費及び一般管理費等の費用として処理する方法から、売上高から減額する方法への変更など。

※4 主に履行義務の充足に応じた収益認識方法への変更など。

※5 主に工事契約について、進捗(しんちょく)部分について成果の確実性が認められる工事については工事進行基準を適用し、その他の工事については工事完成基準を適用していた方法から、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき一定の期間にわたって収益を認識する方法への変更など。

※6 主に有償支給取引について、外部へ有償支給した支給品について消滅を認識する方法から、支給品を買い戻す義務を負っている場合の当該支給品の消滅を認識しない方法への変更など。

※7 主に製品に関連するサービス契約(メンテナンスサービス等)に係る収益について、従来は契約開始時に収益を認識する方法によっていたところ、契約における履行義務を充足するにつれて顧客が便益を享受するため、一定の期間にわたり収益を認識する方法に変更することなど。

※8 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」を略したもの。

※9 主に商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転されるときまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時に収益を認識することとしているケース。

※10 10社未満をその他としている。

2. 適用に伴う経営成績への影響分析

次に、調査対象会社(189社)を対象として、適用に伴う経営成績(主に売上高と営業損益)への影響の有無を確認するため、会計方針の変更の注記内容を調査した。

調査結果は、<図表2>のとおりであった。

売上高については、収益認識会計基準の適用に伴って減少した会社が93社と最も多かった。当該93社のうち、53社は収益認識の変更内容として本人取引から代理人取引への変更(純額表示)を行った会社であった。

一方、営業損益については、影響が軽微である旨を記載した会社が最も多く、55社であった。

<図表2>収益認識会計基準の適用に伴う影響の分析

区分 会社数(※1、2)
売上高への影響(※3)
営業損益への影響(※4)
影響あり 増加 36 42
減少 93 44
影響が軽微である旨を記載 42 55
影響がない旨を記載 11 24
影響に関する記載なし 7 24
合計 189 189

※1 収益認識会計基準の適用初年度において、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する方法(収益認識会計基準84項本文)を適用している会社については、前連結会計年度の売上高及び営業損益へ与える影響を調査対象としている。

※2 連結財務諸表を作成していない会社については、個別財務諸表上の売上高及び営業損益への影響を調査対象としている。

※3 売上高のほか、営業収益、収益、経常収益等を含む。

※4 金融業等で営業損益の表示がない場合には、経常損益で判定している。また、営業損失が縮小している場合には「増加」としてカウントし、営業損失が拡大している場合には、「減少」としてカウントしている。

(旬刊経理情報(中央経済社)2021年11月1日号 No.1626「2021年6月第1四半報における収益認識・コロナ禍関連の開示分析」を一部修正)